王女の斬撃
斬撃を防いだ魔物に対しリーゼは、即座に一歩後退して体勢を立て直す。指揮をする者として無理はしない……といった様子なのだが、人間型の魔物は一転して足を前に出した。
リーゼの反応を見て押し込めば勝てる、と判断したのかもしれない。漆黒の剣がリーゼへ迫る……のだが、彼女はそれを大きく弾き返した。
ハルバードの斬撃は魔物の動きを鈍らせるくらいには衝撃を生んだ。よってリーゼは余裕で魔物の間合いから外れる。けれど魔物はそれでも追いすがる。
技量は残っているにしろ、その挙動は押しの一辺倒であり、何かしら判断基準があってリーゼを攻め立てている雰囲気がある。この辺り、星神が命令を与えているのかわからないが……なおも魔物がリーゼへ迫る。
そこでようやくリーゼも立ち止まった。そこで先ほどとは異なる点が。ハルバードがわずかながら発光している……これは魔力を収束させた結果だろう。量が多いため、収束し切れていない魔力が一部発露して、光を生んでいる。
俺はそれを見てリーゼの目論見が一撃で倒すことなのだと理解する。後退したのは魔力を収束するための時間稼ぎ。それを証明するかのように、魔物が食らいつく中でリーゼは敵へ向かう。
そして漆黒の剣が放たれるよりも先に、リーゼの攻撃が繰り出された。魔物はそれに反応し防ぐか回避するか……結果として、まず漆黒の剣で受けようとした。
おそらく受け流して横か後ろへ逃れるつもりだったのだろう。けれど、リーゼの斬撃はひと味違った。漆黒の剣が触れたかと思うと――受け流すよりも先に強引にハルバードが振り抜かれ、剣ごと魔物の体に斬撃が叩き込まれた。
皮膚を硬化させるという処置はされていたはずだが、それを無意味とするようにリーゼが魔物を消し飛ばした。うん、状況的に問題はなさそうだ。
ここで俺は意識を自分達の戦場へ向ける。既にかなりの魔物を倒し、気配を探る限り残り二体……と、その魔物も俺達の前方に出現した。
「私が!」
ソフィアが宣言すると同時、追随する形でエイナが走った。そこで俺は援護に回るべく魔法を放てる準備をしておく。形勢が不利になれば強化魔法によって補助するというわけだ。
クウザも俺と同じ事を考えたらしく、無詠唱魔法をいつでも放てるように準備をした。直後、残る二体の魔物とソフィア達は戦闘を開始する。敵は人間型であり、剣を持っているのだが――激突した直後、ソフィアの魔力が高まり魔物の剣を砕いた。
その勢いのままに彼女は魔物の胴体にも一閃し……一体はあっさりと滅び去る。そして残った魔物もまたエイナの猛攻を受けて、あっさりと沈んだ。
これで、戦闘は終了……なおかつ、リーゼ達の方も戦闘は終了した。魔物の数は南北でそう変わるわけではないのだが、南部の方は俺やソフィアがいないにしても人数が多かったため、魔物を撃破したタイミングは俺達と同じだった。
俺はガルクに命じて周辺の気配を探るよう言いつつ、自分もまた周辺を調べて回ってみる。
「拠点の中を調べてみるか」
これについては仲間と手分けをすることに。設置された天幕などを見て回るのだが……これといったものはなし。一応、今回この場にいた人物達の名簿みたいなものは手に入ったのだが、
「星神によって体を作り替えられた人間……色んな大陸から集まったみたいだな」
「なんというか……」
俺の呟きに、クウザがやれやれといった様子を見せる。
「わざわざ大陸外から来て、その結果が魔物化……救われない話だな」
「ああ、まったくだ……彼らは俺達を倒すことで星神から力を得ようと思っていたんだろう。星神の口車に乗せられて……」
「俺達の能力を暴くための駒にされた、というわけだ」
「……もしかすると、俺達の役割を調べたのかもしれない」
なんとなく考察すると、今度はソフィアが首を傾げた。
「ルオン様、どういうことですか?」
「決戦の際、俺達はそれぞれに役割を振った……星神としてはその辺りを調べることで、こちらの立ち回りを推測しようと考えたのかもしれない」
『――確かに、単純に切り札を暴こうという雰囲気ではなさそうだな』
俺の言葉にガルクが反応して、話し始める。
『ルオン殿の言うように、戦い方などを調べていた可能性はありそうだ』
「わざわざこんな悪趣味なことをする必要はないのに、だな」
『そうだな。ともあれ、我々は編み出した技術の一つを星神に提示し、さらにそれぞれの戦いぶりなどを観察する結果になった……着実に情報は奪われている。可能であればこれで終わりたいところだが』
「正直、攻撃が終わりとは考えにくいけど……」
なんとなくそんな予感がした。これにはまだ続きがあると。
「ただこの戦いにも勝利した。この拠点には用もないし、一度拠点へ戻ることにしようか」
『うむ、そうだな。ちなみに南部の方はどうなっている?』
「俺達と一緒で、敵の拠点内を調べているけど、成果は上がっていないみたいだ」
まあ、星神の情報が手に入るわけでもないし、仕方がない……というわけで、俺はリーゼ達にも指示を送り、拠点へ戻るべく歩き始めた。




