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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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不死鳥

 俺達が辿り着いたのは、岩肌しか存在しないドーム状の空間。壁にいくつも光が存在し、それにより内部が綺麗に照らされ――なんだか俺達を迎え入れる準備を整えているようにも感じられた。


『――ようこそ、私の住処へ』


 声……女性的な声と共に、目の前の地面から炎が噴き上がる。見た目は炎だがまったく熱を感じないそれは、やがて形を成し炎に包まれた翼を広げる巨大な鳥の姿を見せる。


 さらに、その体が浮き始める。翼をはためかさなくともそうしたことができるのは、風の魔法か何かを使用しているのだろう。


『ここは我が説明しよう』


 そこでガルクの声。同時、小さな姿をしたガルクが俺の右肩に現れる。


『久しいな、フェウス』

『ずいぶんと可愛らしい姿なのね、ガルク』

『そうだな……さて、まずはここに来た経緯などから説明しよう』


 ガルクは語り出す。その間フェウスは空中に留まり話を聞く……威圧しているというわけでは決してないと思うが、自身の存在を見せつけるような雰囲気は垣間見れる。


『――興味深い話ばかりね』


 やがてガルクが話し終えた時、フェウスはそう口にした。


『魔王との戦い、一筋縄ではいかないというのは理解できた』

『ならば、協力してもらえるな?』


 だが、その問い掛けにフェウスは沈黙した。


「……無理、ってことか?」


 こちらが問うと、フェウスは真紅の瞳を俺へと向けた。


『大陸の危機が迫る以上、私が協力することは問題ない』

「なら――」

『けれど、本当にあなたが大陸を救える技量を持っているのか、それを見極める必要があるわね』


 ――ああ、結局こういう形となるのか。


『だそうだが、ルオン殿』

「わかったよ」


 俺はあきらめの境地に至りつつ、頷いた。ここで、後方から声が。


「ルオン様、ご武運を」

「ルオン、負けたら容赦しないぞ」

「ルオンさん、神霊を成敗してやれー」


 ソフィア、シルヴィ、クウザが口々に述べる。というかソフィア以外はなんというか、ものすごく適当な応援だな。


「戦いに際し、ルールはあるのか?」


 俺はまずフェウスに質問。すると相手は話し出した。


『私は不死……どれほど滅されても復活する存在である以上、私の敗北はあり得ない』


 ……ガルクの言う通り、自身の存在が至高のものだとでも言いたい雰囲気。それにガルクから説明されたとしても、俺の実力が半信半疑というのもあるのだろう。


『ちなみにですが、ガルク。あなたはルオンという人間に付き従っているという形ですか?』

『そうだな』

『わかりました』


 気配が一瞬変わった……表情は何一つ変わらなかったが、心の中でほくそ笑んでいるのが理解できる。

 つまりあれか。俺はガルクとアズアを倒したわけで、フェウスとしては俺を倒せば神霊の中で最高に位置すると考えているのか。


『――我から提案があるのだが』


 ここで、ガルクが唐突に話し出した。


『戦いについては、双方が納得するまでという形はどうだ?』


 それって実質、フェウスが従う気になるまで戦いは続くということにならないかと思ったが……目の前の不死鳥の様子を考えると、そうまでしないと協力してもらえなさそうな雰囲気。


『納得? 私としては構わないけれど、いいのかしら? 制約の一つでもなければ、私があなたの従う人間を倒してしまうけれど』

『ああ、構わない』


 あっさりと言うガルク。次いで俺へと視線を向ける。


『ルオン殿、フェウスは基本不死身だ。倒しても蘇る特性を持っているのは間違いない……その復活にも仕組みがあるため無条件で不死というわけではないが、ルオン殿が条件を満たすのは難しいだろう』

