この世界の人間として
星神との戦いは終わりを告げた。無論やることは残っている。この世界の法則……星神が生まれるプロセスそのものをどうにかするという難題は残っているが、差し迫った話でもないし、頼れる仲間達もいる。大丈夫だと、俺は思った。
で、バールクス王国へ帰還し、二日くらいは宴で騒ぎ――それが終わった後に俺は組織の解散を言い渡した。
「星神との戦いに決着はついた。今後も世界の法則……星神を生まれる事象に対する方策は考えていかないと駄目だが、そこに表立った組織は必要ない。それに、もう戦闘を行うこともないだろうから」
――そうして、集った様々な種族は国を離れた。共に戦った仲間達も一人、また一人と時が経つごとに城を離れていった。もちろん再会を約束しつつ、俺はこの国にいるからいつでも会いに来ればいい……という返答で別れることとなった。
けれど、バールクス王国に残り俺の仕事に付き合う者もいた。星神を倒しておよそ十五日後、そういった面々が集まって話をすることに。場所は組織が運営されていた場所の会議室。俺はソフィアやエイナと共に部屋へ入り、なぜ残ったのか問い掛けると、
「残った、というよりは他に行く場所がないと行った方がいいかもしれないわね」
先んじて告げたのはアンヴェレート……彼女とユノーはバールクス王国に残っている。同じように魔王との戦いの後、旅についてきたリチャルも残っている。
それに加えロミルダとオルディア。さらにリチャルと――なぜかリーゼもいて、
「私はそのうち帰るわよ」
視線に気付いたか、リーゼは言った。
「でもまあ、当面付き合おうかなと」
「……戦闘とかはないだろうし、退屈かもしれないぞ」
「戦うかどうかは関係ないわね。単純に、ルオンのやることに興味があるだけ」
物好きな……と思っていると、会議室のテーブルの上、そこに子ガルクが出現した。
『まずは現状報告だな。星神がいた場所……そこにあった魔力は完全に霊脈へと流れ、あの場からは消え失せた。再びわだかまり同様の存在が生み出されることは、当面ないだろう』
「あくまで当面だな」
『うむ、とはいえ五年、十年で同じようなことになるわけではない。次に形となるのは数百年後……そのレベルだろう。ルオン殿達からすればもはやそんな未来の出来事、関係ないと断じることはできるが……』
「俺はやるよ。この世界の法則と……戦う」
その言葉にガルクは頷く。ソフィアもまた同意しつつ、
「バールクス王国は支援するつもりですが、星神との戦いが終わったことで一区切りになりましたし組織は解散しました。それに今までは魔王のような脅威に備え、といった様々な理由をつけて組織を維持してきましたが、今後はそういう口上も通用しにくくなるでしょう」
「活動していくには、色々としがらみを解決していかなければならないと……ソフィアは語っていないけど、現在だって国内から色々と非難があるんじゃないか?」
ソフィアは何も言及しなかったが、否定もしていない……俺は小さく息をつき、
「この世界の法則を相手に……なんて事情説明を納得してくれるかどうかもわからない。ま、ひとまず地盤固めだな。今までは目先に脅威があったから強引に進めていたが、これからは腰を据えて活動するべく、動くとしよう」
「大変そうね」
リーゼが言うと、俺は肩をすくめつつ、
「でもまあ、国に手を貸してもらうというのはそういうことだろ?」
「そうね」
「今まではソフィアやクローディウス王に世話してもらっていたし、ここからは俺も恩を返していかないと、な」
「ルオン様……」
「でも、俺は政治的な活動とかやったことないし、色々教えてもらうことになるけど」
「はい、そこはちゃんと指導します」
ソフィアは答え……ここで俺は、改めて仲間へ向け口を開く。
「大変だとは思うけど、悲観してはいないよ。魔王との戦いから始まり、星神と戦うために世界を旅して回った。魔界にさえ行って、仲間を集めた……禍根が存在する関係でも、俺達は協力して戦った。その経験があれば、乗り越えられると思う」
仲間達は頷く……そして俺はこれからのことに思いを馳せつつ、
