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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第三章(城上女子) VS南五和高校
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52(月美) 南五和高校

 新学期が始まり、新入生も交えて練習するようになった、ある日のこと。


 我がみなみ五和いつわ高校のナンバーワン問題児、こと有野ありの可那かなが、また何やら面倒事を持ってきた。


「ふーん。それで、カチコミに行くことにしたんだ」


「おうよ!」


「おうよって……」


 清々しいほどに堂々と胸を張る可那。わたしはボール籠を体育倉庫の奥へ片付けながら、小さく溜息をつく。可那は耳聡くそれを聞き取って、むっと口をヘの字にした。


「あんだよ。休練日オフに何しようとあたしの勝手だろ?」


「だとしても、常識的に考えて、他校に乗り込むのは問題があると思うな」


「その辺はほら、適当にナシつけてくれるってよ」


「不安しかない……。けど、まあ、いいや。頑張ってね」


「あ? なんで他人事なんだよ。お前も来んだよ」


「ん?」


「『ん?』じゃねえ。あたし一人じゃ試合になんねえし」


 可那は腰に手を当てたまま、黒くて丸い目をわたしに向ける。えっと、なぜわたしの参加が確定しているのかは置いておくとして……。


「なに、試合するつもりなの?」


「そりゃリベンジマッチだからな! ベストメンバーで殴り込もうぜ!」


「他のみんなの都合は?」


「は? あいつらどうせ暇だろ?」


 何言ってんだこいつ、みたいな顔をする可那。ぎゃくぎゃく。何言ってんだこいつ、って言いたいのはわたしのほう。さっき『休練日オフに何をするかは個人の勝手』と言い放った人間が展開していい理屈じゃないから、それ。


「だって、かったりーな先輩なんか、メールしたら『ひまひまオッケー!』って返ってきたぜ?」


 だって、ってなんだ。というか里奈りなさんまで連れて行くつもりなのか。いや、確かに二年前のこと絡みだから、むしろ連れて行くべき人なのだろうが。


「んだよー、ノリわりいなぁ。うし、じゃあ、わかった。とりあえず信乃ののに聞いてみようぜ!」


 ノリの良し悪しの問題じゃない。あと、じゃあ、ってなんだ。そして、おい、待て黄色。


 などと言い返す前に、可那は体育倉庫を飛び出し、床にモップを掛けている信乃のところへ走っていった。


「おい、信乃! 来週のオフ日暇か? 暇だよな? 放課後ちっと付き合えよ!」


「はっ、はい喜んで!」


 遅かった。わたしが可那を追って倉庫を出たときには、既に信乃は可那の手に落ちていた。可那はいわゆるドヤ顔でわたしに振り返る。


「ほらな?」


 わたしは、この段階で、可那を止めることを完全に放棄した。


「なになに、なんの話ですかー?」


 信乃と並んでモップ掛けをしていたはるが、興味津々に尋ねる。可那は嬉しそうに答える。


「来週のオフ日にみんなで他校に殴り込みしようって話だ!」


「わお! それちょー面白そうですね! はるも行きます!」


 はるはいつもの軽い調子でオーケーする。信乃は「な、殴り込みですか!?」と驚いているが、決して嫌そうではない。可那は次のターゲットのところへ走っていった。


「おらおら、しずくー! お前来週のオフ日暇か? ちっとみんなで遊びに行こうぜ!」


 可那はネットを折り畳んでいる雫に声をかける。雫は真っ直ぐ整った眉をきりりとハの字にして、きっぱりと言う。


「は? いきなり何を言い出すんですか。行きませんよ」


 よし、いいぞ、雫、頑張れ。


「ああ? んでだよー? 行こうぜー?」


「ちなみに、遊びって何するんですか?」


「他校とバレーの試合すんだよ!」


「は? なんでそれを先に言わないんですか。行きますよ」


 ああ、雫までも……。


「あ、と、は――おーい! 珠衣ミィ!! 珠衣ミィー!!」


 雫を陥落させた可那は、だだだっ、と体育館から出て水飲み場へ向かう。スクイズボトルを洗っている珠衣みいのところだろう。可那は、出て行ったと思ったら、すぐに戻ってきた。


「よし! 珠衣ミィ史子ふみこも来るってよ!」


 うん。そんな気はしてた。


 わたしは無我の境地にも似た穏やかな気持ちになってくる。と、体育教官室へと繋がる扉が開いて、中から小夜子さよこが出てきた。


「おっ! 小夜子、どうだった!?」


「うん。先生には了承をもらったよ。そういうことなら、って」


 えっ。


 わたしは目を丸くする。


 どうやら小夜子は既に籠絡済みで、先生に話を通したところらしい。わたしはがっくりと肩を落として、二人の元へ歩いていく。


「可那……小夜子には話してたんだ」


「あん? こういうことは真っ先に部長ヘッドに話すのがスジだろ?」


 何を当たり前のことを、と可那は片手の平をわたしに見せる。珍しく正論なので何も言えない。


 いや、でも、それならそうと早く言ってくれれば、余計な体力を使わずに済んだのに……まあ早々に諦めたから別にいいけど。


「可那ちゃん、月美るみちゃんに話してなかったの?」


「おう。忘れてたぜ」


 こら黄色。


「まっ、小夜子にオーケーもらった時点で月美のオーケーはもらったようなもんだからな!」


「もう、ダメだよ、可那ちゃん。ちゃんとすぐに言わなきゃ」


 小夜子は可那をたしなめる。ただ、指摘したのは事前連絡を忘れていた点のみで、可那の言い放った暴論を否定していないことが、個人的に引っかかる。


「というわけなんだけど、大丈夫、月美ちゃん?」


「うん。まあ……小夜子がいいなら」


 あっ。


 ふと可那に目を向けると、してやったり顔でわたしを見ていた。わたしは天を仰いだ。


「っしゃ! 決まりだな!」


 その後の全体集合で、来週の休練日の放課後に急遽きゅうきょ他校で合同練習を行うことが決まったと、部長の小夜子から説明があった。参加は強制ではなかったが、可那が直接声をかけたレギュラー陣以外にも、何人か希望者がいた。


 かくして、カチコミは現実のものとなった。


 行く先は、北地区・城上しろのぼり女子高校。


 二年前のインハイ予選で、わたしたち南五和高校が負けた相手だ。

登場人物の平均身長:164.8cm

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