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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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水と闇

 まず俺は、剣の切っ先を向けながら詠唱を開始する。それには二つの意味があった。一つはアズアに対し威嚇という意味合いなのだが、もう一つはわざと魔力を高めることで、俺の能力をある程度理解させる狙い。


『……それがお前の力か』


 目論見は成功。ガルクのように一目見ただけで判断はできなかったらしいが、俺の能力は悟った様子。

 これで『十分な力だ』とか言われるのを少し期待していたのだが……そういうわけにもいかないらしく、


『ガルクを打ち破ったのだ。それくらいの力はあってしかるべきだろう。だが――』


 アズアもまた魔力を噴出させる。瘴気などでは決してないが、闇の力が大いに混じっているためか、相当重い。


『私が納得するかどうかは、別の話だ』

「……わかったよ」


 とはいえ、俺は本気でやった場合魔王すらも打ち破れる力を持っている以上……全力でやったら滅びるのではないだろうか。

 同じ神霊の不死鳥フェウスならば、その名の下に復活とかするのかもしれないが、アズアはそうもいかないだろう。


『来ないのならば、こちらからいくぞ』


 宣言。それと共にアズアは右手を俺へ向けかざし、魔力を収束させる。

 おそらく闇属性の魔法。俺はアズアの動きに対し左手を突き出すことで応じる。


 まずは、互いが魔法を放つ――アズアは名もなき黒い塊。対する俺は闇属性下級魔法『ブラックファング』――見た目はアズアが放ったものと同じだが、激突した瞬間威力の違いが如実に表れた。


 こちらの黒が相手に飲み込まれ……俺は咄嗟に魔力障壁を厚くする。


 刹那、黒弾が周囲に弾けた。地面などに触れると瞬間弾丸が着弾するように小さな穴ができる。散弾とでも言うべき魔力の塊は俺にも当たったが、障壁によって事なきを得る。

 反射的に行動したけど、通常のままでもおそらくダメージはゼロだったはず――


『その魔力を活かし、私の攻撃を完全に防いだか』


 アズアは俺の障壁に対しそう述べた後、疑問を口にする。


『しかし今の魔法。私が持つ闇だったな。私を納得させるならば、他に手段があるのではないか?』


 どう答えるか――悩みながら返答しようとした矢先、ガルクが声を発した。


『もしルオン殿が本気を出せば、アズア……お前など、あっさりと消し飛ぶからだ』


 おい……!? 驚いている間に、アズアは『ほう』と小さく呟く。


『つまり、私とその人間とは、相当な差が存在すると?』

『そういうことになるな』


 煽ってどうする、と思ったのだが……アズアはここで、さらに強い気配を発した。


『ならば、それを証明してみせろ』


 俺へ向け殺気すら見せ始める――並の人間ならば、発する魔力に当てられただけで気絶しそうなほどの威圧。だが俺は超然としたままで、どう動くか考える。


『ルオン殿』


 ここで、アズアを挑発したガルクが声を発した。


『アズアを真に屈服させるには、奴の全力を引き出す必要がある。本来の力を持つアズアを倒してこそ、ようやく認めることになるだろう』

「だからあえて挑発したってことか……まあ確かに、効果はてき面だったみたいだけど」


 アズアにしても、安い挑発だとわかりそうなものだが……まあいい。ガルクの言う通り、本気を出した状態の勝負に勝てば、アズアも認めざるを得ないだろう。


 問題は攻撃手段だが……ん、待てよ。アズアを滅ぼしてしまう可能性を考えると、光属性のようなアズアの弱点みたいな魔法では攻撃できない。だが水と闇――この二つはアズアが司っている属性だが、これらを用いて勝負し押し勝ったのなら、完全勝利ではないだろうか。


