49(胡桃) 決心
残って練習をしていくという成女の主力メンバーたちに見送られて、わたしたちは体育館を後にした。
「胡桃さんは学校戻りますかぁ?」
「そうする。新一年生もいるし」
わたしがそう答えると、万智は「わかりましたぁ」と笑って、一年生たちに声をかけた。そして、恐らく行きにそうしたように、万智は一年生を引き連れて歩き出す。わたしはしんがり。後ろから、自転車を押してついていく。
西の空にはまだ薄らと光が残っていたが、辺りはほとんど夜と変わらない。わたしの自転車のライトが、前を歩く一年生たちの足を照らす。と、そのうちの一人の足が止まった。
「立沢先輩は自転車通学なんですか?」
一年生の輪から離れた三園ひかりが、わたしの隣にやってきた(正確には、立ち止まったひかりの隣にわたしが追いついた、だ)。
「電車通だよ。駅から学校まで、自転車を使ってる」
「城上駅からですか?」
ひかりは首を傾げる。城上駅から学校までは徒歩五分もかからない。特に理由がなければ、駅から学校まではみな徒歩だ。
「ううん。わたし、北地区の出身じゃなくて、比美川駅から」
「逆方向ですが、よかったんですか?」
「うん。今日はあなたたちがいるし」
「わざわざありがとうございます」
「そんな畏まらなくていい。それに、大人数で帰るの、楽しいから」
わたしがそう言うと、ひかりは何も言わずに小さく頷いた。
「ひかりは? 今日は楽しかった?」
「はい。かなり」
「それはよかった」
「ただ、いかんせん部員不足が悩ましいです。玉中、落中、丘中バレー部は私たちしかいないようで。美那川中は、聞いたことがないと思ったらバレー部自体ないとのことでした。立沢先輩は、私たち以外の経験者をご存じないですか?」
「残念ながら」
「そうですか……」
今日来た一年生五人が全員入部するなら、城上女バレー部の選手は六人。試合にエントリーするだけなら、必要な人数は揃っている。各人の実力が申し分ないのは先程の練習試合で見た通り。
しかし、チームが――特にリベロのひかりが――最高のパフォーマンスをするためには、もう一人、前衛ができる選手が欲しい。
「ひかりは、やるからには勝ちたい?」
「もちろんです。最低でも県大会には出たいです」
「そう……だよね」
他の一年生だって、意見は同じだろう。わたしとしても、成女と張り合える今のメンバーを、埋もれさせたくはない。
何より、万智に、ちゃんと活躍できる場を用意してやりたい。
去年の三年生が引退して、万智は、それでも、バレー部の存続を望んだ。そして、今、わたしたちは城上女バレー部として公式戦に出られる可能性をほぼ手中にしている。
半端な結末では、終わらせたくない。
「立沢先輩……?」
「何でもない。それより、学校見えてきたよ」
地区の境になっている比美川を超え、わたしたちは城上女子高校に帰ってきた。
校門の前で、わたしたちは小さな輪になる。
「はぁい、皆さん、今日はお疲れ様。どうもありがとうございましたぁ」
万智が笑顔でそう言うと、一年生たちも揃って「ありがとうございました!」と返した。
「バレー部は明日も音成女子高校で練習しまぁす。参加したい人は、今日と同じように体育館に来てくださぁい。もちろん強制ではありませんのでぇ、他の部活も見たいよって人はそちらを優先してくださいねぇ」
その他、必要なことを伝達して、万智は話を締めた。
「今日は本当にありがとうございましたぁ。またみんなとバレーできるのを楽しみにしてます。それではぁ、帰り道に気をつけてください。かいさぁん!」
「「ありがとうございました!」」
散開したのち、万智とわたしは一年生と連絡先を交換し合って、彼女たちを見送った。ひかり、透、音々、梨衣菜は城上駅へ。実花だけが自転車で自宅へ直接帰っていった。
あとには、わたしと万智だけが残った。
「胡桃さんも、今日はありがとうございましたぁ」
「ううん。久しぶりに賑やかで、楽しかった」
「そうですねぇ。なんだか試合の帰りみたいでしたぁ」
「実際、試合した」
「はぁい。あのマリチカさんたちに勝っちゃいましたぁ!」
るんるん、と嬉しそうに拳を振る万智。わたしも自然と笑みが零れる。
「万智、試合、出たい?」
「もちろんですよぅ」
「勝ちたい?」
「当然でぇす」
「思い出作りとかじゃなくて?」
「何を言ってるんですかぁ、胡桃さん」
ふふふっ、と万智は目を細める。
「思い出は作るものじゃなくてぇ、あとから見つけるものですよぅ」
万智は空を見上げ、小さな、それでいて力強い手を、星に伸ばす。
「だからぁ、私はとにかく今を一生懸命頑張ろう、って思うんですよねぇ。そしたら、きっといつかいいことがあってぇ、もっとあとで思い出したときに、あぁ、あのときは頑張ってよかったなぁ、楽しかったなぁって笑えると思うんですぅ」
「……そうだね」
「実花ちゃんも、ひかりちゃんも、透ちゃんも、音々ちゃんも、梨衣菜ちゃんも……みんな入部してくれるって言ってくれて、こんなに嬉しいことってないですよねぇ。胡桃さんと一緒にバレー部を続けてきて、本当に、よかったなぁって思いますぅ」
「うん。本当にね」
去年、三年生が引退したとき、わたしと万智はバレー部を続けないという選択肢も取れた。
けれど、そうしなかった。
だからこその、今がある。
「胡桃さん、私、頑張りますよぉー!」
「うん。わたしも……頑張る」
そして、わたしは一つの決心をした。




