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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第三章(城上女子) VS南五和高校
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67(胡桃) ミスマッチ

 県内最高の左――生天目なばため信乃ののの活躍で、リードを広げるみなみ五和いつわ


 とおるがシャットアウトされた影響は大きいが、それ以前に、全体的になんだか動きが硬い。練習量が物を言うサーブカットからの攻撃を強いられ、なおかつ守備の要であるひかりがボールにさわれていないことが大きいのだろう。リベロの可那を起点に勝ちパターンを展開している南五和とは正反対だ。


 わたしは隣にいるしずかに声を掛ける。


「どう、静?」


「……どう、というのは?」


「試合に出たい、って気持ちにならない?」


 静はバツの悪そうな顔をして、髪の毛に触れる。


「私がいれば、チームが強化されるっていう理屈はわかる」


 返ってきた回答コメントは、わたしの質問の答えとしてはズレたものだった。


 コートに目を戻す。逢坂おうさか月美るみのサーブ。また梨衣菜りいなのところへ。梨衣菜は、今度はちゃんとボールの正面に回り込む。まだぎこちないサーブカットだが、ボールはBカット。悪くない。そこから、センターにいた実花みかがレフトへ、そして透はそのままライトでトスを待つ。音々(ねおん)は相手ブロッカーを横目に見て、トスをレフトの実花へ。


 相手ブロッカーは生天目信乃と佐間田さまだ珠衣みいの二枚。けれど、ライトの透を警戒していた分だけ回り込むのが遅い。音々のトス回しが速いのも利いている。そうして空いた信乃と珠衣ミィの隙間に、実花はスパイクを打ち込む。ボールは珠衣ミィの腕を弾いてコートの外へ。


 先程のシャットアウトから、すぐさまこういう対応に切り替えられるのは、恐らく実花のおかげだ。さっき透と音々に声を掛けていたが、このコンビの打ち合わせをしていたのだろう。


 スコア、2―4。


 透が下がり、万智まちが上がる。依然として南五なんいつ前衛フロントには信乃がいるので、厳しいことに変わりはない。あと一つでひかりが前衛フロントに上がってしまうことを考えれば、少しでも差を詰めておきたいところ。


 が、南五もそれは承知の上。透のサーブをリベロの可那がきっちりセッターの月美に返し、そこからレフトの赤井あかいしずくへ。今はまだ梨衣菜にはコミット(決め跳び)でブロックさせているので、必然的に一枚ブロック。


 ばちんっ、


 と強いミート音を響かせて、雫のスパイクはコートの真ん中に決まる。


 南五の攻撃は信乃とセンター線が主だが、それはレフトが薄いからではない。雫は中学時代、中央地区の強豪チームで一年生の頃からエースを張っていた実力者。その力強いスパイクは高校でも健在だ。


「っしゃあ! ナイスキー、雫!!」


「当然です。私はエースですから」


 眼鏡の位置を直しながら傲然と言い放つ雫(可那相手にすごい度胸だなあの子)。そこへ珠衣ミィが割り込んでくる。


「ちょっと待った! 南五のエースはこの珠衣ミィだよ! 月美さん、次は珠衣ミィ速攻トスください!」


「さすがに無理かな……」


 言って、月美はボールを珠衣ミィに渡す。次のサーブは珠衣ミィだ。珠衣ミィは「ぬあああっ!」と悲鳴を上げて後衛バックへ下がる。


 そして、可那がコートから抜け、センター対角の結崎ゆいざきはるが前衛フロントへ。はるは苦悩している珠衣ミィに明るく声をかける。


「大丈夫だよ、ミィミィ! ミィミィの意思ははるが受け継いだ!」


「うぅ……後は頼んだよ、はる……」


 結崎はる――この子もかなり高い。音成おとなる最高のアンドロメダと同じくらい。当然そのスパイクとブロックは要注意だ。


「というわけで、月美先輩! 次ははるに速攻トスくださいっ!」


「うん……それ言わなければ上げてたところだったんだけどね」


 月美は呆れたようにそう言って、ちらりとこちらのブロッカーを見る。発言の裏に潜む本心はまったく読めない。


 スコア、2―5。


 サーブは珠衣ミィ。ぴっ、と笛の音。片足踏み切りのジャンプフローターサーブ。ボールはレフト線に飛んでくる。万智か、ひかりか。


「お任せください」


「お願ぁいっ!」


 ようやくひかりがボールに触れる。球威のあるサーブだったが、安心なレシーブできっちり音々へ。梨衣菜がAクイック、万智がレフト平行、実花がライトセミ。この試合初めてのまともな三枚攻撃。音々は実花を選んだ。実花はそれを右で打ち、雫とはるの隙間を抜いて決める(ちなみに、実花は両利き(スイッチアタッカー)だが、他チームの目があるときは基本的に右打ちで通している。もしサウスポーで打ちたいときには、トスを呼ぶときに左手を挙げるのがサインになっている)。


「……飛ぶね、本当に」


 静がぽつりと呟く。先程のレフト平行と、今のライトセミを見ての感想だろう。170以上の信乃や珠衣ミィやはるは言うまでもなく、雫も実花より数センチ高い。それでも、ブロックが散っていれば、実花は二枚ブロック相手にも十分やり合える。


「静から見て、どう思う?」


「そうだね……ああいう、二枚ブロックでも決められて、しかもどこからでも打てる器用なアタッカーが対角ライトにいると、セッターは楽だと思うよ。エース一辺倒にならなくて済むし、コンビにも変化をつけられる」


 音成でいう芽衣サマメィがまさにそれだ。


「彼女がセッターなのは、確かにもったいないね。かといって高さのある霧咲きりさきさんをセッターにしてしまうのも上策じゃない気がする。本人もアタッカーがやりたいみたいだし。ならツーセッター……あ、でも対角には置けないのか……」


 ぶつぶつ、と一人で考え出す静。ほぼ同じことを、わたしも今回のポジション決めの際に考えた。なので、先回りで正解を教える。


「静がセッターをしてくれれば、全て解決」


「う、うん……いや……」


 肯定うんなのか否定いやなのか、はっきりしない静。


「……胡桃の言いたいことは……よくわかる、けど」


 けど――の先はない。静は髪を梳きながら下を向いてしまう。


 二年前と同じ。そこに何かがあるはずなのに、押し黙って、壁を作って、見せてくれない。わたしは――たぶんカトレア先輩も――その壁を無理に壊そうとはしなかった。覚悟が足りなかったんだ。


 わたしは何も言わずにコートに視線を戻す。


 実花が下がって、ひかりが前衛フロントに。


 信乃(183センチ)はる(175センチ)VS万智(155センチ)ひかり(147センチ)――このミスマッチ。


 スコアは、3―5。


 さて、どう切り抜けたものか。

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