「ある意味、星神との戦いとは違う意味で長い戦いが始まるとは思うし、戦いとは違う形で厄介な騒動が起こるかもしれない……それでも、手を貸してくれるか?」
「どこまでやれるかわからないけど」
と、俺の言葉に応じたのはロミルダだった。
「手伝うよ……私も」
「ま、どうとでもなるわよ」
ロミルダに続き、アンヴェレートが言及した。
「決意したのなら、頑張りなさい……次の戦いを終わらせるために」
「ああ……みんな、よろしく頼む」
「はい」
笑顔で応じるソフィア……それと共に彼女と共にこれから歩み続けることになるのだという事実を自覚する。
忙しくなりそうだと思いつつ、仲間を見回して……明るい表情であるのを確認した後、俺は小さく笑ったのだった。
――そこからの出来事について、劇的な変化はほとんどなかったが、着実に少しずつ進んでいることは自覚できた……時折、本当に世界の法則を相手に解決できるのかと不安を抱くこともあったが、仲間やソフィアが「大丈夫」と言い支えてくれて、俺は前を向き続けた。
世界の法則について調べ、俺の人生を費やして果たせるかどうかもわからないのを実感したが、足は止めなかった。仲間と共に、この世界に生きる人間として役目を全うするべく、果てしない荒野の上を歩き続けた。
そういえば星神の戦いを経てしばらくしてから、俺は自分がこの世界の人間であるのを改めて実感したことがあった。当然だろうと仲間はツッコミを入れる話なわけだが、俺にとってはとても重要なことだった。
俺は転生したことで負い目とは言わずとも、自分がこの世界に暮らす人々とは違うのだと考えていた……自分が特別などと言う気はない。がむしゃらに修行して無類の強さを得たけれど、それをもってして他の人間とは違う、高尚な存在などと主張するわけではない。
転生する前の記憶があるから、どこまでも引っかかるものがあったのだけれど――ソフィア達は転生者である俺を受け入れ、共に戦っている。その事実を改めて噛みしめた日、俺は本当にこの世界の住人になれたのだと、心のどこかで思った。
だから、役目を果たそう――誓いを胸に、俺は今日も戦い続ける。星神という存在を出現させないように。
「――ルオン様」
ふいに名を呼ばれた。執務室で書類に目を通している時、ふと意識がもっていかれたらしい。
「ああ、ごめんソフィア」
「寝ていたのですか?」
「いや、考え事をしていた……えっと、用か?」
俺の真正面に立っていたのは、白いドレス姿のソフィア――外へ出なくなってそういう格好をすることが多くなったが、当の本人はなんだか窮屈そうだ。
「はい、婚礼祭について会議室で打ち合わせが。数日前にご連絡していましたよ」
――それは、国が正式に執り行う俺とソフィアの結婚式。言われて、俺はようやく思い出す。
「あ、そうだったな。ごめん、行こう……そういえば、招待状ってどうした?」
「可能な限り配布はしました。旅をしている方々については届いているのかわかりませんが」
「そうか。まあ日にちまでまだあるし、大丈夫だろ。いざとなったらガルクにでも助けてもらうさ」
俺は立ち上がり、ソフィアと共に部屋を出る――結婚式には共に戦っていた仲間達が来るだろうし、星神と戦いが終わった後に繰り広げた宴のように、大騒ぎすることになるだろう。
そんな確信と共に、みんなに会えることを心待ちにしている自分がいた。まあ、結婚式自体は大変だけど……準備もあって現実逃避したくなるけど。
俺はふとソフィアへ目を向けた。すると彼女は笑みを浮かべ、こちらは笑い返す――こうして並んで歩いて笑い合うことも多くなった気がする。
「……ソフィア」
「はい」
「ありがとう」
突然礼を言われて彼女は小首を傾げた。それに俺は笑いつつ、
「言いたかっただけだ……ほら、急がないと」
「はい」
俺達は長い廊下を進む。日差しによって廊下は明るく……その先に役目を果たせた未来が待っている気がして、俺の足取りは軽いものとなった――
完結となります。ここまでお読み頂き、ありがとうございました。




