海岸線の洞窟
目的の洞窟は町から数時間といったくらいの場所で、それほど遠くなかった。クウザの話によると潮の満ち引きによって入り口が閉じるケースもあるらしいが、今は大丈夫のようだ。
岬の下に存在する洞窟で、自然形成された下り坂の道が存在している。俺達は静かにそちらへと歩み寄り……洞窟前に到着。
入口からは、魔物の気配は一切ない。身を潜ませるのが得意なのか、それとも海中にでもいて探れないのか。
「それじゃあ行こうか」
クウザが言う。俺達は頷き、明かりを生み出し洞窟の中へと入り込んだ。
中は気温も低く、海が近くにあるためか湿り気もある。足元に注意しつつ俺達は進み……やがて、左右に道が分かれる分岐に到達。
「……変ですね」
ここでレーフィンが現れて声を発した。
「ネレイドがいてもいいのに、気配はまったくないです」
「隠れているのか、それとも……」
目を細めクウザは語る。最悪のケース――洞窟内にいた精霊は全て滅んでしまったのか。
「いや、考えても仕方がない。進もう。どちらに行く?」
そう問い掛けた時――ヒタヒタと、洞窟内に足音のようなものが聞こえてきた。
俺達はすぐさま戦闘態勢へ。音は左側からやってくる。音からするとオークやゴブリンの類じゃないな。
剣を構え待っていると……半魚人のような見た目の二本足の魔物が……サハギンだ。
今のソフィア達ならば問題なく倒せる敵。ただ仲間を呼ぶ特性があるため、早めに倒さないと至極面倒なことになる。
一気に倒すかと思った直後、右側からも音が聞こえてくる。
「……どうやら、数はいるみたいだな」
クウザが呟く。サハギンの特性を把握しているための言葉だろう。
武器などはなく、攻撃手段は拳か体当たりだが……数で来られると面倒。さっさと倒した方がいい。
「……左右からなら、互いに背中合わせてやろうか」
ここでクウザが提言。するとシルヴィがクウザの隣へ。
「なら、ボクとクウザだな」
「よろしく。そっちは大丈夫か?」
「ああ」
頷き、俺はソフィアと隣同士となり、左側の通路にいるサハギンを見据えながら考える。魔族もいないので本気を出してもいいかもしれないが……クウザのこともあるし、ひとまずは加減した力で対処するか。
「……ソフィア、連携で対処しよう」
言葉に――ソフィアは小さく頷いた。
「わかりました。ルオン様の動きに合わせられるよう、頑張ります」
……そう肩に力を入れなくてもいいんだけど。
俺は真正面からサハギンが襲い掛かってくるのを目に留める。同時、ソフィアとまったく同じタイミングで足を踏み出した。
剣を構えつつ『ホーリーショット』でサハギンの右足を狙う。結果、足の甲に直撃し、動きを止めた。
「やっ!」
そこへソフィアの一閃。胸部を狙った一撃はしかと入り、魔物はたじろぐ。
「ソフィア、長期戦になる可能性もある。できるだけ魔力は節約するんだ」
「わかりました」
応じ、ソフィアは剣を振るう。的確な動きはまさしく修行の成果。サハギンに反撃されることなく、あっさりと撃破した。
これなら……そう考えた直後、後方からボン、という音が。おそらくクウザが『ファイアボール』でも使ったのだろうと思った直後、今度はバリバリという雷撃の音が。
一瞬だけ振り返る。ゲームの時と同様、絶えず下級魔法を使う能力をいかんなく発揮し、敵を倒していた。どうやらゲームで持っていた能力は健在……理解し視線を戻すと、さらに正面からサハギンがやってくる光景が。
「……もしや、サハギンの巣になっているのか?」
とはいえこいつらは魔王の手勢というわけではなく、瘴気に当てられ暴走したタイプだと思うんだが……さらに後続からもサハギンが。
「ルオンさん、そっちは大丈夫かい?」
後方からクウザの問い掛け。右の道も似たような状況なのだろう。仲間を呼ばれるのを危惧していたわけだが、この様子だと最初から群れだったのかもしれない。
「大丈夫だ……そっちも気を付けろ!」
