王の剣
発動させた魔法は――光属性魔法『デュランダル』だ。左手に生み出された光の剣と、右手に握る長剣をクロスさせ、弱まった右拳へ、叩きつけた。
「ぐう……!」
バレンはとうとう声を上げる。俺の狙いを理解した様子だったが、対応は完全に遅れた。
刹那、魔族の拳に宿っていた魔力が消滅……相殺に成功した。
バレンは抵抗とばかりに瞬間的に魔力を収束させ拳を放つ。だがそれは俺にとって容易に相殺できるレベルのもので――再度放った剣戟により、再び相殺。
刹那――俺は叫んだ。
「ソフィア!」
名を呼んだ。次いでさらに俺は反撃に移る。魔力が発露するギリギリまで力を収束させ――左手に握る『デュランダル』を、バレンの体へと薙いだ。
「があっ――!」
呻くバレン。その瞬間、今度はソフィアとカナンが俺の横をすり抜け、前に出た。
「――雷よ! 我が敵を討て!」
ソフィアが『ライトニング』を放つ。それは完全に虚を衝いた形となり、雷光がバレンの腹部を貫く。
それにより完全に動きを止めるバレン。刹那、カナンが宝剣を振り上げ――その魔力が、一気に周囲へと広がった。
退魔の力……俺も驚くくらいのもの。当のバレンは顔を引きつらせ、無防備で対応できない自分の身を呪ったか、口を動かした。
「貴様――!」
剣を振り下ろされる。宝剣の刀身からは光が溢れ、しかと魔族に入る。
その力は、バレンを討つのに十分すぎる威力――必殺の剣によりバレンの体は吹き飛び、倒れ込んだその体は、とうとう消滅し始めた。
「……終わった」
ソフィアが零す――こうしてカナンは覚醒を果たし、長かったアラスティン王国の戦いが、終わりを告げた。
「……復興には、時間が掛かりそうだな」
町の中を歩き、俺は一つ呟く。戦いが終わり、今はソフィアと共に町の状況を確認しているところだ。
「宿は無事だったからよかった……で、この調子だと、城に招待される気もしてくるな」
「私のことを把握している方は、将軍やカナンだけに留めるべきでしょうから、お達しがきても断るべきでしょうね」
ソフィアは言う。俺は小さく頷き……町を眺めた。
ほとんどの場所は建物に被害もなかったが、戦場となってしまった中央広場だけは別。さらに言えば城門を抜けた外側も戦の爪痕があり……それが回復するまでは、時間が掛かるだろう。
ボスロを始め、アティレやシェルクについては無事だった。シルヴィやクウザも無事。カナンを襲撃していたバレンが本物だったらしく、彼が宝剣で倒した結果分身も消えたようだった。今は一度合流を果たし、シルヴィ達は宿に戻っている。
「ただ、こうしてソフィアのことを明かした以上、やっておくこともある」
「一度、話し合いはすべきだと思っています」
俺の言葉に続きソフィアは言う。
「カナンは若いですが、宝剣を握る以上この大陸の救世主となる素質を持っています。おそらくそれはカナンも同じように考えているはず」
「救世主、か」
彼女の言っていることは正解。そして彼には事情を話し、南部侵攻に備え動いてもらうべきだろうとレーフィンとも戦いの前に話し合った。
そして、ソフィア達には――考えていると、彼女は口を開いた。
「……ルオン様に、お伝えしなければならないことが」
「どうした?」
「カナンと会い、少しばかり私自身思うところがありました。私という存在が、必要であるか」
レーフィンの語った懸念についてだろうか。
「けれど、今回の戦いを振り返って――最後にカナンから言われたことが」
「あの戦いの後か?」
「はい。生きていてよかったと。そして私の力を見て、自分も負けられないと思ったようです」
――ソフィア自身、自覚は少ないのかもしれないが、相当な経験を積んで強くなっているのは事実。その彼女の姿を見て、カナンもまた動き出そうと決心をしたということか。
カナンの覚醒イベントを果たした最大の理由は、ソフィアの存在だったのは間違いないだろう。
「ルオン様にここまで強くして頂いたこと、感謝しています。けれどここに赴くまでは、今後どうするべきなのかを考えていました」
「今は、決断したということか?」
問い掛けに、ソフィアは深く頷いた。
「少なくとも、私には人を救える力がある……どこまでいけるかわかりませんが、できる限りのことを、するつもりです」
「――もし魔王に挑むことになっても、か?」
なんとなく口をついて出た疑問。するとソフィアは微笑を浮かべ、
「ルオン様が仰ると、なんだかそれが本当にありそうな気がしてきますね」
「茶化しているわけじゃないんだけどな」
「すみません……無論、魔王と戦うことになったとしても」
固い決意だった。その言葉を受け、俺は「わかった」と答える。
「ソフィアの意志は理解した」
「はい……それで、今後の方針は変わりませんか?」
「精霊との契約については果たさなければならないだろ。ただ一つ、今の発言を聞いて俺も決めた」
「何をですか?」
「王と話をする際、言おうと思っていたことがある」
ソフィアは俺の目を見て黙って言葉を待つ。
「……実を言うと、その辺りのことについては俺も悩んでいた」
「将軍と戦った時に話したことと関係がありますか?」
「ああ。それに、レーフィンとも関係がある」
「……私の決意を待っていたのですね。レーフィンがきっと、口止めしていたのでしょう」
「何もかもお見通しだな」
肩をすくめる。それに対しソフィアは、またも微笑を見せた。
「わかりました。ルオン様、今後もよろしくお願いします」
「ああ」
ただ、城側が事後処理を終えるまで結構時間が掛かりそうな雰囲気。もっともゲームの主人公達についてはまだ大きな動きも無いので、話をする時間はありそうだというのは幸いか。
「それじゃあ、一度宿に戻るか」
「はい」
ソフィアが頷き、俺達は進路を宿へ向けた。
それから数日、町が少しずつ元通りになっていくのを眺めながら、俺達はひたすら待つことになった。
城からの使者がやってきて「話をしたいので待っていて欲しい」とお達しもあったことから、シルヴィやクウザも俺に詳しい事情を聞くことなく、話し合いの時まで待つ様子。
レーフィンやガルクとも話をして……やがて、王と話をする機会が生まれた。
「すまないな、待たせてしまって」
その迎えがボスロであったため、俺達は一様に驚いた。
「君達はこの国のために尽力してくれた。特にルオン殿……君の協力があったことが何より大きい」
だからこそ、将軍自らが出迎えか。戦争の功績を考え妥当なのかどうかわからないけど……まあ、悪い気分じゃない。
宿を出て、城へ向かう。道中でボスロは今後のことについて説明してくれた。
「陛下自身、先の戦争で宝剣の力を我が物とした。これからは外に打って出ることになるだろう」
「魔王を倒すために?」
シルヴィが問う。ボスロは即座に頷いた。
「町の状況も気にはなるが……ただ待っているだけではまずいと判断した。宝剣の力は魔族も脅威に思っている様子。加え、人間側にとってみれば希望の光だ。陛下自身、戦うべきだと主張した」
――ゲームでは積極的に戦う理由を詳しく明示されることはなかったが、おそらく臣下の中に反対した者だっているはずだ。それでもカナンは戦う道を選んだ……決意は相当なものだろう。
会話をする間に城に到着。中に入り、将軍は玉座の間ではなく別方向へ歩み始める。これは――
「将軍の部屋ですか?」
「ああ、そうだ」
あっさりと同意。話をする場所を選んだということか……俺にとっては一度通った道をなぞりながら、やがて将軍の私室の前に到達した。




