霊脈というもの
俺はラムハザへ近づくと、相手は何やら魔法を使用した。視界が一瞬ブレ……目の前に漆黒の空間が姿を現す。
地に足が着いている感覚はあるため、これは幻術の類いだろうと予想する。実際濃密な魔力は変わっていないので、俺は森の中から移動していない。
ラムハザはいくらか手を振って、やがて目の前に光が生まれた。それは大河のように巨大な流れとなり……俺達の目の前に姿を現す。
「これが、霊脈なのか?」
『その一部分だ』
ラムハザが腕を振る。それによって、光が枝分かれをして、いくつもの光の筋が生まれ、四方八方へと広がっていく。
『地底ではこのように魔力の流れが存在する。川のようなものと同じだと考えればいい。小さな支流程度の流れであっても、地表にいる者達への効果は絶大だ。まして、大河のごとき魔力の流れがあれば、そこには魔力を基にした強大な存在が現れる』
『代表格が我らのような神霊だな』
ガルクが言う。なるほど、神霊などは巨大な霊脈を基にして、生まれた存在だということか。
『ただし、いかに大河であろうともいずれ終わりは来る』
気付けば足下の光が無数の分岐を形作り、広がっていく。そして最初に見えた大河は……その先端部分は少しずつ細くなり、やがて途中でふつりと途切れる。
『これはあくまで私が見せているため、縮小版といった形だが……大河のごとき霊脈はそれこそ大陸にまたがるケースがある。しかし川と同様に始まりと終わりがある……広大な霊脈も、地底奥深くから湧き出た魔力が流れを作っているだけであり、その魔力が流れる道がなくなれば、そこまでだ』
「もし壁に当たった魔力はどうなる?」
『大半は地底へと戻る』
――水は雨によって山に水が溜まり、湧き水となって川となり、それが海へと流れまた雨となる……という循環なわけだが、魔力もまた似たような形で循環しているというわけか。
『しかし、その中で世界にとって数少ない集積地がある』
ラムハザは腕を振る。光の流れが変わり、それは俺達の足下に収束するような流れとなった。
『魔力の流れ……その最後の場所が一つどころに集中した場合、この島にあるように莫大な魔力が地表に出てくる。とはいえ、その多くは地底へと戻る。地表に出るのはあくまで一部だ』
「……人間どころか、神霊ですら手に余る魔力だな」
『そうだな。君は私のことをどのように聞いているか知らないが、私とてこの島に存在する魔力全てを手にしているわけではない。あくまで地底へと戻る流れの一部……それを用いているだけだ』
と、ここでラムハザは俺へ視線を注いだ。
『星神は、こうした莫大な魔力の流れの中で生まれた存在だな』
「ヤツもまた、星に秘める魔力の一部だと?」
『ヤツとて、世界に内在する全ての魔力を手にしているわけではない。地表や地底にわだかまった魔力の集積……それが結果として意思を持った。ただし、ヤツは霊脈に触れる権利を有している。この星に眠る全ての力を使えるわけではないが、その一部でも使えるのであれば、どれほどの脅威なのかは想像できるだろう』
確かに……。
『星神の脅威は身にしみているはずだが……その意識、言わば自我のようなものは地表に存在するものが由来となっている。故に、地底奥深くにいようとも存在の基盤は地上にある』
「だから、地底にある魔力全てを使うのは無理だと?」
『そもそも、星の魔力を全て扱えるというのは星と一体化していると同義だからな。さすがにそのレベルではない……というより、そんなことになったらすぐにでも、この星そのものを破壊することができるはずだ』
……さすがにそのレベルには至っていないか。
『ただし、脅威であることに変わりはない。今語った内容だとしても、人類……というより生物が相手をするにはあまりに強大な相手であるとわかるはずだ』
「確かに、そうだな」
頷く俺にラムハザは小さく笑った。
『これを説明しても、まだ戦う気でいるのか』
「そこは何一つ変わらないさ」
『なるほど』
ラムハザは指を鳴らす。それによって幻術が消え、森が姿を現した。
『さて、私はアズアの仲介を受けて君達と話をすることにしたわけでだが……その目的は当然、星神と戦うための協力だな?』
『可能であれば、だな』
と、ガルクが語り出す。
『無理強いはしない、というよりルオン殿はそれを望まない』
「そうだな。俺はここへ来るまでの旅で仲間達に星神と戦うかどうかの確認をし続けた。それはあなたに対しても同じだ」
『強制ではないということか……なら回答を述べようか。といっても、私はそもそもこの島から出るのが難しい』
と、ラムハザは仰々しく肩をすくめた。
『アズアを始めとした神霊は、様々な手順を踏んで外へ出ることができるようになった。かくいう私も故郷である土地を離れここに辿り着いたわけだが、ここの魔力と強く結びついたために、島から遠くへ行くことはできないし、離れる理由もない』
ああそうか……霊脈を通して世界の情報すら手に入るのであれば、他の場所へ赴くなどという理由はどこにもないわけか。
『今から外へ出るための準備をするのも間に合わないだろうからな……よって、私が手を貸すにしても間接的なものだ』
「だとしても、手を貸してくれるだけでもありがたい」
俺の言葉にラムハザは小さく笑う……人間由来の神霊なのかはわからないけど、ずいぶんと人間味のある神霊だ。
『では、私が最初にやるべき事をこなそうか』
「やるべきこと?」
『そうだ。星神の力……それに対抗できる人間という存在。その中で筆頭に当たる人物の実力、それはしかと確かめておかなければ』
……やっぱり、こういう展開になるか。正直、相手が巨大なため望むところ、と即答するのを躊躇するくらいではあるのだが、
「……わかった」
ここで逃げるのはナシだ、ということくらいはわかっている。俺は同意の言葉を投げ、ラムハザは場所を移すべく俺達の案内を始めた。




