68(ひかり) 前衛
スコア、3―5。
とうとう前衛になってしまいました。ネットから指先しか出ませんが、どうしたものでしょう。
サーブは宇奈月さん。右打ちのフローターサーブは、FR周辺を守る赤井雫先輩のところへ。少しレシーブを乱します。セッターの逢坂月美先輩は、しかし、特に焦ることもなく、レフトに回った生天目信乃先輩にオープントスを上げます。
こちらのブロッカーは私と北山さん。生天目先輩は大きな身体を屈め、長い腕を振り、ぐわっ、と私の目の前で跳び上がります(その風圧だけで吹き飛ばされそうです)。迫り来る県内最高の左。遠近法が崩壊したような眼前の光景に、思わず「ぉふぅ」と変な声が出ます。
改めて言うまでもありませんが、改めて言うまでもないのをわかった上で、改めて言いましょう。
高い。
だんっ!
と生天目先輩のスパイクは、誰にも触らせることなくストレートに決まります。そのあまりにもあまりな角度と球速に、BRの霧咲さんが目を白黒させています。180以上のアタッカーの実質ノーマークスパイクですから、無理もないでしょう。というか、霧咲さん、あの、本当にすいません……。
スコア、3―6。あっという間にサイドアウト。こちらのサーブカットからです。
前衛は、レフトから私、岩村先輩、北山さん。セッターは霧咲さんで、宇奈月さんがサーブカットに参加します。
サーブは赤井先輩。打ち出されたボールは、お返しのように宇奈月さんのところへ。宇奈月さんは無理なくカットを返します。北山さんがライトから速攻へ。霧咲さんはそれに合わせます。しかし、
だんっ、
とブロックに阻まれます。攻撃を読まれたわけではありません。トスを見てから跳ぶリードブロック。しかし、生天目先輩と結崎はる先輩はリードブロックでも十分な高さを発揮できます。北山さんと岩村先輩しか有効なアタッカーがいないので、ブロッカーも最初からセンターに寄っています。これでブロックをかわせというのも無茶な話でしょう。
スコア、3―7。
「ねーねちん」
「音々ちゃん」
と、岩村先輩と宇奈月さんが同時に霧咲さんに声を掛けました。霧咲さんは二人を一度ずつ見て、年功序列に従い、まず岩村先輩のほうへ駆け寄ります。
「どうかしましたか、岩村先輩」
「うん。次なんだけどぉ、カットがどうなってもレフトセミをちょうだい。あっ、ネットから離しめでねぇ」
岩村先輩はそう言ってにっこりと笑います。
「とりあえずぅ、決まるまで打ち込んでみるよぉー」
ぐるぐると肩を回す岩村先輩。館一の〝ガンタンク〟――ヤる気満々です。霧咲さんの頬が僅かに引き攣ります。生天目先輩と結崎先輩……おいたわしや。
「一発じゃ無理かもしれないからぁ、ひかりちゃん、ブロックフォローお願いねぇ」
「お任せください」
私が前衛でできる数少ないことです。全力で頑張りましょう。
「じゃあ、そぉういうわけでぇ!」
るんるんっ、と楽しそうに守備位置につく岩村先輩。霧咲さんも元の位置に戻りながら、バックの宇奈月さんに声を掛けます。
「で、宇奈月のほうはなに?」
宇奈月さんは「なんでもないっ!」とにこにこ顔で首を振りました。霧咲さんは首を傾げますが、間もなくサーブが来るので相手コートに向き直ります。
サーブは引き続き、赤井先輩。私は岩村先輩がレフトへ回る際の邪魔にならないよう、且つ岩村先輩の分までサーブを拾えるよう、センター寄りの深めに陣取ります。
「……さあ、来いです」
私は、私にできることをしましょう。




