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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第十章 AT和田総合体育館(II)
374/374

251(胡桃) 四強激突

「ふぁ――くしゅっ」


 コートに響く笛の音が呼び水となったのか、可愛いらしいくしゃみ。


「大丈夫、万智?」

「はぁい。なんか急にむずむずしちゃって」

「誰か噂でもしてるのかな」

「それ、該当する人が限られるような……」


 ふっ、と静が遠くへ目を向ける。深紫色の陽炎がちらちらと揺れているほうだ。ま、噂の発信者の特定はさておき。


「では、改めて――みんな、どっち見る?」


 準々決勝が終わり、これから小休止を挟んで準決勝が始まろうというところ。Cコート組が帰ってきて席はぎゅうぎゅうなので(当然、ごろごろしていた黄色カナリアには巣に帰ってもらった)、組分けするなら早いほうがいいだろう。


「あたしは、今度はCコートに行きます」

「わたしも、Cのほうで」


 そう言ったのは、明正学園のダブルエース(凛々花と颯)。二人はここまでAコートで法栄大立華とセントレを観戦したので、まだ見ていない四強――音成女子VS柏木大附属に興味が湧くのは道理だ。


「では、私もCコートに」


 凛々花と颯が「真似しないで!」「していない!」などと乳繰り合ってるのを横目に、ひかりがひっそりと席を立つ。すると、その隣にいた透も「あっ、じゃあ、私もまたビデオ係を……!」とひかりに続いた。


「私はAコートで!」


 元気よく宣言し、にこにことVサインをするのは、実花。次いで、


「ほな、ウチもAにしますー」

「私も同じく」


 と、夕里と七絵が本陣ホームに席を確保する。ふむ……この三人が揃ってるなら、試合の解説に不自由はあるまい。


「じゃあ、わたしはCコートで」

「あっ、胡桃さん、ここ固定じゃなかったんですねぇ」

「自分の目で見られるなら、それに越したことはないからね」


 このあたりは、凛々花や颯と同じ理由だ。法栄大立華とセントレは既に見た。最後に決勝を見るのは確定なので、ここで音成女子と柏木大附属を見ておかないと、どちらかを見逃すことになる。


「しからば、胡桃が留守の間、万智は私が預かろう」

「それはどういう『しからば』なの、志帆ちゃん……?」

「お世話になりまぁす」

「万智ちゃんの受け入れが速やかだ!」

「しからば、わたしは知沙を貰っていく」

「だからその『しからば』って何!?」

「くれぐれも丁重に扱ってくれたまえ」

「私の意思は!?」

「知沙……わたしと一緒じゃ、イヤ……?」

「胡桃ちゃんの上目遣いの破壊力すごいな!?」

「知沙先輩、志帆先輩のことなら大丈夫ですよ、わたしが見張ってますから」

「なんと! ありがとう、恵理ちゃん!」

「いえいえ」

「「決まりだね」」


 かくして、わたしと知沙がCコート、志帆と万智と恵理がAコートに分かれる。

 と、ここで大人組に動きが。


「あ、あの、山野辺先生……」

「あっ、はい、そうですね……」


 なにやら意味深な目配せのあと、山野辺先生が手荷物を持って席を立った。


「ごめんね、先生たち、ちょっとお昼ご飯を――」

「山野辺先生、坂木コーチ、本日はお忙しいところをありがとうございました」

「「ありがとうございましたっ!」」

「まだ帰らないよ!? 決勝までには戻ってくるから!?」


 やや、これは早合点。ここまで来ていただいただけでも十分に有難いのに、最後まで付き合っていただけるとは感激の至りです。


「あっ、先生たちごはん食べに行くんですか? いいなー、私も――」

「やめようね、由紀恵」

「わははっ、冗談だよー。で、静はどっち見るの?」

「私は……やっぱりAコートかな」

「しからば、一セット目は私とCコート見て、そのあとこっち戻ってこよっか!」

「由紀恵? 『しからば』を使えば何言ってもいいわけじゃないからね?」

「でもさでもさ、どうせなら両方見たほうがお得じゃない?」

「うーん、そう言われると……」


 結局、由紀恵に押し切られて静も立ち上がる。


「これでCコート組は八人か。さすがにもう定員かな」

「では、自分たちはAコートに残るっス!」

「私も天理お姉様の応援するので!」

「ふふっ、いつもより楽しそうな希和、面白い」

「ちなみに希和、その手作りっぽい団扇は一体……?」


 梨衣菜と希和はAコート継続、芹亜と音々はCコートからの帰還で席を確保。こうして全員の組分けが終わる。内訳はこんな感じである。


 Aコート:志帆、万智、七絵、恵理、実花、梨衣菜、音々、夕里、希和、芹亜、静・由紀恵(※二セット目~)。


 Cコート:わたし、知沙、ひかり、透、凛々花、颯、静・由紀恵(※一セット目)。


 ランチ:山野辺先生、坂木コーチ。


「では、散会」

「「はーい!」」


 返事が揃ったところで、わたしたちCコート組は移動を開始――と、その時だった。




せー――――――――――」




 甘く伸びやかな美声が、体育館の隅々まで満ちていく。凛々花と颯がごくりと喉を鳴らし、透と七絵が声の主の名を呟いた。


「あやめ(鶯谷)さん……」


 やがて美声は優美に、かつ決然と止み、間髪入れずに『レオン(れっ)!』『ハルト()!』の斉唱が起こる。県内の多くの選手の悪夢トラウマとして悪名高いセントレオンハルト女学院伝統の掛け声(せーれっは)。これが聞こえたということは、すなわち、彼女たちが臨戦態勢に入ったということ。それは当然、今コートに散らばる敵手ライバルたちも理解している。だからだろう、第一の鯨波に応えるように、残りの陣地ベンチからも次々と喚声が上がった。


 おおおおおおおおお――――と気迫が洪水のように溢れ、わたしたちを呑み込む。


 その奔流を生み出しているのは、四つの高校チーム

 六地区の代表、計三十四校による予選トーナメントを勝ち抜き、当県代表としてブロック大会への出場を決めたベスト4。

 これから行われるのは、代表枠ではなく、その序列を争うための試合。


 Aコート、法栄大立華VS(セント)レオンハルト女学院。

 全国最強の紅が座す盤石の〝龍〟か、県内最強の烏揚羽を筆頭に舞う〝蝶〟か。

 互いに鉄壁を誇るチーム同士による、守備対決。


 Cコート、音成女子VS柏木大附属。

 密な連携で外敵を刺す県内最強の〝蜂〟か、個々が気ままに獲物を喰らう県内最高の〝虎〟か。

 互いに必殺を是とするチーム同士による、攻撃対決。


 ブロック大会県予選、第二日目。

 戦いの舞台ステージは準決勝――四強激突へと、移る。


























挿絵(By みてみん)

ご覧いただきありがとうございます。


第十章はこれにておしまいとなります。

少しでも楽しめていただけたら幸いです。


偵察編は次章でおしまいの予定です。

書き溜めのためまたしばらくお休みしますが、前回ほどは長くならないと思います。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

ちょっとずつですが前に進んでいきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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