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48(ひかり) ぶい
鞠川先輩が去っていったあと、宇奈月さんは何事もなかったようにストレッチを再開しました。私はその背中を押します。
「……聞かないんですね」
「何がー?」
「私の……姉のこと」
「聞いてほしいの?」
「いえ、そういうわけでは」
「なら、聞かないよ」
さっぱりとそう言った宇奈月さんは、軟体動物のようにぐにっと上体を後ろに反らして、逆さまに私と向き合います。そして、おもむろに、両手で私の頬をつまみました。
「にゃにひゅるんれふか(何するんですか)?」
「ひかりん、顔恐いぞっ!」
宇奈月さんは、いかにも能天気そうに、いかにも無邪気そうに、にこにこ笑います。
「ひかりんは、バレー、好き?」
「ふきれふよ(好きですよ)」
「試合で勝つのは?」
「さらにゃりです(さらなりです)」
「なら、笑ってよ、ひかりん!」
もにもにっ、と私の頬で遊ぶ宇奈月さん。
「まりちか先輩みたいなすごい人たちとバレーして勝ったんだもん! 初試合初勝利だよ! 今ははしゃぐ以外にすることないよっ! ほら、ぶいぶいっ!」
宇奈月さんは私の頬から手を放して、両手でVサインを作ります。私は左手で頬を擦りながら、小さく溜息をついて、右手でVサインを作ってみました。
「……ぶい、です」
それを見た宇奈月さんは、満足そうににこにこと笑いました。




