70(月美) ダブルスコア
城上女子との練習試合。序盤から、ペースは南五和が掴んでいた。可那はいつものように集中しているし、可那の調子が良ければ必然的に二年生たちの調子も上がる。わたしはその間に入ってうまいことボールを繋ぐだけでいい。
スコアは、4―8の倍差。相手の前衛には160未満が二人。対して、こちらは県内最高の左こと信乃、そして信乃に次ぐ長身のはるがいる。攻撃力の差は誰の目にも明らかで、実際ブロックポイントで点差を広げた。
今はレフトのぽっちゃりした子の気迫に押されてブロックアウトを取られたけれど(彼女のスパイクはすごく痛いらしく、信乃とはるは半泣きになっていた)、それにしたって、何本かは止められるのが前提のスパイクなら、たとえ決められても点差は詰められない。すごいとは思うけれど、客観的に見て脅威ではない。
そのことは、向こうもわかっているはずだ。分が悪い。このまま行けば差が開く一方。なのに、どうしてだろう、城上女のメンバーからはあまり焦りが感じられない。
セッターというポジションは、敵味方問わず、他のプレイヤーを観察することが多い。長い間セッターをしていると、その人の振る舞いからある程度心理が読めるようになる。それがたとえ今日初対戦の相手でも、だ。
レフトのぽっちゃりした子が笑顔なのは、わかる。彼女は肉体的にも精神的にもタフなタイプだ。しかも彼女はコート内で唯一の二年生。今日は市川静のこともあるし、崩れないのは当然だろう。
けど、もう一人。
あの小さいほうのセッターの子。ポニーテールの、声の大きな子。彼女がにこにこしているのは、なぜなのだろう。そういう性格だから――で片付けるには、どうにも違和感がある。余裕が見えるのだ。ダブルスコアにも関わらず、彼女からは微塵も焦りが感じられない。
他の子は、多かれ少なかれ現状を良しとはしていない。ぽっちゃりした子だって、点差を意識しているからこそ、それを原動力にして自分より遥かに高い信乃やはるに立ち向かったわけだし。
なのに、あのポニーテールの子は、向こうのチームでただ一人だけ――ベンチにいる立沢胡桃や市川静も含めて――劣勢であることを感じさせない。そういう風に振る舞っているとか、装っているとかってわけでもない。さり気なくではあるけれど、彼女は確かに楔として機能している。
わたしの見立てでは、今頃トリプルスコアになっていてもおかしくはなかった。そうならずにダブルスコアで踏ん張れているのは、彼女の存在が大きいように思う。
音成にボロ勝ちしたというのも、まるっきりの作り話ではないのかもしれない。尾ひれがつくだけの本体があると見るべきだろう。そして、その中心にいるのはあのポニーテールの子だ。彼女にはきっと何かある。怪物とやり合えただけの何かが……。
などと、ごちゃごちゃ考えていたのがよくなかったのか、あっ、と思ったときにははるに速攻を上げていた。わざわざ相手の一番高いブロッカーが構えているところに、だ。
案の定、ばしっ、とワンタッチを取られてしまう。背の高いほうのセッターの子だ。それをバックレフトの藤島透がチャンスボールにして、Aクイック―レフト並行のコンビ。ポニーテールの子はレフトのぽっちゃりした子に上げる。信乃とはるがそれを迎え撃つが、Aクイックの囮が機能していた分だけはるのブロックが遅れている。案の定、
ごががっ、
とボールはブロックの間を抜ける。
「わーん!? すいません、月美先輩!!」
速攻を決められず、ブロックもし損ねた形のはるは、わたしにぺこぺこ頭を下げた。いや、今のはわたしが悪いんだけど。小夜子か信乃に上げていればたぶん決まったと思うし……いや、言わなければわからないか……。
「月美ちゃん、どうしたの? 考え事?」
小夜子がこっそり声を掛けてくる。バレてら。
「うん……まあ、ちょっと、個人的に気になる子がいて」
「へえ?」
意外そうな顔をする小夜子。
「ちなみに、どの子?」
「あのポニーテールの子」
「そうなんだ……」
小夜子が目を細める。
「でも、プレー中は集中しなきゃダメだよ。油断しないようにね」
「うん……」
小夜子の言う通りだ。あのライト対角の小さな子が後衛に下がれば、相手は本来の力を発揮してくる。はるの速攻に触れる一年生がいるチーム――楽勝できる相手じゃない。
スコア、5―8。
相手のサーブは、センター対角の、髪の短い初心者の子。そのサーブは、大きく横へ逸れて外れた。さっきは普通にミートしてたけど、まだフォームがきこちないから、こういうこともあるか。
「すいませんっス!!」
スコア、5―9。
こちらはローテが回って、わたしが前衛。信乃が後衛に。
まあ、逆転されないように、気をつけていこう。




