有益か無益か
朝食時、夢を見たことを仲間に説明すると、全員が一様に驚いた。
「そんな……ことが……」
「アンヴェレート、何か対策とかはあるか?」
「難しいわね……」
と、アンヴェレートは口元に手を当て考え始める。
「私達にできることは、相対した際に全力で迎え撃つことだけかしら」
「北へ進路を向けた段階で、遭遇する可能性がありますよね」
と、ソフィアが告げると俺は頷いた。
「そうだな……ガルク」
『うむ』
名を呼ぶとテーブルの上に子ガルクが出現する。
「魔王城で準備を進める仲間の状況は?」
『確認したが、異常はない。我の本体を通じデヴァルスへルオン殿が語ったことを伝え、警戒はしてもらっている』
「そうか。正直、どういう手を用いてくるかわからないが……星神本体と戦う前の前哨戦といったところか」
「前哨戦、と言うには重い内容だが」
と、オルディアが語ると俺はそれにも首肯する。
「まあそうだな……さて、夢で示した存在が俺達へ攻撃を仕掛けるのか、あるいはまだ何かあるのか不明だが……脅威であるのは間違いない。俺達はここまで修行してきた成果を発揮して敵を倒すことが最善策だが……」
「何か気になることでもあるのか?」
「星神の意図が何なのか、だ。これまで幾度となく会話をして、正直なところ意図なんてものを推察するのは馬鹿馬鹿しいが、少し考えてみようかと思う」
『魔力の集積によって生み出された存在だ。人のような意識があるとは思えない』
と、ガルクは意見を述べる。
『しかし、だ。世界を滅するという目的については古代に降臨した際と同様であるため、人間のように目的を携え顕現しているのは事実だ。そこからなら、意図を読めるかもしれん』
「世界を破壊することが目的なら、俺達に攻撃を仕掛けるのは当然だ。こちらは星神を倒そうとしているんだから。でも、わざわざ俺に情報を伝える必要性は、本来ない。夢の中で見た光景……それを用いて攻撃するなら、奇襲の方が遙かに効果的だ。実際、何も事前情報がなければまずいことになっていたかもしれない」
「矛盾、しているということですか?」
ソフィアが問う。俺はそれに頷いた。
「そうだ。星神が興味本位で俺に干渉しているなんて可能性もゼロじゃないが、世界の破壊という目的においては明らかに行動としておかしいのがわかるはずだ……ではなぜわざわざそんなことをしているのか?」
「可能性としては二つね」
と、アンヴェレートが口を開く。
「一つは多数存在する魔力の集積……それにより、星神に意思があったとしてもそれが複数ある。例えば、私達をからかうように動く意思もあれば、破壊しようとする意思もある」
「人のように意思が一つしかない、と決めつけることができない以上、アンヴェレートの推測は至極真っ当なものだと思う。実際のところ、俺は幾度となく星神と相対してきたし、口調だってある程度似通ってはいるけど、それは基本的に俺が動き回っているのを鑑賞しているような……楽しんでいるようなパターンが多かった」
そこまで言うと俺は一度言葉を切る。
「……世界を破壊しようとする意識に加え、世界に干渉して楽しもうとする意思があるのかもしれない。そしてこれは星神にとって有益なのか無益なのかという尺度で測ることが難しい」
「どういうこと?」
疑問を寄せたのはリーゼ。俺は彼女を見返しつつ、
「破壊だけを目的とするなら、例えばの話世界を壊そうという意思を持つ存在を利用して、それに呼び掛ければいい……が、星神はそれをしていない。ネフメイザを始め、星神という概念を知らなかったリチャルに対しても力を使わせている……そこから考えると、色んな形で干渉することで自分の存在……つまり星神の存在を認知させやすくしている」
「仮に複数の意思を持っているとした場合」
と、アンヴェレートが補足説明を行う。
「その中心にいるのが破壊をもたらす意思であるのは間違いない。つまり、その中心軸にすえている存在が、あえて他にある意思を放置して好き勝手にやらせている……と、考えるのが一番自然かしらね」
そこまで言うと彼女は、水を一口飲んだ。
「この仮説の良いところは、ルオンの前に出てきた星神の意思……その行動方針に矛盾が出ないこと。私達の視点からすると破壊をもたらす意思や、ルオンと前に現れて色々とおちょくってくる意思……その二つが目立つけれど、実際はそれ以外にも様々な行動をしている意思があって、それらは世界の破壊に繋がっていないから目立っていないだけ、と解釈することもできる」
「実際、世界各地を観測していて星神降臨の兆候はなかったよな?」
「そうね。星神というのは私達にとって大陸を渡って調べなければならないほど、情報が少なく正体不明の存在だけれど、実際星神は色んな場所で、人に気付かれていない形で干渉しているのかもしれない」
「つまり」
と、今度はユノーが口を開いた。
「何がきっかけで星神が出現するのかわからないってこと?」
「わからないから、星神にとっては有益ということなのよ。世界を破壊するという最終目標に対し、様々なアプローチで種を蒔く……そうして世界を壊す。古代において星神は観測できる形で全てを壊したけれど、他にも星神が降臨したかもしれない事例はたくさんあるのかもしれないわね……この仮定が正しいとしたら」
「そうだな。あくまで語ったのは仮説だが……この推測も十分あり得ると思う。そして」
俺はアンヴェレートへ目を向ける。
「もう一つは……」
「今回、施してきた策の内容を考えると、こちらの可能性も高まっているわね」
その言葉にソフィア達は険しい顔をする。俺はアンヴェレートが何を語るのか確信しつつ、続きを待つ。
そして彼女が述べたのは、
「もう一つの可能性は……破壊するという強い意思がたった一つ存在するパターン。ではなぜルオンに干渉してくるのか……考えられるとしたら、それが破壊という最終目標に到達できる道筋だから。やり方がまどろっこしいのだけれど、もしかすると星神は単純に降臨するだけでは、破壊できないという制約があるのかもしれない――」




