表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第十章 AT和田総合体育館(II)
372/374

249(梨衣菜) 準々決勝第二試合

 柏木大附属(白ジャージ)一行とのハプニングはあったものの、無事にCコート組の三人と合流した自分たちは、使い古したタオルのようによれよれの透殿を介抱しながら再びトイレへ戻った。

 観戦した試合の顛末や、その後の経緯など、簡単な情報交換もその間に済ませつつ。

 そうして所用を終えたら、後は本陣ホームへ帰るだけ――なのだけれど、そこはなんと言うか、こうして五人揃うのも一試合ひさし振り、ダベったりしたくなるものっスよね!


「かくて見事に強豪とのエンカウントとは――いやはや、さすが透殿は持ってるっスね!」

「全然嬉しくないよぉ……! 本当、あの人、迫力すごくて……もう限界ぎりぎりだったんだからっ!」

「まぁ、透は透だからね。今後も行く先々で目を掛けられるのは仕方ないと思うわ」

「私の未来、不安しかないの……?」

「心中お察ししますよ、藤島さん」

「でも否定はしてあげないんだね、ひかりん」

「それはあなた、藤島さんは藤島さんですゆえ」

「誰か私と替わってぇ……!」

「替われるものなら替わってみたい気もするわね。同じシチュエーションでスルーされたわけだし、あたし」

「ねねちんにはねねちんの魅力があるよっ!」

「そうっスよ! これは予想っスけど、きっと音々殿も何かしら興味持たれてるっス!」

「それはつまり……眼鏡的な意味で?」

「そうではなく! もっと意外なところでっス! というか、自分なんて認識されてたかも怪しいっスよ!?」

「ややっ、それはないな! まりーなは170あるから、さり気なくも確実にチェックされてるよ!」

「そう言うあんたは……あんだけ堂々と名乗ってたし、きっと覚えられてるわね」

「まーねー!」

「そのあたり、ひかり殿はどうお考えっスか? やっぱり、強そうな方々には覚えめでたいほうがいいっスか?」

「三園さんは……私だったら、真っ先に目に入る、かな……むしろ目に入れても痛くないみたいな……」

「藤島さんのお言葉は参考程度に留めるとして――今回のケースだと、個人的にあの方々の目には映らないのが望ましいですね」


 素っ気なくも真摯な、ひかり殿らしい受け答え。けれど、一瞬だけさ迷わせた視線に微かな引っ掛かりを感じる。そこを的確に指摘したのは、音々殿だった。


「……もしかして、ひかり、剛璃ごうりさんたちと知り合いなの?」

剛璃ごうりさんなる人物はちょっと存じ上げませんが――あのお三方のことなら、ええ、見知っていますよ」


 それはいつ、どこで、どうやって――?

 思わず口に出しそうになったが、寸前で飲み込んだ。音々殿も少し躊躇っている。なんだか踏み込んじゃまずいような気配。

 けれど、それをものともしない人が、一人いた。


「なるほど! つまりあの人たちは、三年前の県選抜メンバーなんだね!」


 実花殿がいつものにこにこ顔でひかり殿を見る。ひかり殿は諦感を滲ませて、そういうことです、と頷いた。


「三年前の県選抜、というと……」


 その話題は、先の試合中に胡桃殿や七絵殿の口から語られた。

 法栄大立華のスタメンのうち五人――否、六人もがそうだったという。

 あの美女殿と双子殿も、その六人と共に全国の舞台を戦った仲間チームメンバー

 その意味するところは、すなわち――。


「お姉さんのお知り合い、なんだよね?」

「まさしく、宇奈月さんのおっしゃる通り」


 こくん、と小さく頷くひかり殿。

 その大きな薄茶色の瞳が一瞬、濃く深い色味に変化する。

 まるで、はるか遠くで耀く(太陽)に焦がれるように。

 あるいは、あまりに強く焦がれ(見つめ)過ぎて、瞳の奥まで灼け爛れてしまったかのように――。


「……本当、なのね。あの人があんたの――って」

「はい、本当ですよ」


 音々殿が念を押すように訊くと、ひかり殿は至極あっさりと肯定する。さっきのは見間違いかと思うほどに、平気の平左だ。音々殿は肩を竦めて、柔らかく微笑んだ。


「ま、別に詮索はしないわよ。あたしは正直、地区大会でニアミスしてたって言われてもピンとこないし、玉中の三園と言えばあんたのことだし」

「じ、自分は本音を言うと色々訊きたいっスけど――でもっ! ひかり殿が話したいときに話してくれたらそれでいいっス!」

「かたじけない、です」

「えっ? えっと? みんな、さっきから何の話してるの?」

「「「………………」」」


 そうでしたっスー! 透殿はまだ何も知らないんでしたっス!


「……あたしの口からは、ちょっと」

「い、いや、自分もうまく話せる自信が――!」

「はて、困りましたね。かくなる上は……」

「あれ!? なんでみんなして私を見るの!?」

「宇奈月さんには……ついつい大きな期待をしてしまいますね……」

「おざなりに飴ちゃんくれる(持ち上げてくる)のやめて!?」

「あの、話が全然見えないんだけど……実花?」

「いやいや! ここは私ではなく、ひかりんにどうぞ!」

「三園さん……?」

「……藤島さん。はばかりながら、すこぶる大事な話があるのですが」

「すこぶっちゃうの!? それは、えっと……どういう系の大事かにもよるけど――」

私たち(バレー部)のこれからに深く関わってくる系です」

私たち(私と三園さん)のこれからに!? やっ、待って待って! そんなっ、みんなの前でなんて心の準備が……!!」

「その、実はですね、私の――」

「ぷわわわわ……!?」

「失礼――少しいいだろうか?」


 突然の第六者登場!? 一体どこのどなたで――って、なんか見たことあるような……。


郁恵いくえ先輩!?」


 あっ、思い出したっス! 石館商業のミドルブロッカー――着ている深紫色のジャージも館商のものだ――で、音々殿の中学の先輩の佐々木(ささき)殿!


