53(胡桃) カトレア
静をバレー部に復帰させよう作戦は着々と進行していた。
ハンバーガーショップで話をした翌日、早速可那から連絡があった。南五和はレギュラーメンバー全員と他多数、加えて二代前の部長も釣れたそうだ。
となれば、こちらも先々代の主将に声を掛けるべきだろう。もっとも、最初からあの人には声を掛けるつもりでいたが。
川戸礼亜さん。通称、カトレアさん。
地元の国立大学に進学し、今は二年生。最後に会ったのは、今年の正月(城上女バレー部は毎年正月にOG会を開催する。現役生とOGが試合をするのが習わしだが、今年は部員がわたしと万智のみだったため、OG同士の試合に万智が混ざる、という形をとった)。
そのときの話では、大学でもバレーを続けているとのことだった。また、静のことも話題に上った。カトレアさんは心残りだと言っていた。
わたしが『静のことでお話があります』といった旨のメールをカトレアさんに送ると、瞬時に電話が掛かってきた。
『やっほー、胡桃ー! ちょー連絡待ってたよー! もう事情は大体里奈から聞いてるよー!』
開口一番、そう言われた。
曰く、カトレアさんと、可那が声を掛けたという南五和の二代前の部長――片桐里奈さんは同じ大学の同じバレーサークルに入っているらしく、今回の合同練習の件は片桐さんから既に聞き及んでいるとのことだった。
さらに、カトレアさんは、当時の城上女バレー部員(つまり、わたしの一つ上と二つ上の先輩たち)にもふわっと声を掛けたらしい。地元に残っていて、当日空いているメンバーが二人ほど釣れそう、とのこと。
情報化社会ってすごい、とわたしは文明の発達に感動した。
『私も当っ然、行くからねー! 試合するなら審判とか必要でしょ? 任せ任せー! あっ、その代わりOGにも試合させてね! よっろー!』
カトレアさんはえらくノリノリだった。わたしは少し面食らった。
『それに、あの成女をボッコにしたっていう新入生にも興味あるしねっ!』
どうやら事実が捩じ曲がって伝わっているようだった。まあ、情報の伝達経路に可那がいる時点でお察しか。
『っていうのはさておき、本命の静は、大丈夫なの?』
カトレアさんは急に真面目な口調になってそう問うた。わたしは、静の性格上、これだけお膳立てすれば間違いなく来る、というようなことをオブラートに包んで言った。
『いや、そうじゃなくて、精神衛生的なこと。急なことだし、どう考えても荒療治だし。OGまで出張ると余計なプレッシャー掛かるかなーって。
もしあれなら……遠慮するけど? あ、里奈には私から説明するから、心配しないで』
わたしは、静にそれとなく先輩たちのことを伝えて、反応を見てみます、と言った。
『まあ、私としては、静が良いほうに向かってくれればそれでいいから。胡桃には胡桃の事情もあるだろうし、その辺は現役生同士で折り合いつける感じで。卒業生はオマケ程度の扱いでいいわ。というわけで、何か変わったことがあったら、また連絡ちょうだい』
「ありがとうございます」
わたしがそう言うと、カトレアさんは、ううん、と声に力を込めて言った。
『お礼を言いたいのは私のほうだよ。本当に……ありがとう』
じゃあ、またね、頑張って。
そう言って、カトレアさんは電話を切った。
登場人物の平均身長:164.8cm




