第十四話(EX) 恋愛より友情を取る僕は、親友のためなら、たとえそれが好きな女の子だったとしても―― ④
「それで、一応裏付けは取れてるんだけど、改めて確認するね? 緒方君は、今年になってから何人から告白された? あ、ウチの学校限定で」
「えっと……、ちょっと待ってね」
そんなの一々数えてないよと言いたいところだけど、無駄に記憶力が良いせいで告白してきた子の容姿や名前は全て覚えている。
……いや、急に知らない人から告白されることもあるので、厳密には全てではないか。
でも、同じ学校に限定するのであれば先輩も含めて覚えている自信がある。
確か今年最初に告白してきた子は新入生の雪村さんだったから、そこから数えると今のところ全部で57人……
それをカテゴリ分けして校内の生徒に絞ると――25人のハズだ。
「多分だけど、25人だと思うよ」
「……流石は緒方君。もしかしたら、「おまえは今まで食ったパンの枚数をおぼえているのか?」とか言われるかもと思ったけど、杞憂だったね」
「僕ってそんなに傲慢そうに見える!?」
どこのディオだよ!
「見えないけど、人は成功体験が続くと増長したり傲慢になるものだから……」
そう言って目を逸らす南野さんからは、何となく演技っぽさを感じる。
酸いも甘いも知った大人の女性キャラっぽいので、もしかしたら何かの引用なのかもしれない。
「それはともかくとして、私が調べた限りでは緒方君に告白した女の子は20人だったの。5人の誤差があるけど、絶対に見落としはあると思ってたから、まあ現実的な数字だと思う」
一体どうやって……?
と思ったが、よく考えてみれば南野さんは去年から僕のことを監視していたのだ。
その過程で調べられていたとしても不思議ではない。
「じゃあ、ここからが本題になるんだけど、桧山君に恋愛相談をした女の子は、一体何人だと思う?」
「何人って、そんなの――――っ!?」
僕は基本的に、信之助から紹介のあった女子からの告白しか受けないことにしている。
これは中学時代に設定されたルールで、高校生になってからも続けている文字通りの安全措置だ。
ルールのない時代は、それはもう酷い状態で、危うく事件にまで発展するような恐ろしい環境だった。
普通女子はそういった殺伐とした部分を男子には見せないものだが、その暗黙のルール? すらも意味をなさない危険な状況だったのである。
高校になってからできた友達にそれを話すと「流石に盛り過ぎろ!」と笑われるが、こんな話を盛ってどうするんだと言ってやりたい(言えないけど)……
今となっては懐かしいと言えるくらいに落ち着いているが、あの頃の僕には「傾城の美男子」だとか「リアルインキュバス」といった皮肉めいたものから、嫉妬から生まれたおぞましい罵詈雑言まで、実に様々なあだ名が付けられた。
正直命の危険を感じることもあり、一時的に学校を休んだこともある。
というか、そんな状況ではまともに登校もできないので、僕としてはもう二度と学校には行かないつもりだった。
僕は元々コミュ障だし、学校だって正直あまり好きではなかったので、丁度良かったなんて強がっていた気がする。
……でも、僕のヒーローはそれを良しとしなかった。
そうして生まれたのが、信之助が窓口を担当し、僕への告白を取り持つルールである。
「今ので察したと思うけど、桧山君が今年に入って恋愛相談に乗った人数は全部で50人。つまり半数の女の子が、緒方君に告白をしなかったっていうことになる」
「……」
話の流れからそうだとは思ったけど、想定していたよりも人数が多い。
「もちろん、その内の何人かは桧山君が間引いた可能性もあるけど、私の見た限りだと多分何も知らない新入生数人くらいだと思う」
入学して間もない頃は、まだ僕が何を嫌がるかを理解していない子も多かったので、告白する前からNGとなるケースも少なくなかった。
しかし、流石に1年も経てばそういった部分の対策を練ってくるのは当たり前で、NGになるのは新入生か本物の地雷くらいになっている――らしい。
無論これは信之助から聞いた話だが、それでも可能な限り配慮はしているらしく、本当にどうしようもないと判断されない限りはNG判定は出さないと言っていた。
「……南野さんの見解は、多分正しいと思う。信之助は、可能な限り告白が成功するよう協力しているみたいだから」
「それは、私も良く知ってるよ。桧山君が今の状況を作り出すのにどれだけ苦労したか、この目で見てたから……」
「っ……」
耳の痛い話である。
あの当時僕は学校を休んでいたこともあり、信之助が具体的にどんな苦労をしたのか、この目で見たワケじゃないからだ。
信之助は、引きこもっている僕を「もう大丈夫だから」と学校に連れ出した。
あの時ばかりは信之助のことを恨んだものだが、実際に学校に来てみると、そこには本当に平和な世界が広がっていたのだ。
一体どんな魔法を使ったのか?
