大きな過ち
「……先ほど交戦した『エイナ』にも同じ感想を抱いたが、ずいぶんと好戦的なんだな」
剣を構え直しつつ俺は『ソフィア』へ言及。すると、
「ええ、確かにそうですね」
「あっさりと同意するんだな……星神による影響か?」
「どうでしょう。そもそも私は生まれてから星神という存在の影響を受け続けている……むしろ、私達の世界においては影響を受けることは極めて当然のこと」
肩をすくめる『ソフィア』に対し……俺は一つ言及する。
「そちらの策はもう通用しないだろうから確認するんだが、同一人物同士で戦い続けたら何があるんだ?」
「ふむ、まだその作戦は消えていませんしお伝えする義務はありませんね」
「あっそ……まあ、こうやって切り結んでなんとなく想像はできたけどな」
ピクリ、と『ソフィア』は反応する。
「何回か戦ったことで、そちらが魔力を発し続け俺達の体に干渉しようとしているのがわかった。特にあんたの魔力は量が多いから丸わかりだ」
「……魔力で、影響を与えようとしている。と言いたいのですか?」
「たぶんだが、同一の存在である場合、身の内に持っている魔力の質が似通っている……それを利用して、干渉しやすいんじゃないか? で、それを用いて精神的に揺さぶるか、あるいは直接的にダメージを与える」
相手は沈黙……とはいえ、正解と言って良さそうだ。
策については明瞭になったわけだが……オルディアが自分自身と戦った経緯を踏まえると、多少なりとも時間を要するのは間違いない。相手の魔力による効果が決まる前に戦いを終わらせれば……少なくとも敵が仕込んだ策が機能することはない。
目前にいる『ソフィア』は相当強く、当然戦いも長期戦を想定されるはずだが……今の俺達ならば――
「何をどうやったって、その策は俺達に通用しなかったと思うぞ」
「それだけ実力に差があると言いたいわけですか」
こちらの言葉の意図を察して『ソフィア』は応じる。
「この状況を鑑みればそう述べるのは理解できます……とはいえ」
ふいに『ソフィア』は魔力を発露する。その量は今までと比べても多い。
「私達はまだ終わっていない」
そして向かってくる。周囲ではリーゼ達が奮戦し敵を抑え込んでいる。その中でオルディアが特に活躍を見せており、恐ろしい速度で敵を倒している。
敵側は『ソフィア』を援護したい様子だったが、それをさせないように仲間達が阻む。そもそも敵側はこちらの動きに対し上手く応じることができていない様子だし、連携の練度についても差がある。
「……そこの魔族は、能力の高い種族を優先して招き寄せたわけだが」
俺は現状について、理由を明示する。
「集団戦の場合は、単純な能力では推し量れない部分がある……星神に付き従う存在であるため、決して無関係な者達というわけではなさそうだが……それでも、多種族と手を組むのは連携に限界があるというわけだ」
「そこについては、確かに懸念材料ではありましたね」
と、冷静に『ソフィア』が応じた。
「純粋な力勝負であれば、負けないと考えていましたが、そちらは能力も高く連携についてもできているというわけですか」
「ずいぶんと冷静に考察しているが、戦いはもう終わるぞ。どうする?」
問い掛けに『ソフィア』は沈黙する。敵拠点の戦いはこちらの言葉通り終盤に差し掛かっている。俺と彼女が向かい合ってそれほど時間は経過していないが、敵は倒れるペースが明らかに早い……仲間達が獅子奮迅の活躍を見せたためだ。
例え星神の力を抱えた竜や魔族であろうと、今の俺達を阻むことはできない……敵は相当強く、これまでの鍛錬がなければ窮地に追いやられていたかもしれない。だが、
「そこの魔族は……大きな過ちを犯した」
「ほう、それは何ですか?」
他ならぬ魔族ではなく『ソフィア』が応じる。
「俺達へ攻撃を仕掛けるのは、もっと早期にすべきだった。魔界が平定されたが故に、動き出したのかもしれないが……少なくとも、俺達が星神の真実を知るよりも前に、仕掛けていなければおそらく通用しなかっただろうな」
いや、そもそも幻獣の領域における戦いで――色々なケースが思い起こされるが、どちらにせよこの段階で勝負を仕掛けた時点で、間に合っていなかったと言うべきなのだろう。
「なるほど、遅すぎたというわけですか」
全てを理解するように『ソフィア』は呟く。
「力の度合いを踏まえれば、それが答えのようですね」
会話の間に、周囲の敵が滅び去る。残っているのは『ソフィア』と魔族だけ。
あまりにあっけない戦いではあるが……いや、これは彼女達を招き寄せた魔族の見立てが甘かったということなのだろうか。
「俺達の勝ちだな。そちらは色々と策を盛り込んでいたみたいだが、その全てが届くことなく終わる」
「……ええ、マスターから授けられた作戦については、全て通用しなかったとみるべきでしょう」
――俺は違和感を覚えた。言い方になんだか引っかかる。
「マスターは、自らの力を証明するために私達を招き寄せた。その目的は新たな魔王となるため……星神とは関係がない場所で彼は奮い立ち、あなた方と真っ向から対峙した」
そこまで語ると『ソフィア』は笑う。
「正直、私からしてもずいぶん愚かな行為だと思います」
「な――」
他ならぬ魔族が呟いた。その様子から、何か予想だにしないことが起きている?
「凶悪な敵であることは理解できていたはずですが、それにも関わらず対策を怠っていた……あなたの言う通り、より早期の段階で……あなた方が今ほど強くなる前に仕掛けるべきだった。とはいえ、マスターが動き出したタイミング的に不可能だったのかもしれませんが」
「おい、貴様――」
魔族が何事か呟こうとした矢先、リーゼ達が魔族へ肉薄する。だが『ソフィア』は何もしない。それどころか、こちらの動きに任せているような雰囲気がある。
何を企んでいるのかわからないが、彼女達を召喚した魔族を倒せば全てが終わる可能性はゼロではない……故に俺はリーゼ達の行動に任せ――彼女のハルバードが、当該の魔族を両断した。