「……元気そうだな、音々」

「は、はい。あたしはこの通り――えっと、先輩は……」


 挨拶を返そうとした音々殿は、佐々木殿の顔を見て言葉に詰まる。特に不自然なところがあったわけではない。ただ、目が真っ赤なことを除いては。


「その……試合、お疲れ様でした」

「疲労はさほどでもない。だが、心遣い、感謝する」

「いいえ、そんな、恐縮です。えっと……それで、何かご用でしたか?」

「ああ、少し尋ねたいことがある。どこかで藤本ふじもと宝円寺ほうえんじを見てないか?」

「えっ……? いや、見かけてませんけど――何かあったんですか?」

「心配しなくても、そんな大事ではない。気づいたら本陣ホームからいなくなっていたんだ。今すぐ見つけないと困るわけではないが、携帯も置きっぱなしだし、散歩がてら所在を確かめようと思ったのだ」

「あっ、そういうことでしたか。すみません、お役に立てなくて」

「いや、私こそ、邪魔して済まなかった。では、失礼する」

「は、はい……あっ、ちょっと待ってください、郁恵先輩!」

「どうした?」


 踵を返した佐々木殿を、音々殿は呼び止める。そして、


「次の地区予選は、あたしたちも出るので……!」


 よろしくお願いします、と一礼。佐々木殿は、微かに笑っているように見えなくもないけど気のせいかも? くらいのプレーンな表情で音々殿を、次いで周りの自分たちも一瞥すると、ただ、


「うむ」


 とだけ返事をして、元来たほうへと去っていった。えっ、それだけ? と思うけれど、見送る音々殿が手応えアリって顔しているので、どうやら今ので良かったようだ。


「いちいさん……の、所在が不明……」

「私たちもそろそろ帰還しますか」

「そっ、そうだね! って、ごめん、三園さん、話の途中で……」

「いえ、お気になさらず。……いずれ、しかるべき時にお話ししますゆえ」

「あっ、う、うん……わかった。また、ふ、二人っきりになったときとか……」


 真っ赤な頬に両手を当ててもじもじする透殿は明らかに何か勘違いしているっぽいけれど――それを指摘するほど自分は野暮ではないっス。


「なんかすっかり話し込んじゃったわね。急いで戻りましょうか」

「りょーかいっス!」


 そうして、自分たちは仲間みんなの待つ本陣ホームへ帰るのだった。


 ――――――


 ――――


 ――


「おっ、やっと帰ってきたか! ったくどんだけ道草食ってやがんだよ、お前ら!」


 なんか黄色い人いるっス!?


有野カナリア先輩……? えっと、お疲れ様です」

「おうっ! マジくったくただぜ!」

「そうみたい、ですね……? あの、どうしてここに?」

「暇だから遊びにきた」

南五和みなみいつわのほうは……」

「あたしは湿っぽいのが苦手なんだよ」


 ひと事のようにさらりと言ってのけ、ふぁあ、とあくびする有野カナリア殿。そのフォローなのか、胡桃殿が気安い調子で話しかける。


可那かな、中学でも試合に負けるとどっか行ってたよね」

「だって、あたしがいると邪魔だろ?」

「確かに」

「そういうわけだ。別に暴れたりしねえから、ちょっと羽休めさせてくれや」


 ひらひらと手を振って、有野カナリア殿は座席二つ分のスペースを贅沢に使ってごろりと横になり、さらに胡桃殿の膝を枕にして休み始める。

 と、そこで自分はようやく、有野カナリア殿が占拠している座席の主がいないことに気づいた。


「あの、しずか殿と万智まち殿はどちらに? あと由紀恵ゆきえ殿の姿も見えないっスが――」

「三人なら飲み物を買いに行ってるよ」

「静と変な女(由紀恵)はいいとして、主将をパシらせるとはいい根性してんな、一年」

「なんかすみませんっス!?」

「真に受けなくていいよ。万智が席を立ったのは、この黄色カナリアが静と万智の間に割り込んできたせいだから」


 なるほど……つまり、静殿と万智殿は、お疲れの有野カナリア殿のために一時的に席を譲ったんスね。で、由紀恵殿はそんな二人にくっついていった、と。


「そんな感じ。ま、いずれにせよ席はいっぱいだから、三人が戻ってくるまでに組分けと席替えを済ませとこうか」


 言うと、胡桃殿は自分たちや明正めいじょう学園のメンバーを見回した。


「そんなわけで、まもなく準々決勝第二試合が始まるわけだけど――」


 Aコート、セントレオンハルト女学院VS(うしお)第一。

 県内随一の守備力を誇る〝蝶〟と、異色ツーセッター伝統チームコンセプトを持つ実力派集団による東西ハイレベル対決。


 Cコート、柏木かしわぎ大附属VS福智(ふくち)学園武岡(たけおか)

 法栄大立華()と双璧を為す〝虎〟と、その両雄に準ずる実績を持つ生え抜き軍団による南地区ハイエンド対決。


「みんな、どっち見る?」


 悩ましいっス!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