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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第十章 AT和田総合体育館(II)
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248(笑美) 大物喰い

「ん――?」


 先輩は不意に立ち止まると、ジャージの裾を引かれたように後ろを振り返った。


「どうかしました?」

「なんか今、とんでもねー単語が聞こえた気がしたんだが」

「私は何も聞こえませんでしたけど……」


 そんなことより早く戻りましょうよ、というニュアンスを言外に込めて、私は止めていた足を再び動かす。先輩は首を傾げながらも、後に回すか、と言ってすんなりついてきてくれた。

 やがて私たちは、早く早くー、と手招きする双子の先輩たちに追いつく。ポジション的に二人には先に行っていてほしかったが――もはや五十歩百歩か。


「そんでそんで、シャル、あのでっかい子ナニモノなの?」

「トール、とか言ってたよね? やっぱ県選抜?」


 好奇心に目を輝かせ、左右から迫ってくる先輩たち。私は同じ顔を一度ずつ見て頷く。


「彼女は藤島ふじしまとおると言って、私と同期の県選抜でレフトエースをしてました。それと、キャプテンたちの代でも控えで出場してますよ」

「二期連続とは大したもんだな。あのガタイならさもありなんだが――そんな大物がなんで四強・八強(今日ここ)に選手として出てねーんだよ」

「それは私も不思議でしたけど……あの制服、どこかの無名校に進学したみたいですね」

「城上女子、って言ってたよ」

「シロノボリ……んー? なんか聞いたことあるような?」

「城上なら、北地区の地名ですね。透も北地区出身ですから間違いないかと」

「いや、地名とかじゃなくて、もっと身近なところで――」

「あっ、わかった! 二年前のインハイ予選だよ! 先輩たちが戦ってた!」

「それだ!」

「よく覚えてんな」

「いやー、あそこね、初日の八強決めで南五和とアクシデントってたんだ。たまたま応援席ギャラリーから見てたんだけど」

終盤イイところで南五和のリベロが倒れて途中棄権したんだよね――って、アレ今思えば黄色カナリアちゃんだ!?」

「あの暴れ鳥(カナリア)が倒れただぁ? なんだよ、城上は凄腕の猟師(ハンター)でも雇ってたのか?」

「どうだったかな。確かピンチサーバーが出てきて、そのまま……とかだったような」

「なんにせよ、その時の城上女子はベスト8を争うくらいの力はあったよ。ただ、その後はとんと名前聞いてないけどね」

「その学年だけ強かったんですかね?」

「それか当時の監督が敏腕だったとか!」

「まあ、城上については大体わかったわ。肝心なのは、そこにフジシマトールが入ってどうなるかだ。エースが良くても他がパッとしねーんじゃ、北だと暴君(藤本)に潰されて終わりだろ」

「シャル、藤島ちゃん以外に知ってる子いたー?」

「いえ、県選抜では見かけなかったと思います。でも、全員一年生なら大分すごいですよ。透を除いても170以上が二人いましたから」

「言われてみりゃ、眼鏡のお嬢ちゃんはお前らと同じくらいあったな」

「眼鏡の――そうだ、あの子……僕らのこと、一目で見分けたんだよね」

「なんのことですか?」

「いや、シャルが来る前ね、眼鏡の子が、僕が落としたタオルを届けてくれたんだけど――」

「あっ、そう言えば、あの時は私と喜々くんが一緒に並んでたっけ! 普通に喜々くんのほう行ったから、軽く話したりしたのかと思ったけど」

「ぜんぜん、トイレの前で一瞬すれ違っただけ。声も掛けてないし、目も合ってない」

「えっ、なにそれちょー面白い子じゃね!?」

「でっしょー!? 僕、びっくりしちゃってさ! あー、名前聞いとけばよかったなー」

「きっとインハイ予選でまた会えますよ」

「そのへんは蓋を開けてのお楽しみか……けど、ただ一つ確かなのは」

「「なのは?」

「あいつらが見据えてんのは、四強(俺ら)だってことだ」


 言って、先輩は走っていた足を止める。コートへ通じる扉の前に着いたのだ。


「でなきゃ、八強以上しかいない大会二日目(今日ここ)にいた説明がつかねえ。まさか物見遊山じゃあるまいし、狙ってんだろ――大物喰い(ジャイアントキリング)

「「だったらどうする、ゴリさん?」」

「喰らい返してやるまでだ。今からそうするみてーにな!」


 猛々しく歯を見せながら、ばぁん、と勢いよく扉を開く先輩。

 ようやく現れた柏木大附属の主砲と機軸(大遅刻者)に、味方ばかりか敵からも鋭い視線が飛んでくる。

 ブロック大会県予選、第二日目、Cコート準々決勝――相手は南地区一位、福智ふくち学園武岡(たけおか)

 同じ南地区出身の私たちにとっては、小学生の頃から馴染みの相手。

 だからこそ、よく理解している。

 あの人たち(チーム)は、同地区の贔屓目を抜きにしても、準シードの中で最も手強い相手だと。


「よーし! 初っ端はクロちゃんズが相手だなー!」

「今日はどんな感じにいたしますかい、ゴリさんの旦那?」

「勝手知ったるヤツらだ。今更、軽侮(ナメ)警戒(ビビリ)もしねえ――」


 ばさっ、と先輩はジャージを脱ぎ捨てて、悠然とコート内へ歩み出る。


「美味しく楽しく喰ら()ったろうや!」


 ……えっと、ばっちり決めているところすみませんが、このジャージって私が拾わないといけない感じですかね……?

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