79(胡桃) 隠しキャラ
ともすれば大惨事を招きかねないと案じていた可那と静の組み合わせだが、思っていた以上にかっちりとハマった。万智がいたおかげもあるのだろう。なんにせよ、静が前向きになってくれて、本当によかったと思う。
「しずしず先輩、すっかり元気になりましたね」
「うん。あなたたちのおかげだよ。ありがとう」
可那VS静の一騎打ちを、わたしと実花はベンチから見学していた。静が力んで打ったサーブを、可那が無理矢理拾おうとして失敗し、形の上ではこちらの得点。まあ、今のは(ついでに先程の反則スパイクも)可那なりの復帰祝いみたいなものだろう。
「気抜くなよお前らああ! 一本で仕留めんぞおおお!!」
さて、ここからは、再びちゃんとした練習試合に戻る。
いや、ようやくちゃんとした練習試合になった、と言うべきか。
こちらのサーブは静。四人レシーブ体制の南五に対して、可那と小夜子の間へ打ち込む。先程のサーブもそうだけど、ほとんどブランクを感じさせない。一体どこで何をしていたんだか。
が、そこは南五の〝暴れ金糸雀〟こと、有野可那。二年間南五の守備を支えてきたあの黄色は、今度こそ静のサーブをセッターに返す。そこから月美は県内最高の左――生天目信乃にトスを上げ、信乃はそれを難なく決めてくる。
どんっ、
とコートの真ん中に叩き込まれるスパイク。静も音々も透も万智も、誰一人反応できていない。女子で180超のアタッカーというのが、いかに規格外な存在なのかがよくわかる。
これで、14―16。
一時に比べると差は詰まったものの、ここまでまだ一度も南五の背中に触れていない。やはり前衛のひかりがネックだ。
これは、早速だが、秘密兵器を投入せねばなるまい。
本当はもう少し様子を見るつもりだったけど、勢いというのは大事だ。静は驚くかもしれないが、プレーに影響が出るほどではないだろう。
「タイム」
立ち上がってそう言ったわたしを、隣の実花やコートの他のメンバーが不思議そうに見る。副審の片桐里奈さんや主審の川戸礼亜さんも同じく首を傾げたが、要求通りに試合が一時停止した。
南五メンバーは南五ベンチに、城上女メンバーはわたしの周りに集まる。
「え、えっと……どうかしたの、胡桃?」
タイムの原因が自分にあると考えたらしい静が、わたしに訊く。わたしは首を振って、簡潔に言う。
「タイムが明けたら、メンバーチェンジをする」
ちなみに、バレーボールのメンバーチェンジは、一セットに六回までできる。ただし、リベロみたいに縦横無尽に交替することはできない。例えば、静と交替した実花を、前衛のひかりと交替する、みたいなことはルール上許されていない。ここから実花が交替するとすれば、静以外とは交替できず、なおかつ、一度静をベンチに戻してしまうと、このセットではもう静を試合に出せなくなる。
今はベンチにわたしと実花しかいないので、交替の可能性があるとすれば、静OUT・実花INだけだ。わたしがメンバーチェンジを宣言すると、静は「え、あ、うん」と曖昧に頷いて、万智や一年生たちに「お世話になりました」とぺこぺこし始める。
「静は勘違いをしている。交替するのは、ひかり」
「えっ?」
「私ですか?」
きょとん、とした表情で固まる静とひかり。まあそうなるよね、と思いつつ、時間がないのでわたしは話を進めた。
「というわけで、出番だよ、由紀恵!」
わたしは網を挟んで反対側で練習しているバスケ部のほうに振り返り、比較的大きめの声で彼女を呼んだ。
その名前に反応したのは、六人。
静と、カトレアさんと、紀子さんと衣緒さん、それからバスケ部の主将と、本人だ。
「そういうわけだから、悪いねー、花織!」
「ついに来てしまったか、この時が……」
バスケ部の主将が、諦め半分恨めし半分にわたしのことを見てくる。わたしは一礼しておいた。その間に、体育館を二分する網を潜り、彼女がこちらへやってくる。
唖然とする静たち。わたしは彼女を自分の隣に招き、主に下級生に向けて、彼女を紹介する。
「こちら、わたしと同じ三年で、元バレー部員の」
「油町由紀恵と申します! よろしくお願いいたしますっ!!」
ここで本日の隠しキャラ、城上女の誇る最強の助っ人――油町由紀恵の登場である。
登場人物の平均身長:165.1cm




