指揮官の能力
指揮官であるコボルトが吠える――周囲の魔物に命令するというより、自身を鼓舞させるような意味合いを持たせた咆哮。俺は『デュランダル』を維持し、将軍や周囲の騎士達を援護できる体勢に入る。
「――来い!」
ボスロが声を上げ、コボルトは動く。全身を包む漆黒の鎧に加え大剣――鈍重なイメージが浮かぶが、コボルトの動きはかなりのものだった。
一瞬で間合いを詰め、馬上のボスロへ斬りかかる。対する将軍は矛を縦に一閃。再び矛と剣が激突した。
甲高く、それでいて非常に重い金属音が聞こえる。数打ちの剣ならば打ち合った瞬間へし折れてしまうだろう――だがボスロの矛もコボルトの大剣も壊れない。
そして、この打ち合いには先ほどなかったことが。ボスロの矛が、押し返される。
「――相当な怪力だな」
感想を漏らすボスロ。このまま押し負ければ刃が将軍に――援護しようかと思ったが、彼は上手く刃を逸らし避けると、馬を走らせコボルトと距離を置く。
「――周囲は、問題ないな」
ボスロは一度だけ周囲の状況を確認すると、下馬した。そして真正面からコボルトを見据え――不敵な笑みを浮かべる。
「全身全霊で当たらなければならん相手のようだな……魔物でなければ、是非国の騎士にしたかったぞ」
賛辞のような言葉がボスロから漏れる……その中、俺はコボルトを見据え考える。
ボスロの剣を受け切ることができる以上、彼が語った通り怪力の持ち主であるのは間違いない。だが――アティレが戦った魔物と同様、目の前の魔物はボスロの剣を流してみせた。つまり、技術もあるということだ。
怪力の上に技術持ち……ただ、ボスロの技術というのは半端なものではない。それを凌駕するには圧倒的な力がなければならない。将軍は俺に対しいかなる技術も凌駕する――と語っていたが、俺のような力がなければ無理だろうと思ってしまう。
ボスロが動き出す。大剣を振りかざすコボルトに対し、臆することなく間合いを詰め、矛を振る。
三度目の激突。もし怪力が相当なものならばボスロは弾かれてもおかしくないが――コボルトは後退を選択する。わざと受けに回ったのか、それとも今の攻撃を耐えることが難しいと判断したのか――
「ふん!」
ボスロは躊躇せず追撃を行う。コボルトは大剣を盾にしてそれに応じ――次の瞬間、矛の勢いが大剣を上回った。
さらに追撃を加えるべくボスロは切り返す。その動きにコボルトはとうとう対応できず――左肩に、矛が入った。
ボスロが振り抜いた次の瞬間、コボルトの左腕――肩から先が両断される。左は何も持っていないコボルトだったが、腕を失ったことにより動きが鈍るのはおそらく間違いないだろう。こうなれば、将軍の勝利は確実ではないか。
その刹那、俺は気付く。コボルトの魔力が高まっている――
「――将軍!」
同時に声を発した。ボスロはそれに反応。コボルトの動きを察知する。
振り抜いた結果、ほんの僅かだがボスロに隙が生じた。そこをコボルトは狙い――剣を薙いだ。
だが俺の声によってか、ボスロはどうにか反応。後退、回避することに成功した。
「腕一本を犠牲にして、か。魔物ではなく命を賭す人間の戦士のようだ」
ボスロが言う。確かに、自らの体を犠牲にしても、というのは魔物や魔族よりも人間がやりそうな行動だが――コボルトを観察していると、新たな変化が。
突然、指揮官の左腕に魔力が集まる。まさか、と思った直後切断面から魔力が迸り、一瞬で腕が再生した。
「何――!?」
これにはボスロも驚いた。俺も同感だ。驚異的な再生能力を持つ種族はトロルなど存在しているが、コボルト系で能力を持っているなんて、聞いたことがない。
「ほう、なるほど。指揮官である以上相当な強さを持っているのはわかっていたが……そうした特殊能力も与えられたのか」
理解したようにボスロは呟き構え直す。再生能力――例えばトロル系統の魔物は再生能力を保持しているが、ゲーム上では一定時間経過するとHPが回復する仕様だった。
現実となった今では、傷を癒すのはもちろんのこと、先ほどコボルトが見せたように腕を再生させることも可能。とはいえ、一瞬で再生というのは上級クラスの魔物でなければ難しく、このコボルトは再生能力という点で異質と考えていい。
将軍と戦うことを想定して生み出された魔物である以上、特別なのは間違いないようだが……他にも能力を持っているのだろうか?
