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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第三章(城上女子) VS南五和高校
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81(月美) 謎の女・ユキエ

 市川静復帰作戦はどうやらうまくいったらしい。失敗した場合に可那がどう出るかわからなかっただけに、ほっと一安心である。


 と思っていたら、なぜかバスケ部から新たな選手プレイヤーが現れた。


 どこのどなたかは知らない。ただ、かなり背が高い。はると同じかちょっと低いくらい。前衛の急所だった小さな子との交替なので、にわかに城上女あっちの攻撃力が上がった感じだ。ごく普通に守備位置コートポジションで構えたので、初心者ではないのだろう。実力は未知数だが、あの身長のアタッカーを放置できるはずもない。


 うーん……どうしよう。市川静のセッターというのも、見るのは初めてだしな。まあ、形勢が傾くようなら、小夜子さよこが適当なタイミングでタイムを取るだろうし、それまでは普通にプレーしていればいいか。


 サーブはしずく


 笛が鳴る。ばしっ、と放たれたボールは、交替したばかりのバスケ部員(?)と背の高いセッターの子の間くらいへ。


「任せた!」


「えっ!? ちょ――」


 前衛のバスケ部員が取ると思っていたのか、背の高い子は慌てて手を伸ばす。どうにかボールに触れるも、コントロールできずに後ろへ弾いてしまう。それを藤島透がカバー。藤島透は、やや迷ってから、レフトにいるバスケ部員(?)に二段トスを上げた。


油町ゆまちさん、お願いします!」


「よし、来いっ!」


 どうやらバスケ部員はユマチという名前らしい。ユマチは藤島透のトスに合わせ……られてない。とんっ、ととと、とっとっ、と滅茶苦茶なタイミングの踏み込み。下手すれば空振りするぞ、と思ったら本当に空振りした(というか左利き(サウスポー)なのか)。掠りもしないとは驚きだ。後方からの二段トスとは言え、高さも位置もそう悪くなかったのに。


「す、すいません! あの、高かったですか?」


「いや、あなたのトスはナイスだったと思うよ! ただ相手が悪かったね!」


「え、ええぇ……?」


「藤島さん、気にしないでいいよ。由紀恵ゆきえは昔からこの調子だから」


 市川静がフォローを入れている。藤島透はよくわからないという顔をしている。わたしもよくわからない。わかったのは彼女のフルネームがユマチ・ユキエだってことくらい。


 まあ、身体能力が高いのに球技はダメって子はいるから、彼女もそのタイプなのかもしれない。いや、でも、バスケ部のほうから来たってことは、別にボールに慣れてないわけでもないのか。うーん、わからん。


 ひとまず、謎の女・ユキエへの警戒は一段階下げる。普通にぽっちゃりした子や初心者の子を警戒しよう。


 再び、雫のサーブ。今度はユキエとぽっちゃりした子の間くらい。ユキエはレシーブが苦手なのか、また「任せた!」と言ってコート外へ開く。連携はぎこちなく、ぽっちゃりした子の反応が半テンポ遅い。そのせいでカットは乱れ、ボールはぽっちゃりした子の真上くらいに上がる。


 ネット際に上がりかけていた市川静は、途中で切り返して、コート中央へ。


 そこからの一連のプレーに、わたしは、試合中なのも忘れて見蕩れた。


 たっ、きゅっ、と足音を鳴らし、セットアップする市川静。素早く、且つ、柔らかい動き。落下点の見極めも恐ろしく正確で、たんっ、としなやかにジャンプすると、まるで吸い込まれるようにボールが市川静の手に収まった。ボールをトスしに行くんじゃない。ボールがトスされに来る――そんな感じ。


 続いて、ハンドリング。彼女のトスは、ややホールディング気味だ。わたしと逆で、ボールに触れてからリリースするまでの時間が長い。えっ、そんな持つの、と一瞬ひやっとしたくらいだ。


 そうして溜めたトスが、これまた、羽が生えたように軽やかなのだ。


 時が止まったんじゃないか、と錯覚してしまう。あるいは、アタッカー視点なら、ボールが止まって見える、という感じか。もちろんそれは比喩で、実際のボールは普通に動いている。しかも決して遅くない。コート中央からサイドへ上げる二段トスとしては速過ぎるくらいだ。並みの平行以上、遅いBクイック未満。


 って、レフトはさっき空振った左利き(サウスポー)だよね? そんな速いトス打てるのか?


 ――などと疑問を浮かべた、次の瞬間。


 ばちんっ!!


 空気が破裂した。


 直後、ボールがフロントゾーンで跳ね、高々と舞い上がった。


 ……いや待て。


 なんだ今の音は。あんな打音を出せるのは南五うちじゃ珠衣ミィか筋トレマニアの雫くらいだぞ。


 あとなんだ今の角度は。フロントゾーンに叩き付けるとか信乃ののじゃないんだからさ。


 わたしは二、三度(まばた)きをして、曇りなきまなこで、彼女を見る。


 バスケ部員――もとい、ユキエ。


 変な方向に跳んだのか、レフトで打った彼女は着地後によろけ、今はライトの位置にいる。


 本当に、なんだ、今のは……。


「なんだ今のは。無茶苦茶じゃねえか」


 可那かなに無茶苦茶と言われるレベルだった。とんでもないな、謎の女・ユキエ。


 向こうのコートでは、そのユキエと市川静がハイタッチを交わしていた。他の城上女じょじょじょメンバーの反応は、概ね南五(こちら)サイドと同じ。特に背の高いほうのセッターの子はわたしと同じくらい目を丸くしている。


 うん。気持ちはよくわかる。目の前であんな綺麗なトスを見せられて、その上それがオープントスを空振るようなアタッカー――しかもレフトにいるサウスポーだ――にドンピシャなんだから、セッターとしては驚愕のち尊敬コースだろう。うん。わたしもそうだ。


 スコア、15―17。


 できることなら逃げ切りたいが、これはちょっと厳しいかな……?

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