84(はる) ヤキ入れ
完璧なシャットアウト。思わずこんな顔(><)になった。
「よう。どうした、下向いて。もう降参か?」
項垂れていた私の視界に、ひょっこり現れる黄色。可那先輩だ。私は両手を合わせて、にっと歯を見せる。
「まっさか! こっからですよ!」
可那先輩は挑発的な笑みを浮かべて、右手を上げる。
「おう。相手にとって不足はねえ。ぶっ飛ばせ、はる!」
私はその右手を、ぱちんっ、と叩く。
「やってやります!!」
ぐるり、と肩を回してネット際に上がる私。その時、レフト側にいる月美先輩と目が合った。ちらり、と速攻のハンドサインを出してくる。私はサムアップして、頷きを返す。
「っしゃあ、一本上げてくぞ!」
「「おー!」」
「声が小せえ!!」
「「おーっ!!」」
私と月美先輩がアイコンタクトを取っている間に、他の四人はそれぞれの守備位置に構える。私はすぐ速攻に入れるよう、小夜子先輩の位置を確認しつつ、できるだけセンター寄りに立つ。
サーブは、あの大砲みたいなスパイクを打つぽっちゃりさん。サーブも伸びがあって重そうだ。けど、カットに関してはとにかく可那先輩たちを信じる。たとえ乱れても、今度は決めてやるもんね。
あのレフトの藤島って子は、ミィミィが気をつけろって言ってた県選抜。闇雲に打ち込んでも跳ね返される。こういうときこそ、頭を使うんだ。私なら大抵の相手はノリ任せでも決められるけど、あの子はその『大抵の相手』には含まれない。
サーブはまたズクズクのところ。今度も少し体勢を崩されたが、ズクズクは腕力任せにボールをコントロール。鋭角だけど、位置はぴったり。月美先輩なら余裕だよね。
「月美先輩っ!」
私はAクイックのタイミングに遅れないよう、月美先輩の左側へ素早く切り込んでいく。月美先輩のトスは予備動作がゆったりしてるけど、ボールに触れてからはかなり速い。先に手を伸ばして上で待ってるくらいの感覚で踏み込むのが正解なのだ。
たっ、と跳ぶ。しゅ、とクイックのトスが上がる。ブロックは――たぶん二枚。
市川先輩と謎のバスケ部員が入って、前衛が厚くなった。175センチの私でも苦戦する高い壁。けど、その分、後衛は隙だらけだ。あの小さな子がいなくなった穴は大きい。
とっ、
と私はど真ん中にフェイントを落とす。ブロックが厚ければ、ワンタッチの処理を想定して守備は深くなる。ここは狙い目のとこだ。
「わっ」「ぬっ」「おっ」
向こうの守備陣は一斉に『予想外!』の声を上げた。声だけでボールが浮くはずもなく、ほどなく接地する。
17―19。
ふふんっ! どんなもんだい!
「やるじゃねえか、はる!」
「らくしょーでっすよ!」
ぱちんっ、と笑顔の可那先輩とハイタッチ。このハイタッチの威力が強ければ強いほど、可那先輩的ポイントが高い。手の平がじーんとしたので、今のフェイントは80点ってとこかな! やったね!
その可那先輩は、ミィミィと入れ替わってベンチへ。私はサービスゾーンに下がる。むっふっふ……よし、ここは一つ、サービスエースでも狙ってみるか!!
「とりゃ!」
私はいつもより速さを意識して、ネットの白帯の上ぎりぎりを狙う。ボールはびゅーんと風を切り、一直線にネットへ。
ずさっ。
…………ぬかったー(><)
「はる……お前」
「ひぃっ!? すいませんすいませんすいません!!」
可那先輩はびっしり眉間に皺を寄せ、25センチも高い私を見下し(胸を反らしたり顎を上げたりして強引に相手を視界の下に収めるのだ)、サイドラインで仁王立ちしている。
私はグーパンチを覚悟して交替のためそちらに向かい、ぎゅっ、と目を瞑って可那先輩のヤキ入れを待つ。
が、グーはグーでも裏拳で脇腹を小突かれる程度だった。
「ばか野郎。そういうことがしてえなら、普段からもっと練習しとけ」
言って、可那先輩は私を押しのけてコートに入っていく。
「っしゃあ、一本で返すぞ!」
「「おーっ!!」」
「声が小せえええ!!」
「「おおーっ!!!」」
私はベンチに戻るのも忘れて、ぽけーっと黄色頭を見つめる。
なんというか、本当に可那先輩は可那先輩だなぁと、こういうときに思うのだ。
スコア、18―19。
ここで、城上女はメンバーチェンジ。後衛に下がった謎のサウスポーさんが抜け、代わりにレシーブの上手い小さな子が再投入。
ここですんなりサイドアウトを取って先に20点台に乗ってしまえば、そのまま逃げ切りコースな気がする。逆に、ここで盛り返されるのはちょっと怖い。なんだかんだで一度も並ばれずにここまで来たからなぁ。
次にコートに戻ることがあれば、超終盤。それまで集中切らさないように気をつけなきゃね!




