推測通り
残る賢者の血筋は『ソフィア』を含めて四人……俺が知らない血筋がいるという可能性も否定はできないが、そうであれば『ソフィア』を守るためにこの場所にいるはず。どこかに潜伏しているとしたら、俺を妨害するために……念のために注意を払いつつ、俺は賢者の血筋と向き合う。
こちらは『ソフィア』達に対し待ち構える選択をとる。それと共に周囲の状況を確認。リーゼ達は奮戦し、味方は負傷者もおらず、敵の数を減らしている。相変わらず少数ながらこちらが優勢であり、この調子ならば魔族や天使、竜は全滅できそうな勢いであった。
俺は時間が経てば味方の援護がやってくる……そこまで『ソフィア』は推測しているはずだが、軽々しく動かない。それは自分がやられればまずいというのもあるだろうが、何よりタイミングを見計らっているのだ。混沌とする戦場で少しでも有利な状況が生まれれば……そんな俺の推測が正解であることを示すように、賢者の血筋は俺の様子を窺う構えを見せる。
金属音や爆音が響く中で、俺達はひたすら対峙する……が、戦況から考えると痺れを切らして相手が先に動き出すだろう。そこでカウンターを決めて……というのが理想であり、取り逃がすことは絶対に避けたい。
本当の全力を出せば問題はないだろうけど、星神に手の内を晒すリスクがある……間違いなく星神本体はこの戦場をどこかで観察している。本音を言えばガルクがこの戦いの前に言っていた策だって使って欲しくはないが……。
「……ガルク」
小声で俺は名を呼ぶ。
「敵が怪しい動きを見せたら、策を頼む」
『わかった……が、星神に対する切り札が一つ消える。それでも、構わないな』
「ああ。この戦いにまず勝利することが肝心だ。下手すれば、また逃げられて大惨事になる可能性もある」
『了解した』
ガルクが返事をすると同時に『ソフィア』の体に魔力が生まれた。魔力を練り上げ、俺に届くだけの威力をひねり出そうとしている……が、俺はここで違和感を覚えた。
それは魔力の流れが足下から。
「これは……」
『推測通り、のようだな』
ガルクが言う。つまり――
『星神に支配された世界では使っている技法なのか、それとも仮初めの体故にそうした技術を提供したのかわからないが……大地から星神の魔力を吸い取っている』
「なら――」
『ああ。考案した策を用いる……本当に、いいんだな?』
「遠慮なくやってくれ」
そう返答した矢先、とうとう『ソフィア』達が動き出した。刹那、生じたのは『ソフィア』から発せられる荒々しい魔力の波だ。
大地から得た魔力を用いて、何かしようとしている――これに対抗するためには、それこそ大地の力を真正面から打ち砕くほどの能力を必要とするはずだ。
どのように使用するのか正直わからないが、もし発動を許してしまったら、戦況を変えるだけの変化を生むのは間違いない。
だからこそ、俺はガルクに許可を出した。刹那、こちらも対抗するように魔法が発動。これにはいくつも組織で生み出した技術が使用されている。
その一つは、子ガルクを経由しての魔法発動。現在ガルクの本体は拠点にいるわけだが、俺の体の内にいる子ガルクを遠隔で操り、魔力を注ぎ――魔法を発動させることができる。
なおかつ、地の力を利用できるガルクだからこそ、目前で魔法を行使しようとしている『ソフィア』に対抗するように大地を介し魔法が放たれる。
「気付いていましたか」
だが、当の『ソフィア』は全てを理解するかのように声を上げた。
「なるほど、星神は大地に眠っている以上、私達が大地の力を利用すること自体は推測していましたか――」
「そちらの手の内は、おおよそ把握できていた」
彼女の言葉を遮るように、俺は告げる。
「問題は、そちらの凶行を止める手立てがあるのかどうか……結論から言えば、俺達は様々な対策を用意していた。それこそ、ありとあらゆること……星神が用いるであろう手法を予測し、それに対する技法を得た」
「そちらの神霊が用いた魔法で、防ぐと?」
「本来、大地からせり上がる魔力の流れは膨大だ。いかに神霊であっても……遠隔操作によって消し飛ばすのは難しい」
俺は語りながら、二つの魔法がせめぎ合っているのを理解する。
「だから、別の手法をとらせてもらった――これは本来、星神本体に仕掛ける魔法だったが――」
魔力が鳴動し、その結果……地面から湧き上がろうとしていた魔力が、突如消えた。
いや、正確に言えば消えたのではなく魔力の流れが反転して地上へ影響が及ばないようになった……これこそガルクの策。魔力の流れを把握し、その方向を逸らすことで相手に魔力が流入しないようにするというものだ。
川の流れを工事によって変えるようなものだが……魔力を遮断や破壊するものとは異なるため、星神相手でも通用すると判断した。
実際『ソフィア』が取り込もうとした魔力が流れが反転して再び地上へと潜った……この結果を受けて『ソフィア』は苦笑する。まさか、こんな方法が――という顔つきだった。
「……私達は星神の力をどうしようかという考えは持っていません。なるほど、ずいぶんと思い切った方法ですね」
「これであんた達はこの世界の星神から力を得ることはできない」
「ええ、確かに……神霊が構築した魔法が常に大地に影響を及ぼしていることがわかります。この場合、どれだけ魔法を使用しても私の所にまで魔力が到達するのは無理でしょう」
そうは言うものの……当の彼女はなおも笑みを見せている。それがブラフか。別の策があるのか……周囲の状況が刻々と変化していく中で、俺は相手を見据え警戒を強めた。