声を上げると同時、向かってくるサハギンに剣を振る。加減しているのでサハギンを倒すことはなかったが――ソフィアが追撃の剣を当て、撃破に成功。
後続からさらなるサハギンが迫り……俺とソフィアは連携で対処する。ここまであまり肩を並べて戦ってこなかったが、それでも俺と彼女は上手く連携がとれていた。
俺が魔法でサハギンの部位を撃ち抜き、ソフィアは追撃で仕留める。一方後方はシルヴィとクウザがほとんど単独でサハギンを倒しているような格好。こちらは連携というよりは、互いが思うがまま敵を倒しているという感じだ。
ただこの事実は、魔法使いであるクウザも単独で戦える能力を所持しているという証明にもなっている。町で俺達と出会うまで彼は一人で旅をしていた。シルヴィと関わったように誰かと組んで活動することもあったはずだが、それでも単独で魔物と戦う状況も少なくなかったはずだ。それができるのは、魔法を連発できる能力だろう。
改めて『三強』の特性を所持していることを認識し……全て撃破したのはおよそ十五分後だった。
ようやく襲ってくる敵の姿がなくなり、一息つく。そこでソフィアはクウザへと口を開いた。
「魔法ですが、詠唱していた気配がありませんね」
「詠唱は体の中に眠る魔力を準備する行為だから、訓練次第ではなくてもできるんだよ」
笑いながら当たるクウザだったが、そんな奴ゲームではお前一人だったぞ。
俺も得意魔法を極めて限界ギリギリまで詠唱時間を皆無に近くできているものもあるが、それは訓練の成果。彼の場合はセンスの問題だろう。
「ソフィアさんは戦いの最中魔法なんかも使っていたが」
クウザが話を向ける。当のソフィアは小さく頷き、
「はい。精霊と契約していますし、魔導技も」
「なるほどな……見たところ剣術中心のようだが、魔法を鍛える選択はないのかい?」
「魔導技を強化する意味合いでは、重要かもしれませんね」
「……機会があれば、その辺りを強化してもいいか」
俺が言及。精霊の力を活用するならば、魔法面の強化もいいだろう。
「お、アカデミアに来るかい? もしよければ人を紹介してあげられるけど」
クウザが陽気に尋ねる。俺は「考えておくよ」とだけ返答し、
「先へ進むとしようか」
その言葉により、俺達は移動開始。話し合いの結果、左の道へ行こうと決めた。
以後、散発的にサハギンが現れるのだが、俺達の敵ではなく奥へと進む。最初の戦闘からおそらく一時間ほどだろうか……真正面から強い瘴気を感じ取ることができる場所に到達。
どうやら終着点が近い……洞窟の規模自体はそれほど大きくないのだと思いながら、俺達はそちらへ進む。また現段階でも精霊ネレイドの姿は見えない。魔物を倒してから探すべきだろう。
そうして俺達が辿り着いたのは、海水が入り込む広い空間。入り江とでも言えばいいのだろうか……真正面にたゆたう海が存在し、今にも暗闇の奥から何かが出てきそうである。
「……瘴気はあれど、見当たらないな」
クウザは呟きつつ僅かに波打つ水面へ近づく――そこでなんとなく嫌な予感がして、俺は口の中で詠唱した。
唱えている間に水際に立つクウザ。ソフィアやシルヴィもまた同じように歩もうとした時――
突如、真正面の水面が盛り上がる。それと同時、海面に巨大なイカの足が出現した。
「っ――!?」
ソフィアが小さく呻くのを耳にすると同時、足は海面に一番近いクウザを引きずり込む気か彼へと迫り、
「――炎よ」
そこへ俺が介入した。迫ろうとした足を俺が放った『ファイアランス』が消し飛ばす。
クウザは即座に足を引き戻し、ソフィア達も戦闘態勢に入った。当の彼は俺に「悪い」と言うと、杖を構えた。
水面がさらに盛り上がり姿を現す。一言で言えば白い巨大なイカ……って、これ絶対クラーケンだろ!
漫画とかアニメとか、様々な媒体で割と出現する手強い敵。水棲の魔物の中でトップクラスと言える知名度に相当な能力を持っている魔物だが……この『エルダーズ・ソード』においては、未登場の魔物だった。




