67(胡桃) ミスマッチ
県内最高の左――生天目信乃の活躍で、リードを広げる南五和。
透がシャットアウトされた影響は大きいが、それ以前に、全体的になんだか動きが硬い。練習量が物を言うサーブカットからの攻撃を強いられ、なおかつ守備の要であるひかりがボールに触れていないことが大きいのだろう。リベロの可那を起点に勝ちパターンを展開している南五和とは正反対だ。
わたしは隣にいる静に声を掛ける。
「どう、静?」
「……どう、というのは?」
「試合に出たい、って気持ちにならない?」
静はバツの悪そうな顔をして、髪の毛に触れる。
「私がいれば、チームが強化されるっていう理屈はわかる」
返ってきた回答は、わたしの質問の答えとしてはズレたものだった。
コートに目を戻す。逢坂月美のサーブ。また梨衣菜のところへ。梨衣菜は、今度はちゃんとボールの正面に回り込む。まだぎこちないサーブカットだが、ボールはBカット。悪くない。そこから、センターにいた実花がレフトへ、そして透はそのままライトでトスを待つ。音々は相手ブロッカーを横目に見て、トスをレフトの実花へ。
相手ブロッカーは生天目信乃と佐間田珠衣の二枚。けれど、ライトの透を警戒していた分だけ回り込むのが遅い。音々のトス回しが速いのも利いている。そうして空いた信乃と珠衣の隙間に、実花はスパイクを打ち込む。ボールは珠衣の腕を弾いてコートの外へ。
先程のシャットアウトから、すぐさまこういう対応に切り替えられるのは、恐らく実花のおかげだ。さっき透と音々に声を掛けていたが、このコンビの打ち合わせをしていたのだろう。
スコア、2―4。
透が下がり、万智が上がる。依然として南五の前衛には信乃がいるので、厳しいことに変わりはない。あと一つでひかりが前衛に上がってしまうことを考えれば、少しでも差を詰めておきたいところ。
が、南五もそれは承知の上。透のサーブをリベロの可那がきっちりセッターの月美に返し、そこからレフトの赤井雫へ。今はまだ梨衣菜にはコミット(決め跳び)でブロックさせているので、必然的に一枚ブロック。
ばちんっ、
と強いミート音を響かせて、雫のスパイクはコートの真ん中に決まる。
南五の攻撃は信乃とセンター線が主だが、それはレフトが薄いからではない。雫は中学時代、中央地区の強豪チームで一年生の頃からエースを張っていた実力者。その力強いスパイクは高校でも健在だ。
「っしゃあ! ナイスキー、雫!!」
「当然です。私はエースですから」
眼鏡の位置を直しながら傲然と言い放つ雫(可那相手にすごい度胸だなあの子)。そこへ珠衣が割り込んでくる。
「ちょっと待った! 南五のエースはこの珠衣だよ! 月美さん、次は珠衣に速攻ください!」
「さすがに無理かな……」
言って、月美はボールを珠衣に渡す。次のサーブは珠衣だ。珠衣は「ぬあああっ!」と悲鳴を上げて後衛へ下がる。
そして、可那がコートから抜け、センター対角の結崎はるが前衛へ。はるは苦悩している珠衣に明るく声をかける。
「大丈夫だよ、ミィミィ! ミィミィの意思ははるが受け継いだ!」
「うぅ……後は頼んだよ、はる……」
結崎はる――この子もかなり高い。音成最高のアンドロメダと同じくらい。当然そのスパイクとブロックは要注意だ。
「というわけで、月美先輩! 次ははるに速攻くださいっ!」
「うん……それ言わなければ上げてたところだったんだけどね」
月美は呆れたようにそう言って、ちらりとこちらのブロッカーを見る。発言の裏に潜む本心はまったく読めない。
スコア、2―5。
サーブは珠衣。ぴっ、と笛の音。片足踏み切りのジャンプフローターサーブ。ボールはレフト線に飛んでくる。万智か、ひかりか。
「お任せください」
「お願ぁいっ!」
ようやくひかりがボールに触れる。球威のあるサーブだったが、安心なレシーブできっちり音々へ。梨衣菜がAクイック、万智がレフト平行、実花がライトセミ。この試合初めてのまともな三枚攻撃。音々は実花を選んだ。実花はそれを右で打ち、雫とはるの隙間を抜いて決める(ちなみに、実花は両利きだが、他チームの目があるときは基本的に右打ちで通している。もし左で打ちたいときには、トスを呼ぶときに左手を挙げるのがサインになっている)。
「……飛ぶね、本当に」
静がぽつりと呟く。先程のレフト平行と、今のライトセミを見ての感想だろう。170以上の信乃や珠衣やはるは言うまでもなく、雫も実花より数センチ高い。それでも、ブロックが散っていれば、実花は二枚ブロック相手にも十分やり合える。
「静から見て、どう思う?」
「そうだね……ああいう、二枚ブロックでも決められて、しかもどこからでも打てる器用なアタッカーが対角にいると、セッターは楽だと思うよ。エース一辺倒にならなくて済むし、コンビにも変化をつけられる」
音成でいう芽衣がまさにそれだ。
「彼女がセッターなのは、確かにもったいないね。かといって高さのある霧咲さんをセッターにしてしまうのも上策じゃない気がする。本人もアタッカーがやりたいみたいだし。ならツーセッター……あ、でも対角には置けないのか……」
ぶつぶつ、と一人で考え出す静。ほぼ同じことを、わたしも今回のポジション決めの際に考えた。なので、先回りで正解を教える。
「静がセッターをしてくれれば、全て解決」
「う、うん……いや……」
肯定なのか否定なのか、はっきりしない静。
「……胡桃の言いたいことは……よくわかる、けど」
けど――の先はない。静は髪を梳きながら下を向いてしまう。
二年前と同じ。そこに何かがあるはずなのに、押し黙って、壁を作って、見せてくれない。わたしは――たぶんカトレア先輩も――その壁を無理に壊そうとはしなかった。覚悟が足りなかったんだ。
わたしは何も言わずにコートに視線を戻す。
実花が下がって、ひかりが前衛に。
信乃とはるVS万智とひかり――このミスマッチ。
スコアは、3―5。
さて、どう切り抜けたものか。




