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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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剣の激突

 先ほどシルヴィがボスロのことを試したように、今度は彼が俺を試すかのように真正面から仕掛ける。


 その速さは相当なもので、ソフィアやシルヴィでさえ対応しきれないくらいの、本気で首を狙いに来ているのではないかと思うくらいだった。

 だが、俺はボスロの動きを捉えることができた――できたのだが、それにどう応じるかで一瞬思考してしまった。


 結果、ボスロの剣が迫り俺は受け止めることとなる。どの程度の身体強化を加えればいいのかわからなかったことに加え、考える余裕もほとんどなかったためその辺りはかなり適当になってしまったのだが、真正面から受け切ることには成功した。


「おお……!?」


 クウザの呟きが聞こえる。それと同時に俺は押し返すべきかと思いながら間近に迫るボスロに視線を送る。


 将軍はまず、俺と視線を合わせ無言。その中でふと思ったのは、ボスロから放たれた剣戟の威力。これが全力なのかどうかはわからないが、魔力による身体強化がなければ、腕が痺れてしばしの間まともに動かなくなるであろう、骨まで響かせるような威力だ。


 単純に魔物が力押しで攻め立てるのとは違う。技術に裏打ちされたものであり――


「ほう、そうか」


 そう告げると共に、ボスロは一度自ら後退した。


 今の攻防で、どの程度察したのか……さすがに俺の能力全てを理解するのは無理だと思うが、少なくとも身体強化面からどれほどの力を引き出せるのかは考察できるはず。俺も先ほどの身体強化はほとんど感覚的なもの。果たして――


 またもボスロが先に動く。先ほどと同様の突撃ではあるのだが……何か考えがあるのか。

 俺は咄嗟に回避に転じる。真っ直ぐ向けられた剣を見極め、左へ逃れようと動く。


 避けようと動いたのは反射的なものだったのだが――そしてボスロがこちらの動きを捉えたことも認識できた。すると将軍は俺の動きに追随するように剣の軌道を変える。


 俺はどう応じるか迷った。剣の軌道はこちらの進路を阻むように向かってくる。弾き返すことも可能だが、さすがにそれをやると力勝負で勝ったことになってしまう。


 だから――俺は剣をかざし、まずは将軍の剣を受けた。だがさっきみたいに受け切るのではなく、流す。

 流す以上、受けたレベルの身体強化はいらない――と思ったのだが、次の瞬間ボスロの握る剣からの圧力が一気に高まる。剣を振り抜こうとしている間に、さらに魔力を加えたらしい。


 俺は対抗するように魔力を腕に加え、流し――ギリギリで回避することに成功する。左へ逃れ距離を置こうとするが、ボスロがそれを逃さないように俺へと間合いを詰める。続けざまに追撃の剣が放たれ――俺は後退することでかわし、どうにか将軍の間合いから脱した。


 そこでボスロの動きが止まる。俺もまた立ち止まり、ようやく考える余裕ができたので、将軍の様子を窺いつつどう動くかを思案する。


 とはいえ、この攻防で勝利するなんてことをやってのけたら、相当な大騒ぎになるだろう。ソフィアのこともあるし、これ以上はさすがに目立たない方がいい。どこかのタイミングで「終わりにしよう」とか言って、無理矢理終了させる方法もありだろうか。


 それでボスロが納得するかどうかもわからないが……ふと視線を合わせると、次にどう仕掛けるか思考しているようだった。双方が対峙し動かなくなったのを契機として、周囲のギャラリー達はざわざわとし始める。


 この沈黙が何を意味するのか。俺自ら攻撃する気はないため、ボスロの動き次第ということになるが……改めて将軍と向かい合っていると自覚した瞬間、その威圧感が相当なものだと認識する。シルヴィも俺と同じように対峙したわけだが、そのプレッシャーはかなり大きかったはずだ。


 奇妙な沈黙は、時間としてはおそらく一分あるかないかといった時間だったはず。短い時間だが、戦闘における時間としては長い……この均衡を破ったのは、俺でもボスロでもなかった。


 それは、馬の蹄の音。


「――将軍!」


 騎乗する騎士が俺達へと近づいてきた。兜をかぶっていないのでその顔立ちが一目でわかる。

 長い黒髪を持ち、槍を握る騎士だった。美麗という言葉すら浮かぶその人物を、俺は記憶していた。


 シェルクと同様、この戦いで大きな役割を果たし、さらにゲーム上で仲間にすることができる騎士――名は、アティレ=ロダング。


「ん? ああ、アティレか」

「ああ、ではありません。いつものように旅人を試しているようですが、今回は長いということで、騎士から報告が上がってきました」


 言葉と共に、ボスロは構えを崩す。同時、俺もまた息をつき戦闘態勢を解いた。

 ギャラリー達は、これで終わりかと不服そうな様子を見せる者もいる……消化不良には違いないが、俺としては大変ありがたかった。


「うむ、わかった。持ち場に戻っていてくれ」

「はい」


 いくつか会話を行った後、アティレは馬を駆りこの場を去った。次いでギャラリー達が移動を始め、ようやく戦いが終わりを告げる。


「……それでは、俺達も――」

「確認だが、宿などは決めているのか?」


 唐突に、ボスロから質問が飛んできた。


「例えば都に知人がおり、そこで厄介になるようなことはあるのか?」

「あ、えっと……いえ、これから宿を探すつもりですが」

「ならば、今から言う宿はどうだ? 私の名を出せば、宿泊費についてはタダになるぞ」


 何を言っているのか……と思っていると、将軍は俺に笑みを見せた。


「少しばかり話がしたい」

「いや、その……」

「色々と問題を抱えている様子なのは理解できる。さすがにお尋ね者というわけではなさそうだが、素性などを明かしたくないのは理解できる」


 ――事情ありという点についても、言い当てるボスロ。最早感服する他ない。


「私はその辺りについて言及はしない。だから、その宿で待っていてもらえないか?」


 俺は将軍を見返し……なんとなく、ここで適当に返事をして別の宿に泊まるにしても、間違いなく追ってくるだろうなと察した。


「……わかりました」


 どこまで察しているのか俺も把握する必要がある……たぶん大丈夫だとは思うが、もしソフィアの素性などが露見していたならば、ボスロに対しその辺りについても話し合っておく必要がある。


「では、場所だが――」


 それからいくらか会話を行い、将軍は城門前から離れた。俺達はそれを見送る形となり……やがて、最初に口を開いたのはシルヴィ。


「ルオン。さっきの戦い、どちらが優勢だったんだ?」

「……さて、な」


 肩をすくめる。俺もボスロがどれだけの力で戦ったのかわからない。ただ、少なくとも本気ではなかったはずだ。

 打ち合っていて思ったのは、ボスロの双肩には他の戦士とは桁の違う技術と経験があるということだけ。その二つが評価を下した結果、話がしたいと提案してきた。


 これは俺達の力を見込んで戦争が起こった場合協力して欲しいということなのか、それとも他の要因があるのか――


「ともかく、将軍の指定した宿に向かうとしよう」


 俺は仲間達に言って歩き出す。門をくぐり、綺麗な街並みを一瞥した後、仲間達を確認した。

 三人が一様に考え込んでいる様子。先ほどの戦いを自分なりに考察しているのだろう。


 それらを見た後、視線を前へと戻す。将軍との話……それが今から始まる戦争にどういう結末をもたらすのか。複雑な感情を抱えたまま、ひたすら歩き続けた。


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