闇との決着
二度目に放った闇属性最上級魔法は、一度目と比べて出力が上……またも闇に飲まれたアズアはどう出るか。
全てが闇に染まった瞬間、一度目と同様にアズアの気配すら感じ取ることができなくなる。
その中で俺は闇の中でアズアのいた場所を注視する。もし防御に専念せず攻撃を仕掛けてくるなら、迎え撃つ必要がある――
だが、結局アズアはこちらへ攻撃してくることはなく、魔法が終わる。同じ場所に立っていたが、明らかに先ほどと比べ疲弊している。
『貴様……!』
「まだ、耐えきれるか」
闇を解放。三度目の『エンド・オブ・クリーチャー』が、周囲に漆黒の闇をもたらす。
発動と同時にアズアも理解しているはず――二度目と比べても威力が高い。
――ゲーム上では魔法の使用者がどんな体調でも威力は一定だった。だが現実となった今では体調が悪ければそれも魔法に反映されてしまう。だが逆を言えば、使用者の力加減で威力を調整することができる。
例えば一度目の魔法発動の際、ゲーム的に百ポイントのMPを使ったとしたら、先ほどは百十、今は百三十分魔力を消費して使っているような感じだろうか。
その時、アズアに取り巻く闇が弾けるのを俺は視認した。このまま受け続ければまずいことになると悟ったか――もし放置していればアズアは突破したかもしれない。だが俺はここで魔力をさらに注いだ。
基本、魔法は発動する前に魔力を注いだ方が効率が良い。魔法が発動した直後に魔力を注いでも、思うほど威力は増加しない。
しかし今回の場合は功を奏した。アズアは最後まで抵抗していたが、俺は神霊の動きを封殺することに成功した。
そして、四度目の詠唱に入る――魔法が途切れ、アズアが姿を現す。やはり最初と比べ疲弊している。けれど最上級魔法で押し切るにしても、アズアが完全に疲弊に動けなくなるくらいに仕掛けるとなると、気が遠くなるほどの回数を要するだろう。俺自身それくらい連続で魔法が撃てるとしても、さすがにそこまでするつもりはなかった。
だから、俺は四度目の魔法に相当な魔力を注ぐ。その量は、一度目と比べ倍近いもの。三度の魔法行使により、どのくらいの出力ならばオーバーフローを起こすか考え、予測した結果。
ガルクに光属性最上級魔法『ラグナレク』を放った時は、必要な魔力に多少色をつけた程度の出力だった。けれど、今回は違う。俺自身興味すら抱く。通常と比べ倍近い魔力。それがどういった結果をもたらすのか。
その魔力を、アズアは明確に感じ取ったのだろう。神霊であっても規格外のものなのか、途端に声を上げた。
『待て、貴様――!』
制止の言葉に対し――俺は容赦なく四度目の闇を生み出した。
周囲が黒に染まる。先ほどと比べ明らかに膨大な魔力。
刹那、闇に飲み込まれる前にアズアはカッと目を見開き、対抗するべく魔力を噴出した。
だが次の瞬間、闇にその姿が飲み込まれ――結果として、これまでと同様アズアの気配が、俺の魔法によって消え失せた。
『……さすがだな』
ガルクが言う。どうやらこちらも驚いている様子。
『四度目はそれまでと威力も別次元だ……どれほどの魔力を込めた?』
「倍に到達してはいないんだけど」
『そうか……しかし、これはさすがにアズアも対応できないだろう』
ガルクの言葉。やがて魔法が終了し闇がはがれると……アズアが片膝を立て、苦々しい表情で俺を見据える姿があった。
『ぐっ……!』
呻き、さらに三度目の魔法終了時と比べ、相当な力を使ったのは間違いない。
『確実に、先ほどの出力には対抗できなかった』
ガルクが語る。神霊が語る以上、間違いないだろう。
『アズア、我には理解できるぞ……その様子から、ルオン殿の目論見通りとなったな』
「つまり、アズアは……」
『うむ、とうとう魔力を吸収も受け流すこともできず、自身の体に大きなダメージを受けた』
