襲撃の日
その日、俺は特に何をするというわけでもなく、村でうろうろとしていた。主人公の一人であるフィリはまたもダンジョンに行っている……で、とうとう今日襲撃イベントが起こる。
俺はそれに対し数えきれないほどの準備を行い、死なないようにしているのだが……それでもどこか不安があるし、なおかつ一つ懸念があった。
フィリを主人公にしているとこのイベントは強制的に発動するのだが、彼が村に戻ってくるのは襲撃が起こってから。どういう過程を経て襲撃が開始されるのかがわからないので、場合によっては大量の犠牲者が出てしまうのだろう。
俺としてはできるだけ被害を最小限に抑えたいのだが……と、考えている間に変化が起きた。
まだフィリ達は戻っていない。そうした状況で、残っていた酒場の冒険者が村人に警告していた。
「魔物の動きがどうにもおかしい。一応、警戒しておいた方がいいと思うぞ」
そうは言うものの、村人は「わかった」と適当に応じるだけで動こうとはしない。まあ、人というのは警告されても中々動かないものだ。魔物が増えているとはいえ、これから村が襲撃されるなんて言っても、信じてはくれないだろう。
警告を発する冒険者だって、そこまで想定しているのかどうか……などと考えつつ俺は村を歩き回り――やがて、昼を迎えた時刻となって明確な変化が。
北方の空から、何かが来る……そう冒険者の一人が発すると、他の面々はそれを確認し始めた。俺も目を凝らしてみるが、パッと見多数の鳥の群れのようにも見えるが……が、
それが段々と近づいてくると人型の何かだとわかり、
「……悪魔だ!」
冒険者の一人が叫ぶ。同時、周囲にいた人々が走り始め、村中に警告を始めた。
魔族や悪魔が群れを成して襲撃してくる……そういう話は噂レベルでは存在していた。魔王の影響の濃い北部は、そういうこともあったらしいが……それが自分達の所で起きるとは、予想外だろう。
だからこそ、村人達も右往左往し始める。その間に悪魔の群れは近づき、冒険者達だけが村人を避難させるために動き回っているような有様だ。
ゲーム上でフィリ達はあの悪魔達が押し寄せて攻撃を受けた段階で戻ってくるわけだが……その時、俺の目に光が見えた。悪魔達の周囲に生み出された白い光……いや、違う。あれは――
「――魔法だ!」
俺が叫ぶと同時に、光が炎をまとった槍だと確信する。周囲にいた冒険者達は慌てて村人や仲間に隠れるように言い始める。
槍の数は……目算数十はありそうだ。やろうと思えばあの炎を全て防ぎ切ることも可能だろうけど……そんなことをしたら俺はこの場でたちまち英雄だ。変に祭り上げられて下手すると魔族との戦いにおける中心人物となってしまうかもしれない。
なので俺は、降り注ぐ炎の槍に対し回避を行う。一人村人の中で直撃しそうな人がいたのだが、それについてはこちらが魔法を使って防いだことにより難を逃れることに成功。だが、残りの炎の槍は民家へと突き刺さり、あちこちで炎を噴き上げる。
村が赤く染まっていく中で、俺は悪魔達を見据える。そのまま空を真っ直ぐ飛んでいるものと、下降し始める奴がいた……もっとも、そうした悪魔は少数。
確かシナリオ的には村を半壊させて、主人公が駆けつけてきた時に去っていくはず……悪魔達は目についた人間達を襲うというわけではなかった。おそらくだが別に狙いがあり、この村は通り道だったのでちょっと襲撃した、という程度だろう。
ここからが結構大変そうだが……ここで俺は周囲にいた傭兵達に指示を行う。
「すぐに村人の避難を!」
「わ、わかった!」
彼らはすぐさま動き出す。迫りくる悪魔の群れに恐怖したというのも原因にはあるだろう。ともかくこれで、周囲に人の姿が見えなくなった。
やがて、先陣切って悪魔が一体飛来する。俺も見覚えがあった。この悪魔は、間違いなくゲーム上でルオンを殺した悪魔だ。
巨体に漆黒の翼。頭部は人間のそれに近いが口を開ければ鋭い牙が見える――グルルル、という獣の唸り声のようなものが周囲に響く。間違いなく俺を見て警戒している。
対する俺は、一目見てわかってしまった。
間違いなく、俺はこいつを瞬殺できる。
悪魔が腕を振り上げる。攻撃が来ると悟った俺は、その軌道を読みつつ回避行動に移る。
腕が俺へと放たれた。こちらは正確に動きを予測し、横にほんの僅か跳んで、避けることに成功。
ここで反撃に転じる。剣を抜き、下から上へと流れる一閃――それと共に風の刃が発生。それが悪魔の体に走り、悪魔は断末魔の叫び声を上げあっさりと消滅した。
これで、ルオンは死亡イベントを回避したことになる。こうなることは予想できていたとはいえ、さすがに自分が死ぬイベントそのものだと考えると、この悪魔だけ無敵ではないか、などと思ったりもしたのだが……杞憂に終わったようだ。
よし、これでもう俺がどうにかなる可能性は絶対にない――思いつつ周囲を見回す。すっかり炎に包まれ、火が村中に行き渡っている。
家にいた場合まずいことになるだろう……俺は住民が大丈夫なのかを確認するべく移動を開始する。先陣を切った悪魔を倒して以後、何体かは村に飛来したのだが家屋を狙って破壊するだけで積極的に人間を襲わない。この村そのものを破壊することが狙いなのだろうか。
上空の悪魔は村の頭上を飛んでいく。とはいえ俺が瞬殺したことでさらなる悪魔が飛来してくるかもしれない――場合によってはまだ多少切り結ぶかもしれないと思いつつ、動き続けた。
それから少しして、フィリが戻ってくる。さらに悪魔の群れに視線を送り、彼は怒りの視線を上空へと投げる光景が俺の目に映った。
よし、シナリオ通りに話が進むことになりそうだ……俺は近くにいた傭兵に指示をしつつなおも駆け回る。怪我人はかなりの人数出ている。惨状から考えて当然火傷が多く……俺も魔法を使ってはいるが、単純な負傷と違って火傷は治りにくい。カティに見せた『天の聖水』を使ってもそれは同じだ。
現実世界となって、こういう治癒系魔法も面倒になっているようだ。ゲーム上毒などを始めとしたステータス異常については、毒消しや万能薬など薬を用いれば回復するのだが……現実となって、簡単に癒せなくなっている。
ここは、大きな変化と呼べるものかもしれない。怪我だってそうだ。ゲーム上攻撃を受ければHPが減るわけだが、魔法を使って全快にすることはできた。しかし、傷を塞いだからといって出血すればそれだけ血が足りなくなるし、治した患部の違和感だって残る。なおかつ単純な傷以外の、例えば火傷や凍傷といったものについては治りにくい……というより、そうした怪我に対して有効な魔法を憶えていないといけないという感じ。
実は、この事実に今更ながら気付いた。修行していた時はアクセサリなどで攻撃そのものの威力を殺していたからなぁ……ここは課題だろう。
上手く治療ができないのは少し腹立たしいが……俺は怒りに燃えるフィリを横目にしつつ、村の中を駆け回り続けた。




