依頼と疑問
指定された宿は結構上等なもので、確かにボスロの名を出したらあっさりと宿泊費がタダになった。
それがいいのか悪いのか……将軍がいつ来るのかという疑問を持ちつつ、俺達は男女に分かれて部屋に入った。
「ひとまず、将軍を待つってことでいいのかい?」
クウザが問う。それしかないだろうと俺は首肯しつつ……ともあれ町の様子を確認するべきだと思い、クウザにそれを伝え宿を出た。
状況としては、不安が町全体を包んでいるのは間違いない。だが思っているよりは暗くない、といったところだろうか。周辺で魔物による襲撃が行われているため、都は避難場所という意味合いにもなっているようだが、今のところ混乱もなさそうだ。
侵攻する魔族側としては、魔物を用いて周囲を蹂躙してから仕掛けるというのが、どこの国においても定石となっている。奇襲同前の攻撃を仕掛けてもよさそうだが、それをしないのは制圧ではなく人間を滅するということが目的だから、なのだろうか。
『ルオン殿』
町を眺めながら歩いていると、ふいにガルクの声が聞こえた。
『将軍がどのような言及をしてくるかわからないが、色々なことが露見する可能性があるな』
「……出会ったばかりにも関わらず色々と察していた将軍だ。直接戦った俺のことも、なんとなく推測していそうだな」
心構えだけはしておこう。しかし問題はソフィア達にどう説明するのか。
シルヴィなんかは直接戦ったことがあるので俺の実力の一端を知っていながら何も言わないわけだが……話す時期に来ているということなのか。
今まで話さなかったのは、まあ話す機会がなかったというのもあるのだが、レーフィンが「ソフィアにはまだ話すべきではない」と言っていたからなんだよな。以前尋ねた時からだいぶ経っているし、今はもう大丈夫なのだろうか?
どうするかを考えつつ町を一回りして宿に戻ってくる。それから一時間くらいは宿の中でゆっくりしていたのだが……突如、呼び出しが。
「将軍がお越しです」
来たか、と心の中で構えつつ、俺は部屋を出る。するとクウザが追随し、なおかつソフィアやシルヴィもいた。
「……俺一人でいいんだが」
と、なんとなく言及しては見たが、シルヴィが首を左右に振った。
「今後に関する重要な話かもしれないだろ? それに、四人全員を呼んだということは、ボクら全員に話があるんだろう」
まあ、そういうことなんだろう……だが、
「ソフィアの方はいいのか? さすがに話し合いの場で声なんか出した日には、察せられてしまう可能性もあるが」
「その辺りはどうにかします。将軍の話を聞かせてください」
何やら考えがある様子だが……本人が言っている以上、否定することもないか。
食堂へ向かうと、宿に似合わない鎧を着た将軍が待っていた。俺達を見つけると手招きし、席へ着くよう促す。
人払いなどを行ったのか、俺達以外に客はいない。さらに大きめのテーブルに将軍と向かい合うようにして四人分の席が並べられており、準備は万端といった様子。
「何やら、重要そうな話かな」
シルヴィがおもむろに口を開く。すると座っていたボスロは小さく笑みを見せ、
「人払いしたのには理由がある。その辺りを詳しく説明するので、座ってもらいたい」
言われ、俺達は座る。右端はソフィア。次いで俺、シルヴィ、クウザの位置で座り、ボスロは話し始めた。
「まず、ああして私の提案を受けてくれたことは感謝しよう。そして、技量を見た結果なのだが――」
「あの、申し訳ありませんが」
言い終えぬうちに俺が言うと、ボスロは「わかっている」と応じた。
「士官の話をしに来たわけではない。人払いをした理由を交え、説明をする」
そう言うとボスロはやや身を乗り出し、なおかつ声のトーンを落とし話し始める。
「魔物が近隣に出現しているという話は聞いているかもしれん……それは間違いなく、魔族が侵攻してくる証拠だ」
