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賢者の剣  作者: 陽山純樹
世界を救う者

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消滅と策

 リーゼの斬撃を受け、魔族はあっさりと倒れ伏す。そこに仕掛けなどもなく、こちらの勝利に思えたが、


「……マスターを失って、変化はなしか」

「私達を縛る支配権のようなものは所持していましたよ。この体の維持などは、星神の力を利用していたので問題はありませんが」


 俺の言葉に『ソフィア』はそう応じつつ、剣を軽く素振りした。


「あなた方の勝利ですね」

「……この状況で逃げる手段でもあるのか?」


 俺は警戒を緩めることなく『ソフィア』へ尋ねる。彼女達を呼び寄せた魔族を倒したことからもわかるとおり、敵は彼女を除き倒しきった。残っているは『ソフィア』ただ一人であり、大勢が覆るとは思えないのだが、彼女の余裕は何だ?


「……あなた方にとっては不思議でしょうね」


 と、俺の疑問を代弁するかのように彼女は話す。


「部隊は全滅、マスターは消滅……残るは私ただ一人」


 淡々と語る『ソフィア』に対し、仲間達はじりじりと包囲を始める。


「では私もただやられるだけ……と、あなた方は思っていない様子。それは事実です。私にはまだ、策がある」

「これだけやられても、か?」

「逆ですよ。これだけやられたからこそ」


 何を言っている? 疑問ではあったがこのまま彼女を放置するわけにもいかないため、俺は踏み込んだ。

 彼女は何もしなかった。右手に握る剣で防御することもない……そして『ソフィア』は、あっさりと消滅した。


「……これで終わりとは思えないな」


 俺の呟きに、どうやら仲間達も同意するようで、リーゼやオルディアは頷いた。


「ガルク、味方の拠点はどうだ?」

『問題はない。星神の気配もないが……』

「わかった。それじゃあ――」

「ルオン」


 カティの声。それは拠点奥からのもので、視線を転じるとロミルダや護衛と共に近づいてくる姿が。


「退路を確保していたと思しき敵は倒したわ」

「人数は?」


 カティが説明するとガルクは『おそらくそれで全員』だと答えた。


『ひとまず、魔族に呼ばれた面々は消滅したと考えていいだろう』

「最後に『ソフィア』は何か呟いていたけど……」

『そこについては拠点内を調べる必要性がありそうだな』

「調べることで発動する罠、という可能性もあるけど……」


 俺はそこで『ソフィア』などを呼び寄せた魔族……最後に立っていた場所に目を向ける。


「仮に敵がいたとしても、呼び寄せた魔族を倒したら……カティ、交戦して勝利したのはどのタイミングだ?」

「ここへ来る少し前よ」


 ――時間的にはリーゼが倒すよりも前みたいだな。


「命令をしていた魔族を倒せば、残っていても消滅する可能性はあるけど」

『ふむ、こちらの拠点からフェウスを呼んできて調査をするか』

「わかった。それじゃあ俺達はひとまずこの拠点の外へ――」


 その言葉の瞬間、足下に魔力を感じ取った。何事かと思った矢先、それが地底からせり上がってくるように迫っているのだと認識する。


「全員――」


 叫ぶと同時に魔力が弾け、それがまるで火山の噴火のように地表を爆発させ、空へと一気に昇っていく。俺達は圧倒的な魔力を飲み込まれ――視界が白で埋め尽くされた。






 どうやら『ソフィア』の放った策というのは、俺達を巻き込む自爆系の魔法だったらしい。確かに大地の力を利用した膨大な魔力は、飲み込まれればひとたまりもない……はずであった。


「やれやれ……魔法の規模から考えて俺達の拠点にも何が起こったか伝わっているな」


 魔法の効果範囲から出て、俺は一つ呟いた。


「とはいえ……」


 周囲を見回す。大規模な魔法による攻撃であり、仲間達はそれに巻き込まれた形だが、全員怪我もなく無事だった。


「点呼を取るか?」

『その必要はない。全員の生存を確認した。怪我人もゼロだ』


 ガルクからの言葉。それで俺は小さく頷く。


「俺達の拠点は?」

『異常もない。こちらの状況は連絡した』

「それは良かった。魔法に気付いてこちらへ来る可能性もあったからな」

「仮初めの体だったからこそ、ここまで無茶ができたのかしら」


 と、カティがコメントを発した。


「一応マスターの命令は遵守していたのよね。方法としては無茶苦茶だけど」

「このやり方は、さすがにマスターである魔族の指示ではないだろうな……」


 そこまで言って、俺は一つ気付く。


「疑問なんだが、魔族はある程度命令をしていたはずだ。わざわざ自分が滅びる可能性のあるような策を指示するのか? 勝手にやるにしても、魔族自身が制限を加えるはずだろ」

『……何か、まだあるのかもしれんな』


 ガルクが言う。仲間達もこれで終わりとは思えないのか、全員が敵拠点のあった場所へ視線を向けている。

 粉塵が大量に舞い上がってはいるのだが、目に見える範囲でも見るも無惨な状況であった。魔力は拠点全体を破壊するように弾けたようで、地面は抉れ足の踏み場もないような雰囲気。とはいえ大穴ができているという様子はなさそうで、とりあえず調査はできそうだが――


「天幕とかも完膚なきまでに破壊されているな……正直、調べる必要性はないかも」

「何か仕込みをしていて、それを悟られないようにこんなことをしたのかもしれんぞ」


 と、アルトが大剣を握りしめながら告げる。確かに、と他の仲間が頷いているのを見て、


「ガルク、調べられないか?」

『魔力で何かないか捕捉できるかはやってみよう』


 そこからガルクが調べ出すのだが……視界についてはあまりに大規模であったためか煙が晴れるまで時間が掛かりそうだ。


「調査が終わるまで俺達は待機だ。カティ、念のために周囲の索敵を頼む」

「もうやっているわ。結論から言うと周りに反応はなし。だけど」

「けど?」


 聞き返すと共に、ガルクが発言した。


『うむ、どうやら同じ事を思ったようだな。まだ晴れきっていない煙の奥に魔力の反応がある』

「それは……魔物か? それとも生き残りか?」

『星神の気配だ』


 その言葉と共に、俺も感じ取ることができた。仲間達も同じようで、即座に臨戦態勢に入る。

 果たして――やがて煙が晴れていく。天幕など構造物が根こそぎ消失してしまうほどの惨状の中で、まるで……まるで最初からそこに佇んでいたかのように、人影を発見した。


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