78(礼亜) あの時の続き
南五和の有野可那ちゃん。それに胡桃や現役主将の岩村万智ちゃんのおかげで、静はバレー部に戻る決心をしたようだった。
まだ少し硬さは残っているけれど、吹っ切れたように笑う静は、私の知っているどの静より素敵だった。
よかった、と思う。本当によかった。
私は頃合を見て、試合を再開する。スコアは13―15。
仕切り直しての、静VS有野可那ちゃん。
有野可那ちゃんは、先程と同様に他のメンバーをコートの端に追いやり、一人で静を迎え撃つ。副審の里奈はその様子を微笑ましく見守っていた。
「っさあ、来いよ!!」
「行きますっ!」
有野可那ちゃんの呼び声に、聞いたこともないくらいハキハキした声で静が応える。気合十分、という感じだ。
静は数秒ほど集中する間を取って、ステップに入る。どこで練習していたのか、その踏み込みはほとんどブランクを感じさせない。両手投げのジャンプフローターサーブ。
何が『サーブが打てなくなった』よ、と思わず笑ってしまいそうになるくらい、力強いフォーム。
放たれたボールは、ぐぐっ、と伸びのある軌道で、コートの角へ。
相手一人なのに、容赦ないなぁ、静。
「うおおおおおおおっ!!」
静の本気サーブに、有野可那ちゃんはしっかりと反応していた。
「可那ちゃん、アウトだよっ!」
「関係ねえ!!」
「えええ!?」
ボール一つ分くらいラインの外へ出そうなボールに、味方の制止も無視して飛びつく有野可那ちゃん。サーブを片手のフライングレシーブで取りにいくなんて無茶をする――と思ったが、実はきっちり上がる計算があったのか、意外とイケそうにも見える。
しかし、直前でがくんとボールが落ちて、有野可那ちゃんはボールの上を叩いてしまう。
だだんっ、と有野可那ちゃんの手を弾いたボールはエンドラインを割って接地する。最後に落ちたものの、全体としては大きく伸びたようだ。有野可那ちゃんは動揺してか、うまく受け身を取れずに、びたんっと顔から床にダイブ。大丈夫だろうか……。
しんっ、と場が静まり返る。私も笛を吹くのを忘れていた。
やがて、むくり、と立ち上がる有野可那ちゃん。鼻の頭を真っ赤にして、憮然とした表情で反対側にいる静を睨む。
「今のは悪くねえ。ただちっと力み過ぎだ。練習が足りてねえ証拠だな」
「えっ……あ、うん……」
「今日はこれくらいにしといてやる! 次までにちゃんとカンを戻しとけよ、市川静っ!!」
「う、うん。……わかった」
戸惑いつつも、最後にはしっかりと頷きを返す静。
有野可那ちゃんは、彼女なりに何かを納得したのだろう、「よし」と手を叩いて周りのメンバーを見た。
「お待たせしたな、お前ら! 試合再開だあ!!」
「「はいっ!!」」
返事とともに、わわっ、と動き出す南五メンバー。私も遅ればせながら笛を吹く。
何はともあれ、静と有野可那ちゃんの私闘は決着し、練習試合が再開する。
サーブは引き続き静。南五は四人レシーブ体制に戻る。
「静ちゃん! ないっさぁー、もう一本!」
静にボールを戻しながら、万智ちゃんが笑顔を見せる。
「気抜くなよお前らああ! 一本で仕留めんぞおおお!!」
対する南五は、有野可那ちゃんを中心に、それまで以上の圧力を放つ。
スコア、14―15。
二年前は、この辺りから試合がおかしな方向へ進んでいった。
城上女子VS南五和。
ようやくあの時の続きが見れそうだ。自分が中にいないのは残念だけれど、特等席だからよしとしよう。
私はサービスゾーンで気持ちを整えている静を見る。
そして、少しだけ強く、長く、笛を吹いた。




