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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第十章 AT和田総合体育館(II)
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C-21(静) 最終局面

 由紀恵ゆきえかどわかされてやってきたCコートは、Aコートと打って変わって大波乱の展開になっていた。

 由紀恵と観客席ギャラリーの柵にサンドイッチされた状態で、私はばくばくする心臓を両手で押さえる。

 目まぐるしくて、目を見開かずにはいられない、ハイレベルな攻防。

 瑠璃るりくさびを打ち込み、藤本ふじもとさんが正面から抉じ開けて掴んだまたとないチャンス――22―23の場面。

 セットポイントを目前にして、私は館商がこのまま押し切るのではないかと思った。

 藤本さんにトスが上がったときには、ほぼ確信した。


 しかし、その数秒後に出た結果は、23―23。

 寸前で踏み留まったのは、四強の底力か。


「これから、どうなるんだろう……」


 それは純粋な独り言だったが、律儀にも反応してくれる人がいた。


「ウチには音成のほうがまだ余力を残しとるように見えます。けど、このセットに限ればまだわかりませんね」


 明正めいじょう学園のさかえ夕里ゆうりさんは、真剣な顔でそう分析する。その様子はさながら県外から偵察に来た強豪校のレギュラー。一年生ながら歴戦の風格を纏うしっかり者だ。


「余力ねえ……言うほどあるかしら。かなり際どい気がするけど」


 そう続けたのは、私がついつい由紀恵をお任せしたほど保護者力の高いしっかり者である、瀬戸せと希和きいなさん。


「スコア的には、確かに崖っぷちやな。けど、第一に、音成はまだ――」

「タイムアウトを一つ残してる、でしょ?」


 一つ、と言いながらVサインしてみせたのは、実花みかだ。彼女もまた、先日の合宿で万能薬のように活躍してくれたしっかり者である。


「なるほど。際どい勝負だからこそ、任意のタイミングでタイムを取れるのは大きいですね」


 合いの手を入れたのは、お姉さん譲りの落ち着きと安定感を誇る、同じくしっかり者のひかり。

 なんというか……さすがAコート(本陣)を離れて斥候に出た子たちだ。誰に言われるまでもなくちゃんと偵察してる。由紀恵が私のところに来た理由もこれでわかった。要するに、みんなが試合に集中して、構ってもらえなくなったのだ。


「第一、ってことは、第二もあるの?」


 カメラを回しながら尋ねるのは、とおる。彼女については、しっかり者かどうかはさておき、そもそも由紀恵どころではなかったのだろう。なぜなら、今コートで試合をしているのが他ならぬ藤本ふじもとさんだから。地区大会のときには途中で場を離れるなんてこともあった。


「第二の理由は、さっきもちらっと触れたけど、ローテのことやな」


 状況分析は私が特に口を挟むまでもなく進んでいく。一応、話の端緒は私なんだけど……真面目な空気にむずがる由紀恵が脇腹をくすぐってくるし、ここは大人しく聞き役に回ろう。


「フロントオーダー云々ってやつ?」(瀬戸さん)

「そっちやなくて、エースの前衛フロント復帰のことやな」(栄さん)

「あっ、そっか……マリチカさんのほうが先に前衛フロントに上がっちゃうから」(透)

「ちなみに、ここまで毎回、音成はそこで連続得点してるね!」(実花)

「つまり、仮にここから膠着状態シーソーゲームになったとすれば、有利なのは音成女子だと」(ひかり)

「三ターンキルかぁ。石館商業はかなりのプレッシャーよね。――ちなみに、第三もあるの?」(瀬戸さん)

「第三は、ずばり層の厚さやな。音成のアップゾーン見たらわかるけど、スタメンより背の高いメンバーが何人か控えとる。そうやない石館商業よりは、いざってときの切り札は多いやろ」(栄さん)

「これは、鈴木さんの投入もありえるかもしれませんね」(ひかり)

「そうだね。アンなら、ピンチブロッカーでもピンチサーバーでもいけるし」(透)

鈴木すずきアンさん――って、例の県選抜の一年生だっけ。そっか……そんだけの安心材料があるなら、音成にはだいぶ余裕が……」(瀬戸さん)

「はてさて、ときーな。それはどうかなー?」(実花)

