神霊の境地
俺が生み出した剣を目の当たりにして神霊ラムハザは何を思ったか……納得がいったとばかりに何度も頷いた。
『なるほど、いかなる相手にも通用する剣……そうであれば、星神に対抗できる手段となるかもしれない』
「わかってはもらえたみたいだな」
『ああ、そうだな。とはいえそれを十全に扱えるのか……採点すべきはまずそこか』
俺は沈黙し、剣を構える。正直なところ、これはソフィアと連携して使うことを前提としている剣であるため、単独で使う場合どうなるのか……そこについてはまだ断定したことが言えない。道中で訓練はしたけれど、完璧ではない。そもそも実戦で使うのは初めてだ。
『さて、どれほどのものか……試させてもらおう』
ラムハザはそう述べた後、右手を翻した。次の瞬間、その右手に長剣が生まれる。人間の技術を用いて相手をするってことか。
そこから、俺とラムハザはにらみ合う形で対峙する……魔力障壁によって風なども阻まれているせいか、俺達の周囲は音すらない。ピンと張り詰めた静寂だけが場を包み……やがて動き出したのは、ラムハザだった。
一瞬で間合いを詰め、俺へ横薙ぎを繰り出した。その歩法や、動きはまさしく人間のそれだ。いや、それどころか達人級といって差し支えがない。
霊脈を通して情報を得ているというのなら、人間の技術について習得していたとしてもそれほど違和感はない……というより、あり得ない話ではないから特に驚きはしない。だが、それを率先して習得しているという事実は、俺としてはかなり驚くべき事実だ。
『不思議に思っているようだな』
そんな内心の疑問に対し、ラムハザは答えを提示する。
『私は人間の技術というものを評価している。こうして人の姿をとっているのはその現れだ』
「価値があるから、技術を体得したと?」
『そういうことだ』
会話の間にも剣同士がぶつかり合う。相手も実物の剣ではないが、金属音が鳴り響き、一閃される度に勢いが増していく。
刹那、俺の剣とラムハザの剣がかなりの速度で衝突して火花が散った。その瞬間から相手の攻勢がさらに強まった。気付けば眼前に刃が迫る。俺はそれを瞬間的にたたき落とし、反撃に転じる。だがラムハザもそれを見切って受け流す。
攻防がめまぐるしく変化し、一瞬も気の抜けない勝負となった。ここで気付いたのはラムハザが使用する剣術の練度。同じような剣閃でも力加減が異なり、同じような方法で受け流していれば確実に足下をすくわれる――そう確信させられるような非常に難解な技術。
おそらくこれは、様々な技術が含まれているが故のもの。人間では絶対に成しえない、ありとあらゆる流派を体得した者が至れる境地。
だが俺は……それを持ちうる技術と力でいなしていく。
『さすがだな』
ラムハザは攻防に対しそんな評価を下した。こちらとしてはかなり大変だが、反撃はできている。さすがにラムハザの技術を全て見切るというのは不可能でも、このまま押し込めば――
『ならば、やり方を変えよう』
ラムハザは言う。さすがにこれで終わりとはいかないか。
次の瞬間、相手は左手をかざし、魔力を宿した。魔法攻撃を絡めるのか……と認識した矢先、俺は刀身に魔力を集める。
こちらも対抗して魔法を使うなんて手段もある。だが生半可な攻撃では相殺どころか押し巻けてしまうのは間違いない……だから、剣に魔力を注いで一点突破を図る!
『そうきたか』
ラムハザの剣と魔法が同時に迫る。それに対抗するべく、俺は剣を勢いよく振り抜き、双方の攻撃が激突した。
途端、閃光と轟音が周囲にもたらされた。衝撃が体に伝わってくるが、ひとまずノーダメージだ。ちゃんと防御についても通用している……敵に特攻を付与する技術の応用で、相手の魔力を分析した上で障壁を構築している。それにより、ラムハザの圧倒的な魔力による攻撃も、直撃さえしなければ問題なさそうだった。
粉塵が周囲に舞い、俺は大きく後退する。気配で、ラムハザもまた激突地点から大きく距離を置いたのがわかる。一度仕切り直しという状況なので、俺はまず呼吸を整えた。
土煙が晴れる。激突の影響か、先ほど立っていた場所にわずかなくぼみができていた。ただ、影響がその程度であるくらいには、威力が相殺されたということだろう。
『……先ほどの攻防、結果はどうなったか理解しているな?』
俺は黙ったまま頷く。激突した瞬間、余波が俺の体に当たったわけだが、大半の魔力はラムハザへと注がれた。
つまり、俺が押し込んだ形……とはいえラムハザに外傷はない。まあ神霊だから見た目でわかるようなことはないわけだが、少なくとも魔力的な揺らぎはない。
『まさか、霊脈を介して魔力を供給しているのに押し負けるとは……』
「そんなに意外か?」
『というより、私の見立てが甘かったということに他ならないな』
ラムハザがまとう魔力が肥大化する。島の中心……あの森の中で感じた濃密な気配が、ラムハザを中心に漂ってくる。
『加減をしていたと言うつもりはないが、それでも互角だと思っていた。だがどうやら、そうではないらしい』
「今度こそ、全身全霊というわけか?」
『私が霊脈から一度に吸い出せる魔力の限界……それをもってして、攻撃を行う。もしこれが破られたら、次は最終手段しかないな』
それを引き出したら、俺の勝ちってことか……こちらが黙ったまま剣を構え直すと、ラムハザは笑った。
『これが、英雄……いや、英雄という言葉すらも超越した存在か。世界を救う……古の賢者も成しえなかった偉業を果たすために、それだけの力を身につけなければいけなかった』
「ずいぶんと評価してもらっているけど、俺はそう思わないな」
『謙遜……と、言いたいところだが、君くらいに考える方が星神相手には良いのかもしれないな』
魔力がラムハザの剣へ集まる。そればかりではなく、左腕にも……いや、全身に広がる。あれでは斬撃を叩き込んでも通用するかわからないが――
「やってみるか……!」
小さく呟き、俺は地を蹴りラムハザへと向かった。




