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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第三章(城上女子) VS南五和高校
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91(梨衣菜) ひどくあっさりとした笛の音

 21―21の同点で迎えた、相手セッター――なで肩殿のサーブ。


 それは、つまり、セッター対角(スーパーエース)生天目なばため殿が前衛フロントに上がってきたということ。


 どきどきっス。メドレーリレーの順番を待っているときのような、期待わくわく不安はらはらが混ざったどきどきっス。


「さーこーいっス!」


 声が少し震えそうになる。でも、できるだけしっかり声を出しておく。じゃないと、いざというときに身体まで震えてくるから。


 ネット際に立つ市川いちかわ殿のサインを確認。FL(フロントレフト)にいる自分はレフトセミ。FR(フロントライト)にいる藤島ふじしま殿は――Aクイックっスか。


 ぴっ、と笛の音。なで肩殿がふわりとボールを投げ、ばしっ、とその芯を叩く。


 ボールはBR(バックライト)にいる霧咲きりさき殿のところへ。


「オーライ!」


 先に声を上げたのは、藤島殿。オーバーハンドで取って、そのまま速攻に入るつもり。おおっ、なんだか藤島殿が燃えてるっス!


「市川さんっ!」


 大きな手でボールを弾き、しっかり市川殿にカットを返して、藤島殿はトスを呼びながらセンターへ。相手のブロッカーも、当然、全員が藤島殿をマーク。今か今かと待ち受ける。


 ブロックフォローの準備をしたほうがいいのかな、とセンターに意識を向けると、市川殿からアイコンタクト。


 えっ、まさかここで自分っスか!?


 いや、でも、よく考えたら、自分が「まさか!」って思うくらいだから、相手はもっと「まさか!?」なんだ。


 油町ゆまち殿みたいな空振りはしないまでも、まだレフトセミのタイミングを完璧に取れる自信はない――けど、せっかく市川殿が自分を選んでくれようとしているんだから、それに応えたい。


「うああああああっ!!」


「来るよ、信乃のの! しずく!」


 怪獣のように咆哮する藤島殿と、両手を顔の横に掲げて万全の体勢で構える珠衣ミィ殿。両者の間に立つ市川殿は、ボールと藤島殿の踏み込みを見ながら、完全に速攻合わせのタイミングでジャンプ。


 そして、ボールを自分レフトへ。


「あああわおえっ!?」


「ちょ――」


 これぞ肩透かし。珠衣ミィ殿たちはもちろん、藤島殿もたぶん困惑しているだろう。ただ、自分は今、このレフトセミをきっちり打ち切るのにいっぱいいっぱいで、トスが上がってからはそっちまで見ている余裕がない。


 市川殿のトスは、緩やかな放物線を描いて、ゆっくりと飛んでくる。試合前の基礎練習でパスをしたときもそうだった。市川殿の繰り出すボールは、本当に羽が生えたみたいにふわふわなのだ。


 ――これなら、打てる!


 タイミングはぴったりだった。ブロッカーの気配はない。ノーマーク。いけるっス!


 ばんっ、


 とジャストミート! よし、これは決ま


「おらああああああ!!」


 らない!? びっくりするくらいあっさり拾われたっス! それマジっスか黄色カナリア殿!?


 ボールはコート中央上空。ややレフト側に流れつつ、高々と舞い上がる。セッターのなで肩殿が落下点に走り込んでいる。


北山きたやまさん!」


 はっ、と我に返る。すれ違い様に藤島殿に肩に触れられた。そうだ。ぼけっとしてる暇はない。ブロックしなきゃ!


