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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第三章(城上女子) VS南五和高校
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75(静) そんなつもり

「次、交替するよ。準備して」


 立ち上がった胡桃くるみは私を見下ろして、そう言った。


 真剣な、真っ直ぐな目。射竦められたように、私は動けなくなってしまう。


「い、いきなり何を言い出すの、胡桃……?」


「だから、メンバーチェンジ。しずかに試合の流れを変えてほしいの」


「ちょ、ちょっと待って、私はそんなつもりで来たわけじゃ」


「わたしは『そんなつもり』で静を呼んだんだよ」


 胡桃は本気だった。いや、胡桃は最初から本気だった。私がそれを見て見ぬフリをしていただけだ。


「覚悟を決めて、静」


 胡桃はそう言うと、副審の南五なんいつOG――片桐かたぎりさんのほうへ歩いていく。


 二年前の記憶が蘇る。監督に呼ばれて、交替を告げられた。緊張と不安で胸の鼓動が速くなった。


 ばくっ、ばくっ、ばくっ――心臓は勝手に鳴り響いて、私を追い詰める。


「……めて……」


 喉が渇いて、うまく声が出ない。胡桃は止まらない。振り返りもしない。


 私は髪を握り締め、気付いたときには立ち上がっていた。


「やめてっ……!!」


 がしゃん、と大きな音を立ててパイプ椅子が倒れる。私はそれにびっくりして我に返る。みんなが私を見ていた。胡桃も、コートにいるメンバーも、隣で練習しているバスケ部の人たちも。


 いつの間にか、ラリーは終わっていたみたいだ。


「やめないよ」


 胡桃は極めてシンプルにそう返して、隣のバスケ部に「失礼、気にしないで」と手を振る。向こう側の時間が動き出す。だが、こちら側の時間は、まだ止まったまま。


「どうして……?」


 私は声を絞り出す。胡桃は、ベンチにいる私ではなく、コートのほうを見て、言う。


「大切な後輩のため」


 反射的にコートに視線がいく。心配そうな表情の万智まちと目が合う。私は咄嗟に視線を外す。すると、今度は審判台の上に立つ礼亜れいあちゃんと目が合った。礼亜ちゃんは、審判の役割を一時的に放棄して、成り行きを見守っていた。


 私は、私のことはいいから試合を進めて、と目で訴える。


 けれど、礼亜ちゃんは静かに首を振る。


「礼亜ちゃんまで……なんで……?」


 私は俯いて、髪の束を痛いくらいに握り締める。


「……私も胡桃と同じ」


 礼亜ちゃんは、優しい声音で言う。


「大切な後輩のためよ」


 それを聞いた瞬間、私は胸が潰れそうになった。


 思わず、礼亜ちゃんに「ごめん」と言いそうになった。


 けれど、顔を上げることはできなかった。


 みんなの視線が私に集まっているのを感じていたから。


 それを受け止めるだけの強さも覚悟も、私には無いから。


「……私は、でも……」


 上擦りそうな声で、縋るように、私は言う。


 南五の人たちの前では黙っていようと思っていたけれど、言ってしまう。


「……サーブが、打てない……んだよ」


 何人かが息を飲む気配がした。


 気まずい沈黙は、しかし、長くは続かなかった。


「そのことなんだけど」


 胡桃は、無感情に告げる。


「あの黄色バカが、話があるって」

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