それこそが、僕のために信之助が血のにじむ努力で生み出した『法』だったのである。
「その反応は、ちゃんと理解してるってことだよね?」
「……うん」
信之助が生み出した『法』は、普通であれば成立なんてするワケがないのである。
そもそも当事者同士でない信之助が、その間に入って窓口になるなんてことを誰が認めるのか?
僕と付き合いたい女子にとって信之助はただの邪魔な存在に過ぎず、最初は嵐のような大批判がおきたらしい。
信之助は、それを一人一人言葉を交わし、全面的に協力することを条件に認めさせたのだそうだ。
言葉にするとそれまでだが、それがどれほど大変なことだったかは――――正直想像なんてできないレベルだけど、理解はできる。
一体どれだけ人生を繰り返せばそんなことができるのか?
信之助はひょっとして、人生を何度も繰り返しているタイムリープ能力者なんじゃないか? と疑ったこともある。
「今でこそ桧山君は番人とか窓口のイメージを持たれがちだけど、実際は女の子の告白が成功するよう全力で協力し、応援してくれる天使なんだよね。……そして、同時にとんでもない苦労人でもある」
「そう、だね……」
最後の一言は、僕にとって致命的と言っていいほど刺さった。
言われるまでもなく理解していたからこそ、より深く突き刺さり、呼吸が乱れる。
「……ゴメン。今のは嫉妬から出た余計な一言。そんなの、緒方君が一番わかってるハズだもんね」
苦笑いを浮かべた南野さんは、「オホン!」と一息挟んでから再び真面目な顔になる。
「まあ、そんな桧山君だからこそ色んな経験を経て成長したってことなんだと思うけど……、最近になってその魅力に気付き始めた子が増え始めている」
「……それが、信之助に恋愛相談をしたうえで、僕に告白しなかった子達ってことかな?」
「うん。ほぼ間違いなく、ね」
なるほど、なるほど……
あれ? でも、それって信之助にとっては良いことなんじゃ――ってそうか、それが南野さんにとってはマズイ状況ってことなんだ。
なんだか少し複雑な気持ちもあるけど、南野さんの立場であれば気が気ではないだろう。
何年も想い続けていた人が、最近知り合った新人にあっさり奪われなどしたら、下手をすれば一生モノのトラウマになりかねない。
「だから、その、もうあまり時間がなくて……、でも、桧山君は全く気付いてくれないしで――」
「わかった。協力するよ」
「っ!? い、いいの? 正直自分でも勝手なお願いだと思ってるんだけど……」
「そうだね。これが南野さんからのお願いじゃなければ、僕も協力しようとは思わなかったよ」
そう、結果的に信之助が幸せになれるのであれば、相手は別に南野さんである必要はない。
しかし、南野さんとはそれなりに長い付き合いだし、その想いは十分に伝わっている。
これだけ想ってくれている相手であれば、きっと信之助だって悪い気はしないハズだ。
そして何より、信之助もまた南野さんのことを好いているというのが大きい。
……いや、理由なんかそれだけで十分と言えるだろう。
――ようやく、信之助に恩返しをすることができるかもしれない。