 もっとも、アズアにとっては面目丸つぶれになるけど……やっていいものか考えていると、


『それでいいだろう』


 俺の考えを読んだかのようにガルクが言う。まあアズアを滅ぼすことができない以上、それが無難か。


 とはいえ、まずは検証しなければならない。アマリアの話によればアズアは水と闇を吸収するはずだが……果たしてそれが本当なのか。

 俺は再度詠唱開始。アズアは待ち受ける構えであり――俺は再度『ブラックファング』を放つ。


 アズアは最早避けようともしない。魔法は直撃したが――障壁に当たった。


『……私の能力を推し量るような動きだな』


 俺の目論見を看破するように、アズアは言う。


『その余裕の態度がどこまでもつか見物だな』


 アズアは宣言する……これは単に倒すのではなく、今のような態度を示す相手を屈服させるための戦い。俺は呼吸を整え、どのように動くべきか考える。


 先ほどの攻撃ではまだ無効化なのか吸収なのかはわからない。障壁を破壊し、その反応を見るしかないだろうか。

 どうするか……考える間にアズアが動く。突如地面から水流が上がり、さらに黒々しい闇の力がその体から溢れ出る。


 来る――と思った瞬間、アズアが仕掛けた。真っ直ぐこちらへ向かって――俺は即座に詠唱開始。間に合うか。

 距離を詰めたアズアの拳が放たれる。それは明らかに闇の力……その瞬間、俺は魔法が完成した。


「――水流よ!」


 声と共に放たれたのは『ストリームインパルス』という水属性中級魔法。水圧によって押し潰す魔法だが――闇属性の拳とまともに激突し、水流が一時アズアを飲み込む。


『――こんなもの』


 言葉と同時、水流が弾けた。その間に俺はさらなる詠唱を行う。


 魔法はアズアを飲み込んだが、やはり障壁を壊すことはできなかった。ただ水属性の魔法を障壁で無効化している様子はなく、壊せるのではないかという考えも抱く。

 さらに魔法を発動。先ほどと同様『ストリームインパルス』であり、これで障壁を破壊できればと思いつつ――


『無駄だ』


 切り捨てながらアズアは攻撃を仕掛ける。こちらへ進撃してくる様は、その見た目もあって相当な恐怖を感じさせるもの。だが俺は、しっかりと相手を見据えいかなる状況にも応じられるよう備える。


 魔法が激突。だがアズアは水流を強引に突破しようと俺へ迫る。

 そこへ、俺はさらなる魔法を放った。これもまた水属性中級魔法で、名を『アクアコンヴァージ』という。水流が鋭く尖り槍のように一点に集中し相手を貫く魔法。


 その目論見は果たして――水流がアズアの体へ収束する。その時、俺は水が障壁と激突してどうなったか、理解した。

 同時、即座に突撃を避けるべく横へ移動する。アズアの愚直なまでの攻撃は空をきり、立ち位置を反転させる結果となる。


 すぐさま体勢を整え――直後、アズアが言った。


『気付いたようだな』


 俺は相手を見返し……やがて、導き出した結論を口にした。


「障壁にも、吸収効果を与えることができるのか」

『そうだ。これこそ私の力。水や闇を使う意味がないことを理解したか?』


 俺の言及にアズアは反応――ガルクの場合は障壁とガルク自身の特性は別だった。だがアズアの場合、先ほど水流が直撃した時、俺が放った魔力が障壁へと吸い込まれるように感じた。


 これは先ほど『ブラックファング』を放った時とは異なる現象――アズアはどうやらガルクとは異なり、障壁にも自身が持つ特性を与えることが可能で、しかもオンオフができるらしい。この調子ならば、闇属性も同じことができるだろう。


 アマリアが語った通り、吸収……その能力を考慮した場合、一番先に考えられるのは魔法を延々繰り出しオーバーフローを起こさせることだが――


『どうした?』


 アズアが問う。さらに魔力が高まり、威嚇してくるのがわかる。


 問題は、吸収といっても水と闇どちらが有効なのか……アズアは水よりも闇属性を中心に攻撃している。となればアズアとしては闇の方が得意分野なのかもしれないが――


『水と闇、ルオン殿としては、どちらの方が強力な魔法を使える?』


 ガルクの質問がくる。俺はアズアを見据えつつ、答える。


「闇属性、だな。けど、水属性もまだ試していない魔法がある」

『ふむ、そうか……そのどちらかでアズアを上回っていることを証明すれば、納得もするだろう』


 簡単に言ってくれる……だが、それをしなければアズアは納得しないのは間違いない。


「わかった。やってやろうじゃないか」


 俺は決断し――詠唱を開始した。


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