第十九話(EX) 恋愛より友情を取る僕は、親友のためなら、たとえそれが好きな女の子だったとしても―― ⑨
友人や恋人、家族といった近しい人間が日に日に弱っていく姿を見るのは、中々に堪えるものがある。
それは主に病気だったり、会社や学校でのストレスが原因であることが多いけど、まさかこんなカタチで体験することになるとは思わなかった。
……しかも、その原因が僕自身であるというのも辛いところだ。
世の中には財産狙いなどで、悪意を持って少しずつ人を壊していくような恐ろしい人間もいるらしい。
そういった行為は少しでも良心や罪悪感のある者であれば自分の精神の方が先に耐えられなくなるものだが、他人の気持ちに共感できなかったり、良心が欠如していたりすると最後まで完遂できてしまうのだそうだ。
俗に言うサイコパスの特徴だが、サイコパス自体は日本に限定しても100万人近く存在しているというのだから恐ろしい話である。
少なくとも僕には耐えられそうにないので、早々に計画を最終段階まで進めたのは結果的に良かったと言えるだろう。
しかし、それは僕の想像以上のダメージを信之助に与えてしまったらしい。
◇
「で、本当にどうしたの?」
「……複雑な事情だ」
信之助を保健室のベッドに連れ込み、白々しい質問をぶつける。
状況は全て把握しているが、このままだと別の意味で計画が破綻しかねない。
だから少しでもガス抜きをしてやる必要があるが、怪しまれては元も子もないため細心の注意を払って仮面を維持する。
幸い心配しているのは事実なので、少なくとも表情から僕の真意が悟られることはないだろう。
本心である以上演技ではないので、見破りようがないハズだ。
折笠先生がイイ感じに茶々を入れてくれたため、空気も悪くない。
「…………」
「おい、なんだその表情は」
「いや、うわぁ……って思って」
「そのまんまじゃないか!」
信之助は上手に南野さんの話だと悟られないよう言葉を選んでいたが、全てを知っている僕にとっては残念ながら無意味な努力である。
それに、いくら上手く言葉を選んでも、僕の立場からすれば信之助が何に悩んでいるかは明白だ。
それでも何とか僕に悟らせまいとする信之助のいじらしさに、最初は微笑ましさすら感じていた。
しかし、話を聞いていくうちに段々と呆れのような感情が強くなってくる。
いや、どんだけ真面目なんだと。
信之助の考え方は理解できるし、本来であれば僕だって気にするべき点ではあるのだけど、流石にこの年代で突き当たるような悩みではない。
普通なら、若い頃に失敗を重ねてようやく辿り着くような領域の悩みである。
本気で人生二周目なんじゃないかと疑うレベルだ。
そしてこれは、僕の望んだ状況とは明らかに異なっている。
本当であれば、信之助にはもっと単純に恋愛感情を意識してもらい、僕へ南野さんを渡したくないという思いを増幅したかったのに、こんな風にこじらせてしまうとは思いもしなかった。
ある意味、流石は信之助である。
「僕も含め、みんなもっとガキだよ? 信之助みたいに深く考えず行動してる」
「それは……、わかってるよ」
この言葉には、「もっと単純に考えよう?」というニュアンスが含まれていた。
そうすれば信之助も、自分が本当に向き合わなきゃいけない方に方向転換してくれると思ったからだ。
信之助の悩みは、恐らく自己嫌悪からくるものだと思われる。
考え方が大人びているがゆえに、覚悟もなく短絡的で何も考えないガキのような行動はしたくないのだ。
それなのに、ある程度覚悟して南野さんの恋愛相談に乗った自分がブレまくっていることに、情けなさを感じているのだろう。
であれば、そんなことは普通だと説得すればいい。
確かに僕たち若者は愚かなところもあるけど、それが普通なのだと。
信之助は気にし過ぎだから、もう少し気楽に考えよう――と、伝えるつもりだった。
「……そうだよ。恵の言う通りだ。俺は、根拠もなく絶対にできるとか、安易に約束したり覚悟したりするみんなを、冷めた目で見ていた」
……ん~~~~~~~~?
あ、あれ? なんでそうなるの?
え? もしかして僕、言葉選び間違った?
「ちょ、ちょっと待って! そんな絶望したような顔しないでよ! 別に僕はそれが悪いって言うつもりはないからね!? むしろ、そんなこと大なり小なりみんなやってるんだし、気にし過ぎだよって話の流れに持っていきたかっただけだからね!?」
「…………」
ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
ヤバい、ヤバい!!!
もしかして、久しぶりにやらかしたかもしれない!?
これまでの人生においても、自分の伝えたい真意が相手に伝わらないことは多々あった。
特に僕はコミュ障ゆえに言葉でそれを伝えるのが苦手であり、両親にすら誤解をされることもある。
……そして、最近は信之助の協力もあってそれが目立たなくなっていたが、未だコミュ障であることは変わっていない。
だからこそ普段僕はあまり喋らないよう意識していたのだが、ここ数日の南野さんとのコミュニケーションでそれが緩んでしまっていたらしい。
いくら信之助が相手とはいえ、長いセリフを喋り過ぎてしまったのだ……
自己嫌悪の火を消そうとしたら、誤って逆に油を注いでしまった。
恐らくこの状態では、本来の計画通り信之助の本心を引き出すやり方では失敗する可能性が高い……
こうなってしまった以上、なんとか会話の流れを誘導しリカバリを図るしかない。
コミュ障の僕には臨機応変な会話は不可能なので、頭の回転の速さを駆使して全力でシナリオを構成する。
――そしてその結果、悪魔的シナリオを思いついてしまった。




