王国の騎士
村の入口へ行くと、そこには騎乗した騎士がおよそ十名ほど。先に入口へやってきていた村人と話をしている光景があった。
「……その冒険者とは、後方にいる人物のことか?」
どうやら事情を説明していたらしい。話を聞いていた騎士が、やって来た俺へ視線を向け村人へ質問を行った。
すると村人は振り向き、「はい」と答える。そこで騎士は村人に礼を告げ、馬上から声を発した。
「どうやら、魔物を倒してもらったようだが……」
「見過ごすことはできなかったので」
そう答えた俺は、相手を見返す。兜をかぶっているため最初わからなかったが……覗き見える髪が茜色で、なおかつその顔立ちに見覚えがあった。
「あなたは……」
こちらが声を上げた直後、まず彼は下馬する。
「私の名はシェルク=フォーロ。アラスティン王国騎士……この隊を率いてきた人間だ。村を救っていただいたこと、感謝する」
――彫りの深い顔が特徴の騎士で、また彼こそゲーム上で仲間になる騎士。つまり、二者択一をしなければならない騎士の片割れだ。
それなりに実力のある騎士が来るとは思っていたが、彼が直接駆けつけるのは予想外だった。ただ、魔族が押し寄せる兆候であることは王国側も察している可能性は高く、その調査を任されてここまで来た、と考えてもいいだろう。
「……もし何か俺達にできることがあれば」
「助力ありがたい。まずは村の状況などを詳しく教えてくれ。特に、魔物の詳細について知りたい」
……魔物のことを知りたいということは、やはりここには調査しに来たか。
「わかりました」
俺は快諾し、話し始める。説明はそれほど長くなかったが、魔物が全てコボルトであると言及すると、シェルクの顔が強張った。
「……そうか。情報についても感謝する。できれば報酬などを支払いたいところだが、あいにく今は戦時中であり、きちんとした対応ができない可能性が高い」
「構いませんよ。報酬目当てで戦ったわけでもありませんし」
俺はそう応じつつ……シェルクと出会った意味を考える。
戦争についてだが、分散し騎士達を守るというのを想定していた。ゲーム上では騎士や兵士の他に雇われた戦士なども加わっていたので、彼らと共に戦線に参加。騎士の近くでいつでも対応できるように備えるようなやり方を考えていた。
ただ、ここでシェルクと出会い、それなりに縁を作ることができれば他に有効なやり方も……もちろんこれはソフィアと城の人間を接触させることになるので、彼女のことが露見するというリスクはある。
事情を説明し取り計らってもらうというのも一つの手ではあるが……いや、どうするかの判断は、都の状況などを見て判断した方がいいな。彼との出会いをきっかけにして城のことを少し聞いて回ってみるのもいいかもしれない。
また、ソフィアも王であるカナンに話すかどうか思案している様子……城の状況などを調べ、それからどうするかという判断をしても遅くはないだろう。
「……俺達は、都へ向かおうかと思っています」
こちらの予定を伝えると、シェルクは「そうか」と応じ、
「兵力増強のため、戦士を雇っている。あなたとその仲間の方々なら、私達も大いに助けとなる。もしよければ、共に戦ってもらいたい。無論、相応の報酬は出す」
「わかりました……都へ入り、考えようと思います」
俺の言葉にシェルクは「頼む」と告げ、他の騎士達と共に村へと入っていく。それを見送った後、入れ違いにソフィア達がやってくる。
「隊長らしき人物は、強そうだったな」
シルヴィが評する。クウザもまた同意するように頷く。
「もしかすると、あちこちこういう襲撃が発生しているのかもしれない」
「……魔物の詳細について言及した時、顔を硬くしていた」
こちらの言及に、シルヴィやクウザは納得したような顔をした。そんな二人へ、俺はさらに語る。
「情報が色々入っていて、魔族が近づいている兆候を感じ取っているのかもしれない。隊長であるさっきの騎士も、調査が目的かもしれない」
