牙を研ぐ
防壁の上から放たれる多数の魔法。俺の光の槍だけではなく、天使などから射出される多数の魔法が異形へと降り注ぐ。それらが相次いで突き刺さる……が、異形の動きは止まらなかった。
「星神の力か……?」
だが、衝撃はあるのか移動速度が鈍くなった……さらにデヴァルスから号令が掛かり、魔法の雨あられが降り注ぐ。その間に俺が放った『グングニル』の効果が途切れた。直撃した異形は……さすがに、消滅している。
「やはり一番の脅威は、貴様か」
どこからかファーダの声が聞こえた。可能であれば発見次第倒したいところだが……俺は暗視の魔法を使用して戦場を見回すが、
「見つからないな……ガルク、ファーダのことを見つけることはできるか?」
『我にも捕捉はできない』
「完全に隠蔽している、というわけか」
これも星神の力によるものだろうか……? ともかく、まずは攻め寄せる異形の対処からだ。防壁に迫り、その拳を振りかぶる個体が現れる。俺はすかさず『ホーリーランス』を使用して異形の頭部を撃ち抜く……と、さすがにこれは効果があったか消滅した。
「さすがね」
横からカティの声。見れば彼女は俺の隣までやってきて、今まさに魔法を放とうとしていた。
使用した魔法は『ブレイズレイ』であり、炎の熱線が防壁へ迫る異形へ直撃。敵はくぐもった声を上げながら……倒れ伏した。
「そっちだって中級魔法で一撃じゃないか」
「首を吹き飛ばす芸当はできないけれど……ひとまず私の魔法が通用しているのは幸いね」
その時、別所から魔法が。それはクウザからのもので、彼の無詠唱魔法が何体もの異形へ突き刺さった。それらもまた異形を滅ぼすことにつながり……俺達の魔法は通用し、敵は数を減らしていく。
ただ、敵は攻勢の手を緩めない……伏兵を潜ませている陽動のためにあえて突撃しているのか、それともこのまま数で押しつぶす気なのか……異形はなおも接近してくる。なおかつ、最初十数体といった規模だったのに、いつのまにかさらに数を増し隊列も厚みを増している……それを見て俺は、
「これだけの数……異形を生成するというのは――」
『犠牲者がいる、ということだな』
子ガルクが右肩に出現し語り始める。俺は少なからずファーダに対し不快感を抱きながら、
「異形化に利用した人間は全員冒険者とかなのか? いや、それにしたって数が多すぎる。これだけの冒険者がいなくなれば当然、冒険者ギルドで噂になっていてもおかしくはないはずだが――」
『可能性として考えられるのは』
と、ガルクが俺へさらに告げる。
『魔王との戦いに乗じて、だろうか』
「……それなら確かに、冒険者が突然いなくなっても魔物や魔族にやられたと解釈される可能性はあるけど……その仮定の場合、俺が魔王との戦いで奔走している間に動いていたことになるぞ」
『異形が冒険者達のなれの果てであるなら、そうなのだろう』
そう語ったガルク。俺は魔法を放ちながら神霊の考察を聞く。
『リチャル殿が行使した魔法があったように、星神の力を利用する魔法や技術というのは、世界に散らばっている。そうした中で、目の前にいるファーダという存在は星神の技術を手に入れて冒険者を標的に異形を作成した。とはいえ、ここまで強化するのには相応の時間を要しただろう。密かに牙を研ぎ続け……この場所で、我らと相対したというわけだ』
「――おおよそ、正解だな」
突然、どこからかファーダの声がした。どうやら俺と子ガルクの会話を聞いていたらしい。
「魔王が星神を倒すために動いていると、俺は星神から教えられていた。俺の目的から考えて、魔王との戦いに介入しても構わないと考えたが……お前達の戦いぶりを見て、必要ないと断じたわけだ」
「もしかしたら、俺達は魔王を倒すための同志となっていた可能性もあると?」
「かもしれない。その後、星神を倒すべく動いたのだろう? ならば、こちらはそれをさせないよう始末するべきだった……と、言いたいところだが歴然とした力の差があった。どうあがいても無理だっただろう」
俺を見つけた時点で、星神の力を用いても届かない差があったというわけか。
「よって俺は方針を変えた。星神のことを追えばいずれお前達と戦うことになる……それまでに自分の力を限界まで高め、星神からさらなる力を手にするべく強くなる」
「こうやって戦うことになって、どう思ったんだ?」
こちらの問い掛けにファーダは……やや間を置いて返答が来た。
「まさか天使や竜を従えてくるとは思っていなかったが……それでも、相応の戦力を率いることは想定していたさ」
闇の奥からさらなる異形が出現する。なおも魔法による攻撃が続いているわけだが、次第に城壁へと近づく個体が多くなる。
やはり数による物量で押し込む気なのか……いや、本命は伏兵だろうか。ともかく、ファーダは俺達のことを知った上で勝負を仕掛けている。どの程度情報を保有しているのかは不明だが、少なくとも強大な敵を倒すべく挑んでいるのは確か……俺はさらなる魔法を放ちながら、ファーダがどこにいるのかを探し続ける。他の仲間も同様の動きを見せながら迎撃を行っており……その様子は、この拠点に集結してから最大の脅威を前にしているようだった。




