王と仲間
「では、話を続けよう」
ソフィアの決意をしかと聞いた後、ボスロが語り出す。
「ルオン殿、物語の主人公と言うべき人物は五人……この中でラディという人物が、ソフィーリア様と同様賢者の力を得ている人物だな?」
「ええ、そうです。残る五大魔族は三体。つまり残り三人、魔王を討つ資格を得ることができます」
「魔王が放つ強大な魔法を回避することは難しくなったが、魔王に対抗するには、残る力を結集させるのも手ではないか?」
ボスロの言うことは一理ある。俺はしばし考え、回答を行う。
「どちらがいいか、という判断はここではできません……物語の上では分散しても戦うことはできましたが……」
そもそも五大魔族から取り戻した賢者の力がどれほど作用しているのかもわからない。どういう展開になってもおかしくないが――
「……ともあれ、どういう形になろうとも対応策はあります。賢者の力を底上げするような武具の開発ができれば、分散してもおそらく大丈夫でしょう」
「なるほどな。それについては戦いの状況などにも左右されるだろうから、今はまだ話さないでおくとしよう。まとめると、私達は南部侵攻のために兵力を整えておく。そしてルオン殿は、神霊の協力を得るべく動くというわけだな」
「はい」
「というか、ちょっと信じられないんだけどさ」
そこでクウザが会話に割り込んだ。
「神霊に協力を得るために色々、か……しかも戦って勝ったって言うじゃないか」
『事実だぞ』
ガルクが言う。それでもなお信じられないといった様子のクウザだが……無理もないか。
「……そうした能力があっても、魔王を倒すことはできない。この厳然たる事実を踏まえ、俺は動いている。ただそれだけだ」
「剣技についてはボクを一蹴するくらいだ。相当な使い手だとは思っていたが」
シルヴィも語る。俺は頬をかきつつ、
「俺の剣技は基本力押し戦法だから、技術的な点で強いというのは少し違うんだけど……クウザ、そっちだって頑張れば神霊と対抗できるようになるさ」
「無茶言うなよ」
笑うクウザ。ゲームのように成長し続けられれば、可能だと思うんだが……まあいい。
「ルオン殿は、今後は考えていた通りに動く予定ですか?」
カナンがふいに問い掛ける。俺は仲間達を一瞥した後、答える。
「はい。現在の目標はサラマンダーの住処に、クウザが学んでいたアカデミア……アラスティン王国内の戦いも終わりましたから、そちらへ行くことになるかと」
「何か必要なことはありますか? 私達に協力できることがあれば」
「今は、いずれ来る南部侵攻の備えに尽力して頂ければ。魔王が準備をする魔法については、必ず止めますから」
俺の言葉にカナンは一時沈黙し……やがて静かに頷いた。
「ルオン殿、ここで一つ質問がある」
次に問い掛けたのは、ボスロ。
「今回の戦いで、ルオン殿自身かなり立ち回っていた様子。そのことが他の魔族に伝わっている可能性はあるのか?」
「否定はできませんね。先ほどお話しましたが、物語の主人公や主要な魔族については使い魔で動向を観察しています。現在俺達に対し魔物を差し向けるといった様子はありませんが……注意は必要でしょう」
俺の本質的な部分については知られていないはず。けれど戦争で戦ったバレンという魔族が、戦いの中で何かしら情報を他の魔族に渡していたとしたら……俺のことを警戒する可能性がある。
ソフィアの素性について露見するのも問題だが、高い能力を持つ魔族だと俺も本来の力で応じる必要性が出てくるかもしれない。今後魔族側がどう動くのか、観察は必須だ。
「うむ、わかった。そして王女が存命という情報を公開することについてだが……」
「公にするタイミングは、彼女と協議をした上で、ということにさせてください。情勢は流動的であり、今ここでいつ話すかというのを決めるのは難しいです」
「そうだな……」
「それと……魔族の中には心を読む魔族もいます。遭遇するかどうかはわかりませんが、念の為心を読まれないよう道具を渡しておきます」