「その可能性が高そうですね」
ソフィアも頷く。彼女は変装道具などを持っているが、まだ身に着ける様子はない。
「ソフィア、確認だけどあの騎士くらいなら大丈夫だよな?」
「はい。カナンや将軍と出会わなければ……大臣クラスに会うとした場合も危険ですが、さすがに城に入り込むようなことにはならないでしょうし」
「わからないぞ。魔族との戦いによって、城内で戦う可能性も考えられる」
シルヴィの言葉。するとクウザが合わせるようにして言及する。
「そういう状況は、都も陥落間近だろうな。周辺で魔物の襲撃事件が多発しているなら、都から避難するような人間も少ないだろう。となれば、町の方にも被害が――」
「それ以上は、語らなくともわかります」
ソフィアが言う。魔族との戦い――その苦い経験を、彼女は胸に抱えている。
俺は仲間達の様子を見つつ、考える――ゲームでも、敗北条件は城門を突破されることだった。平地にあるアラスティン王国の都は四方が城壁で囲まれている。その城壁を突破されてしまえば、終わり――そういうことなのだろう。
俺は十五周プレイしていて、このイベントに幾度も関わって来たが一度もやられたことはない。難易度自体はそう高くなかったが、実際の戦争となると、どうなるのか。
また、今回村を救ったことで気付いたが、数が何よりの問題だと思う。騎士の兵数が如何ほどで、また魔物の数や質はどれほどなのか……ソフィア達は楽勝でも、実戦経験の少ない兵士にとっては間違いなく強敵だ。アラスティン王国はどう立ち向かうのか――
「……都へ、急ごう」
俺はやがて口に出す。仲間達は全員同意を示し――後のことは騎士達に任せ、先を急ぐことにした。
それから数日後……俺達はとうとうアラスティン王国首都、ラハイトへと辿り着いた。
城壁は白色なのだが、これは元々魔法などに抵抗力のある素材を使っていたはず。遠目から見える白い城壁の景観は非常に良いが、戦争が差し迫る状況であるためか、空気が重いようにも感じられる
「やはり鍵は、門を守ることにあるだろうな」
堅牢な城門を見て、クウザはそう言及する。
「確か、この都の城門は四方にあったと思うが」
「はい、その通りです」
ソフィアがクウザの言葉に応じる――彼女は現在、外套のフードを目深にかぶっている。
「東西南北……魔物が攻め寄せてくるとしたら、包囲するのは間違いありませんが……どこかに戦力を集中させるのか、それとも万遍なく攻め寄せるのかでも戦い方が変わってきますね」
「魔物はおそらくコボルトだろうけど……兵士達は大丈夫なのかな」
クウザは門を守る槍兵を見て言及。
「兵士全員に戦闘経験があるはずもないだろうし。ただアラスティン王国は宝剣の存在もあって、精強というイメージもあるけど」
「兵の質は、他国とそれほど変わらないと思います」
またもソフィアが言い、説明を行う。
「ただ、強いとよく言われるのには理由があるのは間違いないです。その中で特に有名なのが、将軍」
「名はボクも聞いたことがある」
シルヴィが言う。俺もまた頷き、その名を記憶から引っ張り出す。
これから始まる戦争で、戦死してしまう将軍――名はボスロ=ムバイン。五十代にもなろうかという年齢にも関わらず、その技量はいまだ衰えず、国民も信頼している剛将だ。
この戦いでは彼も守る必要があるのだが……確か魔物との相打ちだったはず。彼の名は魔族も把握しているため、撃破するため強力な魔物を差し向けたはずだ。彼がやられるとなると、魔物も相当な能力を持っているのは間違いない。
そこが大きな障害だろうか。これについては俺が対処すべきだろう――その時、城門の方から声が聞こえた。何やら話し込んでいる様子だが――
「……あ」
ソフィアがいち早く声を上げる。何事かと思っていると、城門付近の状況が見え始める。
……まさか、と思った。いや、この場合は噂をすれば、というやつだろうか。
先ほど名を上げた人物――将軍ボスロが、城門の前に立っているのが見えた。




