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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第三章(城上女子) VS南五和高校
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66(梨衣菜) ラストボール

 スコア、1―3。なんかもどかしいっス!


 音成おとなる女子との練習試合や練習でもばんばんスパイクを決めていた藤島ふじしま殿が目の前でブロックされた――これは大きいっスよね。なんたって、『藤島殿でも苦戦する』ってことは、『いわんや自分たちをや』ってことだから。


 相手のスーパーエース。生天目なばため信乃のの殿。藤島殿よりさらに高い相手。自分が見上げるくらいだからめちゃめちゃだ。直にネットを挟んで対峙すると、より一層高く感じる。自分は気持ちで負けないよう、宇奈月うなづき殿に倣って声を出す。


「さー来ーいっス!」


 そう言ったからか、サーブは本当に自分のところに飛んできた。でも、獅子塚ししづか殿のぐにゃぐにゃサーブに比べれば、触るのは難しくない。自分は身体の横に両手を出す。


「わっス!?」


 手元でボールが伸びて、後ろに逸らしてしまった。これはマズい、と思ったけれど、後衛バック岩村いわむら殿が目一杯ジャンプして繋いでくれた。突き上げるようなオーバーハンドで、ボールは自分の真上に。


梨衣菜りいなちゃん、らすとぼぉーる!」


「りょ、了解っス!」


 ボールはそれなりの高さまで上がっているが、岩村殿の掛け声は『ラストボール』。藤島殿の時は『お願い』で『打てるなら打って』のニュアンスが強かったけど、この場面では『確実に返すことを優先して』と言いたいのだろう。スパイク練習での綺麗なトスしか打ったことのない自分への、岩村殿なりの配慮だ。


 有難い、と思う。でも、同時に、とてももどかしい。自分も早く相原あいはら殿みたいにどこからでも打てるようになりたい。


 ただ、この状況は自分のカットミスが招いた結果なので、繋いでくれた岩村殿が『返して』と言っている以上、その通りにする。


 いつか見てろっス!


 自分は市川いちかわ殿に手ほどきを受けたばかりのオーバーハンドで、慎重にラストボールを返す。ボールは相手コートの真ん中へ。そこには黄色髪のリベロの人が待ち構えていた(三園みその殿や浦賀うらが殿に比べてやたらと動きが自由な人だ)。


「しゃあああっ! やっちまえ、お前ら!!」


「「はい!」」


 黄色殿はボールをセッターに返しながら悪の組織のボスみたいなことを叫ぶ(ただし声が高いので聞いている分には子供のごっこ遊びみたいだ)。センターの珠衣ミィ殿と生天目なばため殿が嬉々と返事をする。思わず一歩引いてしまうくらいの勢い(プレッシャー)。なんというか、マリチカ殿がリベロだったらこんな感じなのかもしれない。


 自分は珠衣ミィ殿をマーク。いち、に、と相手の助走ステップに合わせてタイミングを取る。それがバレバレだったのだろう。トスはライトへ上がった。


 自分は珠衣ミィ殿と一緒に跳んでしまったので、トスが上がるのを空中で見ていた。ボールを目で追う。その先には県内最高のサウスポー――生天目殿。逆足のステップでボールの下に入り、跳ぶ。


 高い!


 ただただそう思った。着地して少し膝を曲げていたから、より低い視線から、自分はそれを見た。


 アタッカーの生天目殿とブロッカーの藤島殿が、遥か天空に舞い上がる。比喩じゃない。二人はどう見ても別次元てんくうにいた。


 だんっ、


 と突き刺さるようなスパイク。ネット際に立つ自分の足元――アタックラインより前のフロントゾーンにボールが叩き付けられる。当然誰も触れない。


「上出来だあ、信乃ののッ!」


「はいっ! ありがとうございます!」


 盛り上がる相手チーム。スコアは、1―4。実際の点差以上に差をつけられているような感じ。


「いやー、180超の戦いは間近で見ると迫力あるねー」


「わっ!? 宇奈月うなづき殿!?」


 ぼうっとしていた自分のすぐ隣に宇奈月殿がいた。その手にはボール。


 ん? ボール? 生天目殿が叩きつけてどこかへ飛んでいったはずのボールをなぜ宇奈月殿が……。


「ちょっと、宇奈月、勝手に飛び出さないでよ。びっくりしたじゃない」


 バックライトから霧咲きりさき殿が走り寄ってくる。どうやら、フロントライトにいた宇奈月殿が、レシーブのために自分のすぐ横まで出てきたらしい。それでバウンドしたボールを掴んだ、と。


「てへ。ごめんね、ねねちん!」


 宇奈月殿は霧咲殿を宥めるように元の位置に押し返す。そして、ふらふらっと自分の傍に戻ってきた。


「まりーな、今のだけど」


「うっ……申し訳ないっス。つい手で取りにいっちゃったっス。こう、身体でっスよね、身体で!」


「あ、いや、サーブカットのことじゃなくて、ラストボールのこと」


「む?」


「オーバーはオーバーでも、ジャンプしてオーバーすればそれだけで相手は取りにくくなるよ。まりーなは背が高いから。で、もし狙えるなら、バックライトの辺りがいいかな。うまくやれば打たずとも決められるよ」


「お、おおっ! 了解っス!」


 自分がサムアップすると、宇奈月殿はにこにこと笑った。宇奈月殿は、時々こうしてアドバイスをくれる。いや、もちろん、相原殿も岩村殿も霧咲殿も藤島殿も三園殿も色々教えてくれるんだけど、宇奈月殿は、指摘するポイントが絶妙なのだ。


 例えば今のプレーなら、普通はみんな、最初にミスしたサーブカットについてアドバイスをくれる。


 でも、宇奈月殿は、ミスしたわけじゃないプレー――ラストボールのことに触れた。自分が、もどかしい、と思ったプレー。そのもどかしさを、宇奈月殿はうまく解消してくれる。今は乱れたトスを打てない自分。そんな自分にもできることがあると、宇奈月殿は教えてくれる。


「ねねちーん! とーるうー!」


 宇奈月殿は今度は霧咲殿と藤島殿のところへ。自分は、綺麗な尻尾ポニーテールが揺れるその背中を見つめる。


 自分は中学の水泳界ではそこそこ上位の選手だった。けれど、自分は同期や後輩に宇奈月殿みたいな的確なアドバイスができていただろうか――と思い返すと、そうでもなかった気がする。自分は『最初にミスしたサーブカットについてアドバイス』する『みんな』の中の一人だ。宇奈月殿みたいなことはできない。


 不思議な人だ、と思う。


 宇奈月殿に話し掛けられた前と後で、全然気分が変わっている。


 スコア、1―4。


 さっきは苦しいと思っていたのが、今は、3点差くらいなんとかなるのでは、と思える。


 本当に、不思議な人っス。

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