「ん……?」(瀬戸さん)


 悪戯っぽく笑う実花に促され、コートに視線を戻す瀬戸さん。その表情が怪訝そうなものに変わる。


「……むしろ音成側がめっちゃピリピリしてる?」(瀬戸さん)

「そらまあ、希和のいう余裕が出てくるんは『ここからデュースになった場合』やからな」(栄さん)

「デュース?」

「今、前衛フロントにまりちか先輩はいない。でも、いーちー先輩はいる」(実花)

「あっ、そっか! しかもレセプションからだから――」(瀬戸さん)

「順当にいけば、石館商業がセットポイントに持ち込むやろな。ほんでローテが一つ回って、藤本さんが後衛バックに下がる。すると――」(栄さん)

「っ……あの殺人ジャンプサーブが来る!?」(瀬戸さん)

「音成女子が凌げなければ、セット終了。そして二セット目になれば、サーブの先攻後攻が入れ替わるわけですから」(ひかり)

「エースの前衛フロント復帰の先後さきあとも入れ替わる――! 今度は石館商業が有利になるわけね!?」(瀬戸さん)

「立場逆転、だね!」(実花)

「一セット目を制した勢いも含めて、連取の可能性は十分や。それに見たとこ、藤本さんは体力温存するつもりもない。全力で決めにかかるやろ」(栄さん)

窮地ピンチじゃないの、四強……! いや、でもまだ、ここでセットポイントに持ち込まれないよう粘れば――」(瀬戸さん)

「粘らせると思うか? あの人が?」(栄さん)

「させない、でしょうね」(ひかり)

「……うん。決める、よ」(透)


 重々しくそう言って、ごくりと喉を鳴らす透。そして、


「いちいさん、だもん」


 震える声で簡潔な理由を述べると、透はきゅっと口を引き結んだ。その真剣な雰囲気が伝わって、他の一年生たちも口を噤む。さらには由紀恵も私にちょっかいを出すのをやめた。

 私は試合の行く末を見守る。

 息が詰まるほどの緊張感の中、ぴぃ――と、笛が鳴り響く。

 サーブは、マリチカさんだ。ばしっ、と放たれたボールは尾崎おざきさんのところへ。伸びやかで球威のあるサーブ。それを、尾崎さんは負けじと力強く受けた。レシーブしたボールは〝半径(Single)四呎(Step)〟――やなぎさんの安定制御領域にしっかりと収まる。直後、動き出したのは瑠璃。このチャンスを逃してなるものか、と弾むように速攻に入る。柳さんのセットアップ。気持ちのこもった綺麗なトスが上がる。


 その行く先は、(瑠璃以外の)誰もが思い描いた通り――エースの藤本さん。


「「決めろ、いちい君ッ!!」」


 小学生たいよう時代から馴染みのチームメンバー(尾崎さんと柳さん)が、揃って声を上げる。

 藤本さんは無言で、ただ結果だけで、それに応えた。




 ――だがんっ!




 強烈な打音を響かせ、ボールは三枚ブロックを押し破り、コートに突き刺さる。


「やるな~、もーちゃん」


 弾かれた右手を閉じたり開いたりしながら、そう、柴田さん。


「……あなたもですか」


 藤本さんは不愉快そうに顔を顰め、不本意な呼称をする相手せんぱいを傲然と見下ろす。


めろ、と言ったら?」

めさせてみろ〜、と返す~」

「本当に、どいつもこいつも……」


 ちっ、と導火線に火が点くような不穏な(舌打ち)を響かせて、藤本さんはネットに背を向け、そして、


「――終わらせる」


 この世界を、という目的語が省略されていそうな気迫を込め、呟く。

 玉座に上がる魔王のように、ゆっくりと、サービスゾーンに歩を進める。


 スコア、23―24。

 ここが第一セットの最終局面。


 あと一点でセットが獲れる石館商業。

 デュースに持ち込めば優位に立てる音成女子。

 両者の気迫がぶつかり合い、コート内の緊張が最高潮に達した――その瞬間だった。




「タイムアウトよ」




 突けば破裂しそうな空気に割って入ったのは、妙齢の女性。

 四強・音成女子の監督は、ここしかないというタイミングで動いた。

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