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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第十章 AT和田総合体育館(II)
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C-24(美波) 遣い手

「ほんっと極端なヤツだな……」

「……不本意ながら」


 互いに息を弾ませながら、最強エース最強エースはネット越しに言葉を交わす。


「数えちゃいねーが、決定本数はてめーのが上だろーよ」

「そうですね」


 傲然と肯定してみせる藤本いちい。だが、ある種の皮肉(マリチカにその気はないと思うけど)とも受け取れるその評価に、当然、彼女は顔を顰め、




 ぱあんッ!




 と殺人スパイクを放ってくる。


「――で、それが何か?」


 ちょっとマリチカ! あんまりこの子のこと煽らないでよ! ブロックするの私なんだからね!?

 手首をぷらぷらさせて骨が折れていないか確かめつつ恨めしい目を向けると、マリチカはいつになく真面目な顔で藤本を見つめていた。


「そのやり方じゃあ、取れても一セットだ」


 ぴくり、と柳眉を逆立て、マリチカを睨み返す藤本。


「新人戦の決勝のように?」

「手厳しいじゃねーか、オイ」


 そう返すマリチカの顔は、既に苦笑を浮かべた柔らかいものに戻っている。

 藤本のほうは、マリチカの言葉を反芻しているのか、難しい思案顔。

 そのあたりで、傍で聞いている私も、二人がなんの話をしているのか理解した。

 去年の新人戦の決勝――法栄大立華VS音成女子(私たち)

 あの試合で、確かにマリチカは誰よりも得点を挙げた。

 しかし、結果は法栄大立華の優勝――〝天頂ジーニス〟には届かなかった。


「たとえばの話だが、ここに最強の矛と最強の盾があったとするだろ」

「『県内』最強の矛と『全国』最強の盾ですね」

「細けーこたーいい。とにかくそういうモン同士がぶつかったとして、勝敗を決めるのは『つかい手』だと思わねーか?」

「それは監督か、キャプテン、あるいは司令塔セッターの差、ということですか?」


 セッターの差、という単語に思わずぎくりとする。いや、そりゃ宮野さんみたいなハイパーエリートに比べたら私なんて路傍の石なわけで……。


「いや、そういうことじゃねー」


 あっさり否定するマリチカ。私はほっと胸を撫で下ろす――が、すぐに首を捻った。

 あの決勝戦――最強の矛(マリチカ)最強の盾(ジーニス)の明暗を分けた、監督でもキャプテンでも司令塔セッターでもない『遣い手』とは、なんのことなのか……?


「ピンと来ねーってか? なら、地区大会で痛い目見るかもな」


 地区大会――奇しくも試合開始前に同じようなことを考えた私は、マリチカがほのめかしたものにすぐ思い至った。そして、それは藤本も同様だったらしい。一瞬驚きに目を見開き、やがて声を落として言う。


「もしかして……城上しろのぼり女子のことを言ってますか?」

「お? なんだ、知ってたのかよぃ」

「負けたそうですね」

「私の感覚では引き分けなんだが」

「……本当に負けたんですね」

「だから手厳しーっての」


 びりりっ、とにわかに藤本の殺気が膨れ上がる。試合が進む中でこの子の威圧感にも耐えられるようになったと思っていたけれど……思っていただけだったらしい。


「言っとくが、藤島透シマトォじゃねーよ」

「……でしょうね」

「あと、ミヨリーの妹でもねー」

「そうですか――なら、あの一つ結び(ポニーテール)のが、そうか」

「そーゆーこった。ま、詳しくはてめーで確かめな」


 マリチカも藤本も視線こそやらなかったが、恐らく、その時の二人の意識は観客席ギャラリーに向いていたはずだ。ジャージ姿の大会参加者で溢れる中で、制服姿の藤島や三園妹、それに両利き(ポニテ)の子はわりと目立つ。

 四強シードは地区予選免除なので、この大会で石館商業が優勝したりすれば、藤本たちが城上女子と対決することはなくなるだろう。

 けれど、そんなことは起こらない――起こさせない。


「そんじゃ、今日はここらでお開きにしとこーか……ねぃッ!」




 たあんっ!




 と、鋭いスパイクがコートに刺さる。ブロッカーにもレシーバーにも指一本触れさせない、パーフェクトな一撃。

 藤本は跳ねていくボールを見送り、結果を認めると、額の汗を拭い、こちらに背を向けて無言でエンドラインへ歩いていった。

 獲物を取り逃がした野生の肉食獣のように、潔く。

 きっと彼女のことだから、既に次の狩りのことを考えているのだろう。信じられないほどのドライさ……うちのマリチカにも少し分けてくれないかしら。

 なんてことを考えているうちに、両陣営が整列を終えた。


「「――ありがとうございました!!」」


 互いに礼をして、最後は握手。私は館商あちらのどこか陰のあるセッターと。隣では、やはりと言うべきか、マリチカと藤本の組み合わせ。


「まっ、あれだな。とりあえずマリチカが引退したら、てめーが『県内最強の右』で文句は出ねーだろ。そこから先は、あのやっほい娘とよろしくやってくれ」

「あの左とは――そうですね、気は進みませんが。ともあれ今日は勉強させていただきました」

「おう、こっちこそ楽しかったぜぃ! また遊ぼーな、モッチー!」

「はい、ありがとうございました………………ちッ」

「最後で全部台無しじゃねーか!?」


 ぺいっ、と勢いよく手を放して、からからと笑ってみせるマリチカ。一方の藤本は悟りでも開いたみたいに無表情で固定。色々と思うところはあるだろうに、舌打ち一つで済ませてしまうあたり、やはりクールな子なのだろう。


「あいちち……あんにゃろう、思いっきり力込めやがって」


 前言撤回。案外子供っぽいとこもあるのね、藤本いちい……。


「お疲れ様。エース対決は、なんだかんだで貫禄勝ちってとこかしら?」

「そーさねぃ。ま、ほんの指一本ぽっちだろーと勝ちは勝ちってな」


 ぴっ、と右手の人差し指を立ててみせるマリチカ。よく見ると、指先のテーピングが剥がれている。これは……きっとアレよね、第一セット終盤の崖っぷち(22―23)の場面――何かあるとは思ってたけど、やっぱりというか、あんたが藤本の陽炎フェイントに触れていたのね……。


「半年後にはどーなってっかわかんねーけどねぃ。まだまだわけぇーモンには負けねーよ」

「じゃあ、その調子で左のほう(天久保)もとっちめてくれると助かるわ」

「てやんでー、ヅカミー。その前に相手にしなきゃなんねーヤツらがいるだろ」

「あぁ、それね……私はできれば忘れていたかったんだけど――」


 ふぅ、と溜息をついてみる。次の試合、順当にいけば上がってくるだろう連中のことを考えると、気が滅入るわ。


「なーに、いざとなったらマリチカがなんとかしてやらー」


 マリチカはそう言って、べしべしっ、と私の背中を叩く。やはりうち最強エースは頼もしい――その安心感で、自然と背筋が伸びる。

 そうこうしているうちに、挨拶も済み、あとは撤収するだけ。

 あいつらが来て騒がしくなる前に、とっとと退散するとしましょうか。


 私は早足に扉へと向かい、今なお熱気の残るコートを後にする。


 ブロック大会県予選、第二日目。


 Cコート、準々決勝、音成女子VS石館商業。


 第一セット、28―26。

 第二セット、25―15。


 勝者――音成女子。

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