「つまり、国の上層部は戦争に入ると認識していると?」
クウザの質問に、ボスロは首肯した。
「先ほどの戦いで、君達の実力はわかった……残る二人も相応の実力者だと考えている。ついては、その戦線に参加してもらいたい」
――予想していた内容とはずいぶんと違っていた。いや、戦争間近だという確信を持っているのならば、これは至極当然の依頼か。
「報酬については要相談となるが……その実力を見込み、ある程度重要な立ち位置で戦ってもらいたいと考えている」
「見込まれた、と考えていいんでしょうね」
シルヴィの言葉に、ボスロはすぐさま頷いた。
「そう思ってもらって間違いない……構わないか?」
「はい、大丈夫です」
俺が応じる。結果ボスロは力強く頷き、
「ならば、協力を頼みたい……君達の配置などについては今後軍議で相談することになるが、悪いようにはしない。頼んだ」
――軍議、か。俺はここで一考する。
仮に将軍の指示で攻めてくる三方向のうち、例えば「北側を守ってくれ」と言われれば、俺達は全員そこに配置されるだろう。となると残る東西――それぞれアティレとシェルクが指揮をすることになるのだが、そちらの防衛ができなくなる。
それは間違いなく、二人の戦死が確定的となる……戦闘に入れば上手く誤魔化して抜け出すことも可能だろうか。
その辺りは、少しばかり確認してみないと。
「……将軍、一つ質問が」
「どうした?」
「俺達は、四人で共に固まって戦うことになるんでしょうか?」
「おそらくそうなるだろう」
こちらの質問に答えるボスロ……うーん、これはあまりよくない展開だな。
とはいえ、ここで「バラバラに行動させてください」と言うのも……考えていると、ボスロは席を立った。
「今のところ、話はこれだけだ。今回こうした席を設けた以上、君達は他の戦士達とは異なる扱いであるということは認識しておいてくれ。そして、魔族の侵攻については、まだ内密に頼む」
「わかりました」
俺が代表して答えると、あっさりとボスロは歩き出す。
「なんだか、拍子抜けだな」
シルヴィが感想を漏らす。俺達のことを詳しく言及するつもりだと思っていたのだろう。俺もまたそう考えていたのだから、彼女と同意見だ。
ふと、ここで俺は疑問に思ったことが……よって、席を立った。
「少し、気になったことが出てきた」
「気になったこと?」
「俺達の軍における扱いについてだよ。こういう話をする以上、何かしら特別なことになるとは思うけど、将軍がどう説明するか気になった。魔族の侵攻具合によってその辺りは変わると思うけど……一応、確認してくる」
そう言いつつ、ボスロを追う。仲間達が追ってくる気配はなく、俺は宿の扉前で将軍を捕まえることに成功した。
「ボスロ将軍、少しお待ち頂けないでしょうか?」
「……うん? どうした?」
振り向き応じる彼。周囲に人はいない。まだ扉も開いていないので人が来訪しない限りは会話が聞かれることもないだろう。
「戦いの事で、少々お話が」
「うむ……その前に、一ついいか?」
「一つ? 構いませんが――」
「先ほどの戦い、手を抜いていたな?」
その言葉は、俺の口を縫い止めるには十分なものだった。
「いや、すまない。先ほどの提案以外にも、その点について語ろうかと思ったのだが、君の仲間達の様子から、その辺りのことも隠しているのだろうと察してね」
「……どこまでも、お見通しですね」
俺は息を吐き、声を漏らす。そう答えた以上認めたも同然なのだが、最早隠し立てするのは無理だと思ったのだ。
「場所を変えるか」
ボスロは言う。
「別所に、行きつけの酒場がある。今はまだ開店前だが、私が言えば中には入れてくれるだろう」
「……お願いできますか?」
「うむ」
頷き、俺と将軍は宿を出る……これは話が良い方向に進んでいるのか、それとも悪い方向なのか。俺自身もよくわからないまま、移動を開始した。