そう言って俺はカナン達と仲間達に道具を渡し――最後に、カナンがソフィアへ告げた。
「ソフィーリア様、ご武運を」
「カナンも」
こうして会話が終わり……俺達はカナン達と別れ、城を出た。
「……ひとまず、戦いにおいて俺の役割は変わらないからな」
帰り道、ソフィア達に俺のことについて説明する。
「魔族に対してまだバレるのはまずい……いずれ魔王の魔法を封じるために力を見せる時は来るが、現段階で露見すると魔王がどう動くかわからないからな」
「目的の魔法発動を、早める危険だってあるということか」
シルヴィが言う。俺はそれにすぐさま頷き、
「あくまで可能性だけどな……俺のことは、少なくともこちらの準備が整った段階でするべきだと思う」
「それは私も同意だ」
クウザが俺の意見に同調。
「で、ルオンさん。今からは当初の予定通り北へ向かうと」
「ああ。もし道中で五大魔族との戦いが発生した場合は……行った方がいいだろうな」
「起こりそうなのか?」
「今のところ兆候は見受けられない……けど、いつでも起こり得るという覚悟だけはしておいてくれ」
こちらの言葉にクウザは頷く。そこで今度は、ソフィアが声を発した。
「ルオン様。その、私についてですが……」
「魔王を討つ資格のことか?」
「はい。今後五大魔族と戦うことになった場合、他の方に分散させるということでいいんでしょうか?」
「……二回五大魔族と戦い得てきた情報から、血筋でも賢者の力を取り込めないというケースがあるとわかった。レーフィンはその辺りの確認手法を構築するとは言っているわけだが……レーフィン」
「はい」
ソフィアの横にレーフィンが出現。
「その辺り、どうだ?」
「確認手法についてもう少々お待ちください……そして賢者の力について私の見解ですが、対象者を選べるかどうかもわかりませんし、この辺りは実際確認してみないと」
「まあ、そういうことだよな……俺達は目的を速やかに成し遂げ、どういう状況になっても対応できるようにしておく……というのが、今できることかな」
「魔王の魔法を止めるためにガルク様達は尽力されている……そちらに構わなくてもよろしいのでしょうか?」
「その辺りは、俺や神霊たちがどうにかする」
「神霊と組んで対応をするって、無茶苦茶だな……」
クウザがコメント。そう言いたくなるのも、わからなくはない。というか俺がクウザの立場だったら、本当かと疑ってしまうはずだ。
「もし何かあったら、相談するよ」
「相談できるレベルを超えている気がしますが……わかりました。それで、ルオン様」
「ん、何だ?」
「私達で……いいのですか?」
それは、彼女なりの確認の意味があったのだろう。
シルヴィもクウザも俺を見て立ち止まる。自分達がルオンやソフィアと共にいていいのか――そういう感情が少なからずあるようだ。
「……シルヴィもクウザも、今や仲間だ」
その中で、俺は口を開く。
「俺は確かに高い能力を保持してはいるが、人間であることに代わりはない。このアラスティン王国で起こった戦いで、それは顕著だった。シルヴィ達の協力が無ければ、騎士シェルクは戦死していたはずだ……俺がまだ本気を出せない以上、シルヴィやクウザには頼ることになる。むしろ、俺の方が戦ってほしいと言う立場だよ」
「無論、ボクは共に行動する気でいるよ」
「私もだ」
シルヴィとクウザはそれぞれ語る……それにソフィアは礼を示し、
「ありがとうございます、お二方」
「足手まといにならないよう頑張るさ」
「私もそうだな」
二人は冗談めかしく言い……俺はソフィアに視線を送る。
「理由はあれど隠していたのは事実だ。それは申し訳なく思う」
「いえ、事情を聞いて私も納得しましたから……それと」
「それと?」
「今後とも、よろしくお願いします」
「……ああ、もちろんだ」
返事をして、歩き出す――こうして、アラスティン王国でやるべきことは、全て終わった。