魔族としても、ここで将軍を討つことができれば大戦果と言えるだろう。魔族側がこうした人間相手にそこまで気を使うようなことがあるのかという疑問もあるが……いや、少なくとも名が通っている人物については警戒すると考えていいだろう。でなければ、こんな特別な魔物を使うわけがない。
魔族達がボスロの強さをどれだけ認識しているのかは不明だが、こうして特別なコボルトを使用し攻撃を仕掛けている以上、相応の評価は行っているだろう。技量は人間の中でも随一と考えていい歴戦の騎士……二重三重と策があってもおかしくないように思える。
ボスロが再度動く。再生能力を見て最初は驚愕していたが、平静になり矛を薙いだ。一方のコボルトは、腕を両断されたからなのか……将軍を警戒している様子が窺える。
その時、騎士の脇をすり抜け数体の魔物が俺達へ向かってくる。すかさず俺は剣でそれに対処し――同時、ボスロの矛がコボルトを大きく吹き飛ばした。
たじろぐ様子の魔物を見て、誘いかと俺は考え詠唱を行う。それは『ホーリーランス』であり、アティレの時と同様魔法が通用しなくとも衝撃で剣の軌道を曲げることができるからなのだが――ボスロはさらに押しまくる。
気付けば、コボルトが防戦一方となり始めた。矛をどうにか弾いてはいるが、ボスロはさらに速度を上げる。結果、コボルトは受けるだけでやっととなり――その勢いを見てか、周辺で魔物を迎撃する騎士の幾人かが、将軍を応援する声を発した。
彼らの声援を耳にしながら、俺は呟く。
「このまま……いけるか?」
指揮官のコボルトは確かに強い。だがボスロはそれを上回る――そういう確信が、俺の中に生まれる。
とはいえ、魔物の策がまだ終わっているとも思えない……ゲームでは相打ちとなる両者だが、現実ではボスロの一方的な展開へと進んでいる。これは果たしてゲームと同じ流れなのか、それとも異なっているのか――
その時、コボルトがさらに雄叫びを上げた。ただしそれは、周囲に声を拡散させるような感じであり、おそらく命令を出したのだろう。
次の瞬間、周辺で露払いをしていた騎士達の声が聞こえた。命令が変更したためか、魔物の動きが変わったのだろう。となれば、騎士達が対応できず魔物が押し寄せ、ボスロも指揮官の攻撃を受けることができなくなり――ということか?
「ソフィア、周囲に気を付けろ」
俺は彼女に呼び掛けると同時、いつでも魔法を放てる体勢に入る。ボスロはまだ攻勢に出ている。しかし周囲の状況がにわかに騒がしくなってきた以上、指揮官もボスロを倒すべく動き出すはずだ。
そう思った矢先、俺はボスロ達が戦う場所から瘴気が発生するのを感じ取った。俺はそれが何を意味するのか感覚的に理解する――魔物が、発生する瞬間。
もしや、指揮官は魔物を生成する能力も――刹那、コボルトが発する魔力が少なくなる。魔物を生成する以上、相応の魔力が必要であることは間違いなく、またその魔力現象はボスロとの戦いにおいては致命的なはず。しかし、
次の瞬間、ボスロの周囲に魔物が突如出現した。




