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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第十章 AT和田総合体育館(II)
363/374

C-19(美波) 烈火

 何が起こった……!?


 その事実を受け入れるのに、私はたっぷり五秒くらい固まっていたと思う。

 五人体制の堅実なレセプションからの、機動性の高いコンビ攻撃――うちの最も得意とする形で、しかもフィニッシュは天性の点取り屋(スコアラー)である芽衣サマメィ

 これで決まらなかったことなどない、くらいの音成うちの勝ちパターンだった。


 それが、蓋を開けてみれば、完膚なき封殺(シャットアウト)


 止めたのは、石館商業の猫っぽいミドルブロッカー、二年生の宝円寺ほうえんじ瑠璃るり

 どうにも動きの読めない子だから、注意は払っていたつもりだったけれど……動きが読めなくて何をしてくるかわからない子――そう、危険度を引き上げなくてはならないだろう。


「まさか一対一で芽衣サマメィを抑えるとは……」

「あら? 私、もしかして今、止められて?」

「自覚なし!? ちょっと、大丈夫なの、芽衣サマメィ!」

「さあ、どうかしらねぇ?」


 ふふっ、とどこか愉しげな芽衣サマメィ。彼女の特徴はその極端ピーキーさにあるわけだけれど、それは強さと同時に危なっかしさも孕んでいる。ここはセッターの腕が試されるところだろう。

 不気味に笑う宝円寺さんの存在は気にかかるが、今みたいなプレーが何度もできるとは思えない。石館商業はリベロ不在で、二枚攻撃。対してこちらはレセプションからの三枚攻撃。どう考えても有利なのは音成うちだ。それに――、


 こっちの前衛フロントには、マリチカがいる。

 マリチカに任せれば、状況は良くなっても、悪くなるということはない。


 予想外の事態に私があまり取り乱さずに済んだのは、そんな、エースへの信頼。


 ――だと、その時は思っていた。


「マリチカっ!」

「おーよッ!」


 相手のサーブから、レセプションは安定の和美かずみ。期待通りにぴたりと返ってきたボールを、私は流れるようにライトへと送る。

 私が私の思考停止ミスに気づいたのは、ボールが私の手から離れた、まさにその瞬間だった。


「――そら行くぜぃ、モッチー!」


 和太鼓の縁を叩くようなマリチカの軽快な声に、私はハッと振り返る。

 目に飛び込んできたのは、私の、それなりに正確で、なんの工夫もないライトセミ。

 囮を絡めるとか、テンポや軌道を調整するとか、アタッカーに楽をさせるための配慮が何一つなされていない。

 それはスパイク練習のトスのように打ちやすいトスではあるけれども、

 相手ブロッカーにとっても、タイミングが取りやすいトスということ。


「……その――」


 こちらのライト攻撃に、正面で待ち構えるのは相手のレフトブロッカー――その鬼気迫る立ち姿を見て、私は激しく後悔する。


「ふざけた呼び方を……っ」


 私は何をやっているんだ――! なんで、よりにもよって彼女がいるところに、おあつらえ向きのボールなんて送った……!?

 試合が始まる前、私はこう思ったはずだろう――。

 マリチカは確かに強い。異論の余地なく、この県で最強のアタッカー。

 しかし、現在いまの県内のレフトにはただ一人、そんなマリチカと同じ舞台ステージで勝負できる存在がいると――。


「――改めろッ!!」




 ばあんっ!!




 花火が弾けるような打音が響き渡る。

 ボールは、果たして――高々と舞い上がっていた。


「ワンタッチ……ッ!!」


 努めて冷淡に、感情を押し殺すようにプレーしてきた彼女が、ここへ来て気迫を剥き出しにする。巨大な火柱が上がったように、プレッシャーが私の肌を焦がした。

 マリチカに匹敵しうる二年最強のレフト――藤本いちい。

 変幻自在の〝千紫(Kaleido)万紅(Scope)〟と称される彼女の最大の特徴は、その技量の高さだけれども。

 それは喩えるなら、揺らめく陽炎。

 捉えきれない夢幻の本質は――周囲一帯を焦土と成すほどの、烈火。


「佐々木っ、拾え――!!」

「むう……ッ!!」


 火を吐くように声を荒げる藤本。ワンタッチボールはかなり後方まで膨らんでいたが、バックセンターの子は懸命に足を動かし、どうにか食らいつく。堅実に返ってくるボール。それはコンビを組めるほどのナイスカットではない。だが、石館商業あちらにとっては十分に好球チャンス。その特色コンセプトはレフト偏重――二段トスだろうとなんだろうと、藤本エースにさえ繋げるなら、何も問題はない。


「サマっさん、あーり、マリチカっさん! ブロック頼んますっ!!」

「善処するわ」「できる限り……!」「合点でーっ!」


 あちらのレシーブが上がったのを見て、リベロのさやかが対藤本シフトを敷く。三枚の壁でコースを限定し、空いたコースに自分自身が詰めて、万全の体制で待ち受ける。


「来いよ、もっさん……っ!!」


 両腕をだらりと下げ、標的に狙いを定めるさやか。あちらではセッターが迷いなくレフトへ二段トスを送る。そして藤本が動き出し――。


「浦賀、さやか……っ!」


 大きな円を描くように、外から内へ、ネットに対し鋭角に切り込み、跳び上がる。


「――お前もだッ!!」




 だあん……っ!!




 鼓膜を破るほどの衝撃。

 そのスパイクは、私の目では追えなかった。

 ただ、コートに這いつくばるさやかの悔しげな表情で、結果だけはわかった。


「ここでフルパワーとかな……っ!」


 スコア、22―23。

 恐れていた展開――この土壇場で、ひっくり返された……!?


「あぁ……苛々する――」


 いからせた肩を上下させながら、殺気の籠もった目でこちらを睥睨し、藤本いちいは宣告する。


「……全員、潰す……」


 まさかの見境なし!? そこはマリチカとさやかだけで勘弁してほしかった!!

『A-19』も更新されています。↓

https://book1.adouzi.eu.org/n5390ct/343/

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