『復活できないなんて状況はあり得ないから、ご心配なく』


 ……そこまで追い込むか、圧倒的な力を見せつけて納得させるかのどちらかしかなさそうだ。

 ともかく、やることはシンプル――その傲慢さを打ち砕く。


『それともう一つ。ルオン殿の仲間だが――』

『私が少しばかり護ってあげるわ』


 言うや否や、俺を除いた面々が突如赤色の結界に取り込まれた。


『仲間を気にしていては、全力で戦えないものね』

「……全力が通用しないというのを、俺に教え込ませる意味合いがありそうだな」

『そうね』


 フェウスは認める……ま、これで不安要素は消えた。思う存分やらせてもらおう。俺は軽く肩を回した後、剣を抜いた。


「ルオン様……!」


 後方からソフィアの声。そこで俺は一度振り向き、


「心配するな、ソフィア。それとよく見ておいてくれ。今後ソフィアも色々と技を習得することになるからな。その参考になるはずだ」


 言葉の直後、魔力が噴きあがる。フェウスが戦闘態勢に入った。


『準備はよろしい?』

「ああ……始めようか」


 俺が応じると共に、フェウスの魔力がさらに高まる――こうして、最後の神霊を屈服させるための戦いが始まった。






 フェウスが魔力を高めているのを見て、俺は赤い熱線を放つ中級魔法『ブレイズレイ』が来ると悟る。こちらが動き出そうかと考えた矢先、詠唱もなく魔法が放たれた。

 以前ラディが放っていたレベルとは別物――俺の体どころか周囲すらも飲み込む熱線が襲い掛かる。


「おっと」


 だが俺はそれを横に移動し避けた。フェウスは『あら』と一つ呟きつつ、さらなる魔法を放とうとする。


「――それじゃあ、いくか」


 対する俺は詠唱を開始し魔力を高める。フェウスはそれが何か予想したらしく、声を発する。


『火には水、といったところかしら』

「ご名答」


 声と共に放ったのは水属性中級魔法『ストリームインパルス』。水流が生じ、フェウスを押し潰すように魔法が放たれる――


『確かに威力はあるわね』


 フェウスは一つ呟き、まとう炎をさらに高める。結果、水流が一気に蒸発し、魔法の効果が喪失する。


『甘いわね。火だからといって水が弱点だとは限らないでしょう?』

「まあそうだな。けど――」


 俺は一気に接近する。単なる水属性の魔法が駄目なら、もう一つある。


 フェウスはさらに『ブレイズレイ』を使用し、俺はそれを避ける。中級魔法で対処しているのは、俺のことを舐めているからか、それともまだ様子見なのか。


 まあそれも今の内……思っている間に、俺の握る剣に水をまとわせる。


『今度は技?』

「そうだ」


 答えた瞬間、刀身から水流が生じる。それはあたかも剣が伸びたような形状に変化し、フェウスへ放つ。


『通用するかしら?』


 フェウスは俺が放った水流をあっさりと弾く――が、ここからだ。


 俺が放とうとしているのは上級魔導技である『水牢流星』という乱舞技。剣を振る度に放たれる水流が対象を取り囲み、最後は全方位から押し潰すという技だ。

 フェウスにこれが通用するかはわからないが、俺は剣を振る。水流がフェウスの周囲に生じ始め、徐々に不死鳥を取り囲んでいく。


『この技は――』


 フェウスが声を発した。そこで俺は容赦なく、トドメの斬撃を叩き込んだ。

 その結果、水流が一気に収束し、押し潰す。水の中でフェウスの体が崩れ落ち……墜落する。


 手応えは確かにあったが、ここまであっさりとやられるというのは……フェウスとしてもまだ小手調べということだろうか。


 水流が消える――次の瞬間、先ほどフェウスがいた真下の地面から突如炎が噴きあがった。それは火柱となり、中から元のように上空に留まる不死鳥の姿が現れる。


『今のは、中々面白かったわね』


 その言葉に俺は小さく肩をすくめる。


「ずいぶんと余裕があるな」

『一度くらい私のことを倒してもらわなければ、お話にならないもの』


 声音はあくまで余裕。


『そしてあなたの実力を拝見することはできた……けど、それと同時に底を知ることにもなった』

「底?」

『私を一度でも滅する……そうした能力を持つ人間は非常に少ない』

「口上からすると……以前にも、挑戦しにきた奴がいたのか?」

『大昔にね。私のことを従えようとした人間が』


 それは興味深い話だと思ったが……俺は黙ったままフェウスの言葉を待つ。


『けれど、その者の方が魔法の威力も高かった……結局私を従えることができなかったその人物よりも、あなたの魔法や技は弱い。これが、どういう意味かわかるかしら?』

「つまり、俺にあんたを従える資格はないって話か?」

『ご名答……ガルクやアズアを従えたという事実は本当なのでしょうけれど……私相手ではそうもいかない。つまり。実力的に他の神霊よりも上をいっているということかしら?』

「……なるほど、言いたいことはわかった。ただ、一つだけ過去の人間と俺とでは違うところがあると思うぞ」

『へえ、それは?』


 フェウスが聞き返した瞬間――俺は事前に唱えていた魔法を解放……光属性最上級魔法『ラグナレク』を生じさせた。


「俺もまだ、本気を出していないっていう話さ」


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