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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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将軍の興味

 白髪混じりの黒髪を持つ重騎士……無骨な灰色の全身鎧に身を包んだ将軍ボスロは、どうやら門を見回っているらしく、兵と話をしていた。

 それはどうやら世間話のようだが……兵士達の緊張を和らげるような会話。とはいえ、将軍が来たとなればさらに緊張してしまいそうにも思えるが。


「……ソフィア、あれが――」

「はい、ボスロ将軍です」


 シルヴィが声を上げ、言い終えぬうちにソフィアが口を開く。


「元々現場を見て回る方ですから、ああいう風に動き回っているのが常だと聞いたことがあります。あとは、兵や騎士に色々と目をかけていると」

「目を、ねえ」


 クウザが呟く。するとソフィアはさらに説明を加える。


「小国であり常に人材を欲しているらしく、腕の立つ人物については傭兵などからも徴用しているという話ですから……もしかすると、見て回っているのはスカウトした方々がいるからなのかもしれません」

「どちらにせよ、早速変装した甲斐があったな」


 シルヴィが言う。それにソフィアは不安げな声を上げた。


「……これ、大丈夫なんですか?」


 言葉の後、彼女は目深にかぶったフードの奥で俺へ視線を向ける。


 ちなみにこの時点でソフィアは変装している。将軍が門前にいるという事態は想定していなかったのだが、都の中の状況がわからないので、もしかすると見知った人物に会うかもしれない――という可能性を考慮してだった。


「前にあったのが二年も前で、なおかつ変装もしているから大丈夫だろ」

「そ、そうですか……?」

「不安がるのは仕方ないけど、ここで尻込みしても意味ない。行くぞ」


 俺達は門へと歩む。移動の間に将軍がいなくなってくれればとソフィアは思ったかもしれないが、結局彼は門前にいたままだった。


「……冒険者の、方ですか」


 俺達のことを見て、兵士が問う。こちらは頷き、


「戦いが近いという噂を耳にして」

「傭兵か」


 ボスロが口を開いた。俺達へ近寄り、値踏みでもするようにまずは一瞥し、自己紹介を行う。


「私の名はボスロ=ムバイン。この国の将軍をしている人間だが……その者は?」


 彼はソフィアに目を向ける。それに、俺が応じる。


「少々事情があり、怪我であまり顔を見せないようにしているんです。今は仮面で隠していますが」


 こちらの言葉に、ボスロはソフィアに体を向けた。


「もしよければ、仮面をかぶった状態でも顔を見せてもらえないか?」


 状況が状況であるため、念の為といったところか。ソフィアは少しためらいがちにフードを開ける。


 ――さすがに髪色などを見て推測される可能性もあったので、仮面に加えて彼女は黒に髪を染めている。ただ直接髪に色を付けているわけではなく、あくまで魔法を使って簡易的に変えているだけだが。

 さらに、魔法の道具を使って目の色も変えた。深い青だった瞳は今はエメラルドグリーンに変わっていて、目元を仮面で覆っているため、これで露見することはないはず――


「……ふむ、もし怪我さえなければ、見初めていたかもしれんな」


 ボスロが冗談まじりに語る。うん、気付いている様子はない。


「お主らのように魔物と戦うために都へ入った人間も多い。ここが戦場になるかどうかもわからんが、覚悟の上で来ているのだな?」

「もちろん」


 頷く俺を見て、ボスロは再度俺達を一瞥する。


 ――その視線は、俺達を評価しているようにも感じられる。一目見て思うところがあったということか? ボスロほどの技量ともなれば、物腰などでその強さが感覚的にわかるのかもしれない。


 ただ、ソフィアのこともあるのであまり関わらないほうがいいかもしれないが……と、思っていると、おもむろにボスロは腰の剣を抜いた。


「少し、試させてもらおうか」

「……は?」


 まさに予想外の出来事。俺達一同が戸惑っていると、何を言い出すのかと兵士達も慌て始めた。


「しょ、将軍! 何を――」

「ん? 見るのは初めてか? 私は時折こういう風に傭兵を試すようなことをしているのだが」


 はた迷惑だなと思いつつ、困ったなと思う。常習的にやっているとしたら、たぶん説得なんて無理だろう。


 もしかすると、こういうことをやって、腕の立つ人間をスカウトしているのかもしれない。ソフィアがさっき言った通り、傭兵からも徴用しているというやつか。今回は戦争も近い状況であるしなおさら――しかし理由はあれど、やっていることは十分破天荒だと思う。


「どうする? ここで一定の武を見せれば、徴用の可能性もあるが」

「……申し訳ないですが、俺達は城仕えする気は一片も無いので」


 こちらが言及すると、ボスロは「そうか」と応じ、


「ふむ、残念だな」


 あっさりと引き下がろうとした――が、


「……しかし、徴用とは別にそちらは興味があるようだな」


 その視線の先――シルヴィがいた。よく見れば、将軍のことを見て多少なりとも目を輝かせている。


「お主は、見たところ闘士のようだな」

「ええ。それなりに腕はあると自負しております」

「そして、私と手合せをしてみたいと」


 戦士としての血が騒いでしまったらしい。やめろと言うのは簡単だが……いや、将軍の方もずいぶんと好戦的になっている。これは間違いなく止まらない。


「いいだろう。少しばかりやろうではないか」


 言葉の直後、シルヴィが動き出す。剣を抜き放ち、ボスロが彼女と対峙し……気付けば、周囲には観衆まで現れていた。


 城門付近でこんなことをしていて大丈夫なのだろうか……と思っていると、他の騎士達がやってきて対応を行う。その様子からどうやら慣れているのがわかる。


 将軍は実力はあるし、人望もあるがちょっとばかり面倒な性格らしい……ただ、彼自身アラスティン王国の戦力を少しでも厚くするためという動機だとすれば、全ては国のために、ということなのかもしれない。


 そして――俺自身、興味がないわけではなかった。ソフィアとシルヴィはガーナイゼにおける訓練を通し、さらに五大魔族との戦いを経て強くなっているのは間違いない。その実力と比較して、ボスロ将軍はどのくらいの力を所持しているのか。


 これは、彼の実力を計るのには最適な戦いでもある……彼は間もなく起きる戦いで戦死する。彼と相打ちする魔物……それがどのくらいの強さなのかを類推する情報になる。


 シルヴィが剣を構え、戦闘態勢に入る。門周辺にはギャラリーはいるが他の騎士がフォローに入ったためそれほど混乱は見られない。そして、ボスロとシルヴィは気付けば二人だけの世界に入ったか、対峙し動かなくなる。


 その間にソフィアやクウザが俺の近くへ。


「どちらが勝つと思う?」


 クウザも興味津々なのか、こちらに質問した。


「将軍の実力は、大陸でも名が通るほどだ。けど、シルヴィの実力だって、私の目から見たら相当だと思う」

「……人間同士の戦いでは、単純な力に加え技術的な問題も出てくる」


 俺は二人の様子を眺めながら答える。


「魔族でも剣や槍を使う奴もいるが……将軍の剣術は、そうした魔族と比べても相当高いレベルであるはずだ。シルヴィは確かに魔族と対抗できる力を有しているとは思う。しかし、だからといって将軍と戦えるかどうかは、別の話だ」

「とすると、将軍が勝つと?」


 俺は無言となった。気付けばこの唐突な戦いに俺も引き込まれる形となっている。

 観衆すらも無言になる中で、シルヴィとボスロは動かない。体感的には長い時間だったが、きっと一分も経っていないくらいだろう――先に行動を開始したのは、シルヴィだった。


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