「北山さん、こっち……っ」


 ライトの市川殿が控え目に呼ぶ。えっと……そっか、あの位置からだと珠衣殿(センター)はなくて、サイドのどちらかなんだ。で、ボールがレフトに流れていて、セッターのなで肩殿はバックライトから落下点に走っているから、そのまま正面方向のレフトに上げる、ってこと。


 自分は習ったサイドステップで市川殿の隣に急ぐ。なで肩の人は、しかし、セットアップの途中でちらっと生天目殿ライトに視線を送る。思わず足が止まってしまう。


「こっちは大丈夫だから!」


 レフトから藤島殿の力強い声。それに押し出されて、自分は市川殿の傍に到着。市川殿は、ぽんっ、と自分の背中を叩いて、優しい声音で言う。


「いち、に、さんで跳ぶよ。いち……」


 市川殿はセッターのなで肩殿とレフトの眼鏡殿を交互に見ながら、タイミングを取る。それに合わせて、自分も膝を曲げ、力を溜める。トスは、果たして、こっち(レフト)に上がった。


「に――さんっ!」


 息を合わせ、相手をしっかり見てジャンプ。眼鏡殿の強打スパイクは痛っ! 当たった!


「ワンタッチっス!!」


 ボールの当たった右手を庇いながら、後ろを振り返る。が、ボールがどこにもない。なぜ? 消えた? どこに?


「霧咲さんっ」


 すぐ横から市川殿の声。どういうこと――と市川殿を見ると、市川殿は自分の真上を見てオーバーハンドの構えを取っている。自分も顔を上げると……おお、あった! ボールは自分たちの真上に上がって、落ちてくるところだった。


「北山、下がって! 速攻行くよ!」


 霧咲殿は自分と市川殿の間に割り込んで、自分をネット際から追いやる。そ、そっか。これはチャンスボール扱い。自分の速攻もアリなのか。藤島殿は、と見ると、既にレフトで開いて待っている。は、早く自分も!


「北山さん、慌てないで。大丈夫だから……」


 そう言いながら、市川殿がボールに触れる。とーんっ、と高く舞い上がるボール。自分はそれを見上げながら助走距離を稼ぐ。確かに、ゆっくりしてはいられないが、焦ることもなかった。これなら余裕で速攻に入れる。


「ラ……ライトセミ」


 小声でそう言いながら、市川殿はライト側へ開く。ボールは空中で折り返して落ちてくるところ。自分はAクイックの位置目掛けて踏み込む。練習を信じるなら、霧咲殿セッターがボールに触れるか触れないかくらいのタイミングで跳べば、大体ちょうどいいはずだ。


 たたっ、と速攻用のステップ。速さを意識して床を蹴り、跳ぶ。霧咲殿の手を視界の一角に収めつつ、手を伸ばして待つ。トスは――来た! 手を振り下ろす。


 がつっ!


「ぬぎゃ!?」


 手の平で叩くつもりが手首の骨に当たった! 痛いっス!


「ワンチです!」


 しかも珠衣ミィ殿にワンタッチ取られたっス! ま、またあっちの攻撃……! ってことはブロック!


 めまぐるしく入れ替わる攻守。急な切り返しの連続で息が苦しい。ボールはどこ? 探す――見つけた! もうレシーブされてる。レフトの眼鏡殿が拾ったんだ。それをセッターのなで肩殿がセンター付近のアタックライン上でジャンプトスして、


「北山さん! こっち!」


「は、はいっス……!」


 今度は藤島殿レフトから呼ばれた。生天目殿が来るんだ。急がないと――!


「いち、に、さん、で跳ぶからね!」


「了解っス!」


 市川殿と同じことを言う藤島殿。自分はずっと相手のセンターだけを見て跳んでたから、こうやってサイドで誰かと合わせて跳ぶのはなんだか新鮮だ。


 トスが上がる。ぽーん、と高めのライトセミ――生天目殿だ。何度見ても背が高い。でも、隣に藤島殿がいるからか、恐怖はあまり感じない。


「いち、に……さんっ!」


 跳ぶ! ばがんっ――また痛い! 今度は指先! ってことは上を抜かれた!?


「ナイスワンチです……っ!」


 振り返る。三園みその殿がコート中央の床でうずくまるように両腕を前に突き出していた。レシーブに成功したんだ。待って、じゃあボールはどこ?


「北山さん、速攻こっち


 また呼ばれたほうに振り返る。市川殿がネット際でトスの構え。ボールはその上空。ちょ、ここ(レフト)からそっち(センター)へ!?


