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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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水王との遭遇

 水中を探索する魔法にはいくつかあるが、俺は水流に干渉する系統の魔法を使用することにした。


 魔力障壁を応用すれば水には濡れないのでその辺りは問題なし。地上で使用する移動魔法を利用する方法もあったのだが、水中では速度も上がらないし、なおかつ潮の流れに巻き込まれたりするので効率が悪い。よって、水の流れを調整する魔法を使用した。


 その結果、難なく目的の場所に到達。海の底にぽっかりと空いた岩肌の洞窟。ガルクが『ここだ』と告げるのを聞いて、俺は明かりを生み出した後、洞窟へと入り込んだ。

 ずいぶんとクネクネとした通路……しかし一本道であるため、俺は障害もなく水中から抜け出すことに成功する。


「到着、か?」


 呟きが洞窟内に反響する。周囲を見回すと、そこは岩肌ばかりが存在する空間。背後には俺が抜け出た海面。正面には、奥へと続く通路が存在していた。


 そして通路の奥からは、濃い魔力……といっても瘴気ではない。しかしそれに近い感覚を抱くのは、アズアが闇の属性を司るからだろうか。


『一気に進むか?』


 ガルクが問う。俺は少し考え――


「迷路みたいになっているかもしれないよな」

『おそらくは。とはいえアズアが作成したのではなく、元々こういう場所が存在していたのをアズアが発見し住処に利用しているだけだろう。そして』


 ガルクは一拍置いて、さらに続ける。


『通路から感じられる魔力以外に何も感じない……罠などもなさそうだ』

「とはいっても、注意しないといけないだろうな……ここからは慎重に進もう」


 歩き出す。通路に入ると、少しして枝分かれしたいくつもの道が現れる。


「さて、どう進むか」

『おそらく、右の通路だ』


 ガルクの声。俺はそれに眉をひそめた。


「わかるのか?」

『会ったのは一度だけだが、どのような気配なのかは明確にわかっている』


 これは心強い。俺はガルクの指示を受け右の通路を進む。


 そこからもガルクの助言を頼りに進んでいく……ガルクの予想通り罠の類はまったくないのだが、ずいぶんと複雑な洞窟。これでもし魔物なんていた日には、まともに攻略する場合相当大変に違いない。

 だがガルクが正確な道を教えてくれるおかげで順調に進んでいる……その結果、俺にも明確にアズアの気配を感じ取ることができる場所へと到達する。


「いよいよってことか」


 俺は一つ呟いた後、ガルクへ問う。


「ガルク……ひとまず話をするってことでいいんだよな?」

『そうだな。いきなり喧嘩腰というのも反発を生む。アズアに事情を説明する必要もあるからな』

「アズアは今のところ、他の精霊達が困っていても様子見している感じだが……」

『元々ネレイドを始めとした精霊達と協力関係というわけではないからな。もっとも魔族側が派手に動けば違うのかもしれないが』


 なんとか説得できればいいけど、そんな簡単にいかないだろうなという予感はする。

 そうこうするうちに、俺達は広い空間に到達した。魔力が相当濃い場所で、先へ続く通路も見当たらない。どうやらここが終着点らしい。


 光を強くして空間全体を照らす。天井には鍾乳洞のようにいくつも鋭い岩が存在し、さらに水たまりが地面にいくつも存在している。床面は湿り気を帯び、滑りそうだ。気を付けないと。

 その時、真正面から気配。一番奥に存在する水たまりから、魔力が。水面が隆起し始め、自身の存在を誇示するように魔力が高まっていく。


『――この場所に何の用だ、人間』


 やや若い男性の声……直後、水から抜け出た存在を、視界に捉えた。


 見た目、まるで水そのものが意志を持ち人間のような形となっているような……体の色は青。触ったら弾力がありそうな、滑らかな体をしている。

 ただ唯一、頭部にある目……それは純白であり、俺を見据えているのか目を細めている。


『この場所を探索に来た、というわけではないな?』

「はい……確認ですが」


 まずは丁寧に応じる。


「水王、アズア様ですよね?」

『いかにも、私が水王と呼ばれる存在だ』


 やや高圧的な口調。態度から、俺に対する興味はあるが、それと共にここに侵入してきたことに対するいら立ちがあるようだ。下手なことを言うと、すぐに戦闘となりそうだ。


『私に用があるようだな……何が目的だ?』


 問い掛けに――俺はアズアを見返し、告げる。


「お願いが、一つ」

『願いだと?』


 アズアはにわかに魔力を発する。こちらを威圧するようなものであり、少しでも対応を間違えるとすぐに闇魔法が飛んできそうだ。


「はい……魔王との戦いに際し、アズア様の力が必要となりました。それ故、ここを訪れた次第です」

『魔王との絡みか……用件はわかった』

『――ルオン殿』


 ここで、ガルクの声が聞こえた。


『ここからは我が説明しよう。同じ神霊という立場で戦いに加わっているのを知れば、反応が変わるかもしれん』

「……わかった」


 小声で応じた瞬間、右肩から突如気配が。そこに、子ガルクが出現した。


『久しいな、アズア』

『この気配は……もしや、ガルクか?』

『いかにも』

『ずいぶんと姿を変えたな……いや、仮初めの姿か。お前はその人間に協力しているのか?』

『そうだ。貴殿の力がいる。協力してもらいたい』

『内容による。話してもらおう』


 神霊が相手ということで硬質な態度が緩和される。そしてガルクは説明を始めた。俺の能力についてや、この大陸の状況。そして魔王が強大な魔法を放つということを説明し――


『――魔王の魔法が発動すれば、間違いなくアズア自身にも何らかのダメージはいくだろう。我々の目的は、魔王が放つ魔法を防ぐこと。それに協力してもらいたい』

『事情は理解できた……が、一つ質問がある。地底奥深くに魔力を仕込んでいる以上、大陸に甚大な被害が出るのは理解できた。だがその場合、我が支配領域の海はどうなる?』

「――少なくとも、大陸の周辺にも被害は出ていたはずです」


 俺が答える。するとアズアはこちらへ視線をやった。


『それは、私の活動領域も入っているということか?』

「はい。間違いないかと」


 返答に対し、アズアは沈黙する。俺達から聞いた情報を統合し、結論を導き出しているのだろう。

 俺やガルクはそれを待つ構え……おそらく数分くらいの静寂だったが、やけに長く感じられた。そして――


『ガルク……その計画で、本当に大陸を救うことになるのか?』

『我らが打てる手で最善なのは間違いないだろう』

『確かに、これから話をしにいくであろうフェウスも加われば、魔王のその力に対抗できるかもしれん。だが、一つ疑問がある』

『何だ?』

『その人間の協力が必要なのか?』


 問い掛けに、ガルクは僅かな沈黙の後、答える。


『……先ほど話したが、我を打ち破った人間だ。共に戦うに足る存在であるのは間違いないぞ』

『確かに、並々ならぬ力を所持しているのは理解できる。だが、そこは確認せねばなるまい』


 ――言葉の端々から、好戦的な雰囲気を感じ取る。何を言いたいのか俺にもわかった。


『……ルオン殿』

「みたいだな」

『覚悟はしていたということか……どの道、私はお前の力を見定めなければ判断できない』


 最初は危なかったが、ガルクの存在により話ができた……けれども結末は変わらない。


 俺は剣を静かに抜く。一方のアズアは様子見の構えなのか、こちらに視線を送った状態で沈黙を守る。


 呼吸を整える。アズアは俺が動くのを待つ様子であり……それに対し、俺は先んじて動く――アズアとの、戦いが始まった。


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