34(美波) 四人レシーブ体制
あ痛たた……やってくれるわねー、あの一年生。
確か、霧咲音々。自己紹介では元セッターって言ってたけど、全然アタッカーでやっていける子だわ。まるで一年前の愛梨を見ているみたい。
12―13。なかなか引き離せない。少し、ヤな感じ。
サーブは、万智。ボールは和美へ。レフト方向へややズレたBカット。
「わぁ~、みーちゃん、ごめ~ん!」
「問題なっしん!」
定位置から少しズレたとは言え、レフト方向へ二歩分程度。しかもボールの軌道はほどよい山なり。コンビを使うのに支障はない。
こういうとき――サーブの勢いが思ったよりもあって、『あ、これはカット乱しそう』ってなったときに、無理にAカットを狙わず『リカバリーの利くBカット』へ持っていけるのが、和美の美点だ。
いつもいつも最善の結果を出すなんて理想論。和美はそれを理解していて、コンスタントに次善の結果を残す。心憎いねえ。
たたっ、と私は素早く落下点に入り、ジャンプトス。いっそツーアタックでも打ってやろうかと思ったけど、視界に入る巨体の圧力が恐ろしくて断念。マリチカに平行を上げる。
マリチカはそれを一発で決める。こちらは常に最高狙い。それを可能にするだけの〝強さ〟が、彼女にはある。
「ヘーイ! ナイスキー、マリチカ!!」
「あたぼーよー!」
何度も交わしてきた決まり文句。
これで、12―14。
ローテが周り、私が後衛、芽衣が前衛。
本日二度目の、マリア様ローテ。
私は、サービスゾーンに立ち、ボールを受け取って、ふうっ、と呼吸を整える。
相手は藤島とリベロとマチ子の三人レシーブ体制。
藤島はさっき散々イジめたし、リベロの子はかなり上手いから、やっぱここはマチ子かな。
主審の笛が鳴る。サーブの軌道をイメージしたのち、私は助走に入った。
たっ、と片足で踏み切って、ボールの中心を押し出すように叩く。
サーブは狙い通り、マチ子の左、その足下へ。マチ子は落下点を予想し、アンダーハンドで取りにいく。
ただ悪いけど、そのサーブ、けっこう落ちるわよ?
「う、わぁ……っ!?」
急激に落下するサーブ。マチ子は腰を落として両手を伸ばすも、コントロールの利かない拳にボールが当たり、ががっ、とレシーブは浮くことなく地面に跳ね返る。
「うぅ……ごめんなさぁい」
しょげるマチ子。ドンマイ、と励ましながらその周りに集まる一年生たち。
スコアは、12―15。あと3点くらいは最低でも取りたいところよね――ん?
相手のセッターとリベロ、それに霧咲が何か話している。二、三のやり取りを終えると、三人はコートに散っていった。
リベロは、先ほどまでより、ややレフト側に。
霧咲は、セッターの位置に。
セッターだった両利きの子は、コート中央ややライト寄りに。
そして、彼女に押し出されて、マチ子がバックライトに。
―――ネット―――
音
透 実
万
ひ 梨
―――エンド―――
セッター変更の上、四人レシーブ体制。
この切り替えの速さ。元々想定していた守備位置のパターンだとは思うけど、今の一本を見ただけでそっちにしちゃうんだ。守備位置もそうだし、試合の中でセッターを変えるとか、思い切ったことするわ。
役割変更してまでレシーブに参加したということは、あの両利きの子、少なくとも霧咲よりはレシーブに自信がある、ってことよね。思い返せば、サーブカット練習のときも普通に上手かったし。
……そう言えば。
あの両利きの子、地元民じゃないらしいけど、中学のときはどこのポジションをやっていたのかしら。
特に不具合なく、ごく自然にセッターをやっていたから、元セッターなのかな、と漠然と思ってたけど。
まあ……ひとまず今は、置いておくか。
私は、ボールの感触を確かめ、サーブの構えを取る。
ぴぃ、と短い笛の音が、鳴った。