「北山さん……っ!」


 市川殿はもう一度自分を呼ぶ。と、とにかく行くしかない! 自分は市川殿のほうへ踏み込む。ネットに対して直角にではなく、平行に踏み込む。何が何だかわからないけど、とにかく速攻(Aクイック)のタイミングで、跳んで、腕を伸ばして、


 ふわっ、


 とトスが目の前に。えっ!? 嘘、これ打つっスか!?


 自分は、なんと表現すればいいのか、無我夢中でボールの横を叩いた。ラジオ体操の横曲げの運動みたいな感じで、びたんっ、と。


「ぷぉおっ!?」


 当然ながら、と言うべきか、自分の攻撃クイックはノーマークで、その代わり(なのかどうかはわからないけれど)にアタックラインのとこまで詰めてきていた黄色カナリア殿を強襲する。しかもどうやら顔の近くに行ったらしい。黄色カナリア殿は顔を庇いつつ、ごっ、と右手の掌底しょうていでボールを弾き返した。


 ん? 弾き返した? え? じゃあ今ボールはどこ?


「ちゃーんす!」


 岩村いわむら殿の明るい声。ってことは、そっか、ボールはそのままこっちに返ってきてたのか。で、えっと、つまり……自分はまた速攻に入らなきゃっスね!?


 ぽーん、とほどよい高さのチャンスボールを上げる岩村殿。自分は速やかに下がろうとする。が、途中で足がもつれて(ボールを追うのに上ばかり見ていたせいだ)バランスを崩してしまう。


「わっとと――」


 踏ん張りがきかず、身体が後ろ(バック)後ろ(バック)へ流れる。それを止めてくれたのは霧咲殿だ。ぼふっ、と抱き合うように自分を押しとどめた。


「ご、ごめ」


「いいから! 今はあっち(レフト)!」


 霧咲殿は自分の背後――ネット側を見て言う。そうだ。自分が速攻に入れなかったんだから、打つのは藤島殿に決まってる。ってことは、えっと、ブロックフォロー!


「っ……!」


 霧咲殿の助力を得て振り返ると、藤島殿は既に跳び上がっていた。フォローに間に合わない! と思ったら三園殿が自分の代わりにフォローに入っていた(さすがっス!)。自分は霧咲殿と一緒にその場で構え、大きく跳ね返るパターンに備える。


「だああぁああぁあぁあっ!!」


 もの凄い気迫でフルスイングする藤島殿。どごんっ――と重厚な打音を響かせて、ボールは鉛玉のように生天目殿ブロッカーのお腹へと吸い込まれ、相手コートに、


 ――ぼむっ。


 落……ち、た!


 ぴっ。


 気が遠くなるほど長いラリーの終わりを告げたのは、そんな、ひどくあっさりとした笛の音。


 けれど、自分の耳には、笛の音なんか聞こえない。


「「わああああああ!!」」


 コートの中に歓喜の声が満ちる。さっきまでへろへろになってたのが嘘みたいに声が出てくる。ぴょんぴょん跳び上がったりなんかもしちゃう。


 スコア、22―21。


 点を決めたのは藤島殿だけど、自分が決めたみたいに嬉しい。藤島殿はみんなに囲まれてハイタッチ(三園殿とは固い握手)を交わす。と、それが終わると、みんなは今度は自分の周りに集まった。


「あんたもナイスプレー。よく頑張ったわね」


 そう言ったのは霧咲殿。顔の前にパーを掲げている。これは、えっと、


「何してるの? 早くしなさいよ」


 霧咲殿が急かすので、自分は思いのままに行動した。つまり、がばっと抱きついた。


「ひゃ、なっ!? 北山!?」


 うわー! やっばいっス! ちょー楽しいっス!


「北山!! 聞いてるの!? ちょっと、北山ぁーっ!!」


 あ、ちなみに、ほどなく藤島殿と三園殿に引っがされて、無事理性を取り戻したっス。


 いやー、テンション上がるとついやっちゃうっスよねー。

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