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賢者の剣  作者: 陽山純樹
世界を救う者

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悪辣

 目前で変質する人間達を見て、俺はあることを思い出す。それは、アラン……俺と同じように転生した彼は最後、星神によって大きく変質させられていた。それと同じ事が、どうやらここでも起こっている。


「……リーゼ!」


 俺は使い魔を通して呼び掛ける。同時、敵の拠点へ踏み込んだリーゼ達も立ち止まり、その場にいた冒険者達が変容を始めた。


『ルオン、そちらは――』

「こっちも同じ状況だ! 星神は……最初からこういう風に人間を使い捨てる気だった――」


 俺はおぼろげながら星神の魂胆を悟る。平行世界の人間と、アランと同じように星神の力によって変化する人間……どちらも星神由来の存在である以上、脅威でありこれまで修行をしてこなかったら負けていたかもしれない存在。だが、平行世界の人間達をこちらは被害もなく倒しきった……それに続いてこの世界で星神を信奉する者達の変容である。

 ガルクが言っていたように星神はこちらがどういう策を持っているのかあぶり出したいという思惑があるのだろう。だがそれ以上に――これまで度々俺のところに顔を出していた星神の姿を考えると、


「悪趣味だな……星神というやつは。これはおそらく、俺達を驚かせたり不快にさせることを重視している」

『憎悪、かもしれんな』


 俺の言葉に対しガルクはそう考察した。


『星神が持っている根源的な破壊衝動……それが我らに対する敵愾心となって、策の中に現れ出ている』

「星神は、こんな風になった人間を見せつけることで、私達の士気を落とそうと?」


 問い掛けてきたのはソフィア。確かにそういう面だってあるかもしれない。だが、


「わざわざ人間を逸脱した存在にする必要はない……人の状態である方が俺達としてはやりにくいし、実際有効だったはずだ。俺達はここにいる人間を倒して捕まえようとしていたわけだから」

「そちらの方が難しいわけですからね」

「それは星神も理解できているはずだ。でもそうしなかった。わざわざ平行世界から招き寄せた存在を捨て石に使い、それでいて自分を信奉する存在を弄ぶ……こちらの策を暴こうという意思は多少なりともあるとは思う。だが、それ以上に星神は……通常ではあり得ない行動をとる。それは、士気を下げようなんて意図とは違う」


 俺達は拠点の外で状況を窺う。人間であった冒険者達は漆黒を身にまとい、やがて形を成す。マネキン人形のように曲線を帯びた人の形をしている存在もいる。あるいは、巨躯となって獣の咆哮を上げる個体もいる。


「星神は……純粋にこちらがどういう反応をしているのか楽しんでいる。俺達の反応を見たいがために、非効率的な策を用いている」

「……星神の思考を理解することはできませんが、やはり普通では考えられないですね」

「そうだな……そもそも、俺が幾度となく顔を合わせた星神だって、一つの意識というわけではなかったはずだ。なら様々な感情が混ざり合い、俺達に策を施した……そんなところだと思う」

「こちらにとっては、いい迷惑だが」


 クウザが応じながら戦闘態勢に入った。それに合わせるようにシルヴィもまた、さらにエイナやユスカも剣を構える。


「ああ、違いないな……さて、ガルク。こういうやり方なら、俺達が色々と推測していたのもあまり意味はないかもしれないな」

『我らは滅ぼそうとする者。だからこそ、多少なりともやり方を変えてくるとは思っていたが……確かに方針そのものに多少の変化はあれど、基本的な考えは変わっていないか』

「より悪辣に、そしてより面倒に……といったところだな」


 その時、敵がいよいよ動き出す。その体に生じている濃密な魔力は、人の領域を遙かに超えている。様々な形を成した漆黒は、視線を感じ取ることはできないにしろ俺達を注目しているのは明瞭であり、今にも飛びかかってきそうだった。


「……リーゼ、そっちはどうだ?」

『戦闘態勢には入ったわ……魔力の大きさから言えば、厄介度合いは平行世界の人間よりは上かも』

「力を得た影響で理性が消し飛んでいるなら、直情的な攻撃ばっかりしてくるとか、そういう可能性もあるが……」

『期待しない方がよさそうね』

「そうかもな……来るぞ!」


 俺が声を掛けた瞬間、一つの漆黒が襲い掛かってきた。その見た目は冒険者としての形を保ってはいるのだが、体の部位にトゲのような物が生えている。動きは俊敏で、一瞬で俺達がいる場所まで到達し、剣を掲げた。

 俺を狙って振り下ろされた剣は、こちらが即座に回避行動に移ったことで空振りに終わる……が、地面に激突した斬撃は轟音を上げて土砂をまき散らした。


 その姿を見て、俺は一つ確信する。この斬撃、魔力をまとわせていない。剣そのものも漆黒であり魔力によって形作られたものではあるのだが、肝心の魔力はほとんど表層に出ていない。力を得たことによる膂力のみで、轟音を上げたのだ。


「……身体能力は、比較するのも馬鹿らしくなるほど強化されているな」


 この調子ならば魔力も同じだろう。俺はソフィアへ視線を送る。彼女は黙ったまま頷くと、こちらは号令を掛けた。


「脅威ではあるが、やれない相手ではない……ここで、全てを滅するぞ――!」


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