オーバーフローを起こしたということで、間違いないらしい。
『アズア、これはさすがに認めざるを得ないだろう? ルオン殿の魔法を受け続け、その結果がこれだ』
アズアは何も答えない……いや、自分の身に起きたことが理解できず混乱しているのかもしれない。
俺はただアズアの言葉を待つことにする……そこへ、ガルクから声が。
『アズア……貴殿の得意な属性の魔法だ。それらで上をいかれてしまった以上、少なくとも認める他あるまい』
『……そうだろうな』
アズアもとうとう認める言葉を吐き出し、そして、
『わかった……ルオン殿の言葉に従うようにしよう』
――こうして、アズアとの戦いが終わった。
『しかし、驚きだな』
戦いが終わった後、ガルクが俺へと告げる。
『我と戦った時以上に、力押しで勝つことになるとは』
……最後は最上級魔法の連打だったからな。そういう見解を抱くのは当然か。
修行時代さすがにこれほど最上級魔法を連続で行使するような機会はほとんどなかったんだが……戦いが終わってもずいぶんと余力がある。あれだけ修行したのはやはり無駄ではなかったのだと改めて思いつつ、アズアに言及。
「さて……共に戦ってくれることになったわけだが、俺が言えることはただ一つ。ガルクや他の精霊達と連携し、大陸崩壊を食い止める策を講じてくれ」
『わかった』
アズアはあっさりと従う……俺が単独で来たならどうなっていたかわからないが、同じ神霊であるガルクが立ち会ったという要因から、すんなり従っているのかもしれない。勝利したはいいがへそを曲げられたらどうしようかと思っていたのだが、大丈夫そうだ。
俺はなんとなくガルクへ視線を送る。すると『大丈夫だ』と言わんばかりの視線を返してきた。
『アズアがどう動くかは、我に任せてもらおうか』
「わかった……頼むよ」
『うむ、この調子で次も頼むぞ』
次、というのは残る最後の神霊であるフェウスのことだよな。不死鳥という名がつけられている以上、倒しても復活しそうだが……この辺り、情報を集めた方がいいのだろうか。
まあ、今考えても仕方がないか。
「さて、それじゃあ戻るとしようか」
『うむ、アズア。ひとまず我の言う場所へ行ってもらいたい。といっても、さすがに本体そのものでは目立つ。我のように分身を派遣してくれ』
『いいだろう』
神霊同士の会話が進む……ここで俺は、一つ疑問が。
「ガルク、魔王の魔法に対しては、どういう対策をするんだ?」
『まだ完全に魔王の魔法について検証が済んだ状況とは言えんから断定することはできん。だが、ルオン殿からもらった情報から、どうするべきかはある程度結論が出ている』
「心強いが……どのくらいの時間が掛かる?」
『期間もまだ明言はできないな』
「そうか……とはいえ、策が構築するのはまだ先なんだな?」
『少なくとも二日三日ではできん。我らが対策を立てていることを露見してはならないため、慎重に動いていることも時間が掛かる要因だな。密かにやるとなると、数を利用して対処することは目立つためできん。それに、我ら神霊も表向きは活動していないように見せなければならない……むしろ、そちらの方に神経を尖らせているくらいだ』
……ガルクの言うことはもっともだ。見つかったら終わりな状況である以上、まず動いていることがバレないようにすることが第一。
「もし何かあったら、すぐに連絡を」
『わかっている。仕損じることはないようにするが……何かあれば、その時は頼むぞ』
俺を信頼するようなガルクの発言……まあ、アズアを圧倒したのだ。このくらいのセリフが来てもおかしくはないか。
それからアズアとガルクはさらに協議をした後、俺は歩き始める。これで目的は果たした……俺は今後何をすべきか頭の中を整理しつつ――洞窟を出た。




