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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第十章 AT和田総合体育館(II)
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C-17(さやか) そんだけの準備

 もっさんが拾われた直後のラリー。石館商業の表情の見えないセッターは、ブロックを散らす意図もあったのか、一度ライトへトスを送った。あたしはちっとばかし残念に思いつつ、対もっさんを想定した位置ポジションから、対ライトアタッカーの位置ポジションへとサイドステップしていく。


「マリチカっさん!」

「わぁーってるよぃ!」


 気風よく応えて、マリチカっさんは軽やかにブロックに跳んだ。左側ストレートコースが空いているのは、もちろんあたしのためだ。呼び掛けただけで通じんのはマジありがたい。そんでこっからは、あたしの領分シゴト。跳び上がるアタッカーを見据えながら勘を研ぎ澄ませる。

 ライトアタッカーの三年生――確か尾崎おざき玲子れいこさんっつったっけ――は、コーナー狙いが得意なアタッカー。ただしライトから打つのはやや苦手らしい。ブロックを避けた先にあたしがいるのはあっちもわかってっだろーし、半端なスパイクじゃ抜けねーって思うはず。ならば、あっちの取る選択肢は自ずと限られて――、


「……叩き付け(フロント)!」


 たっ、


 と、あたしは体勢を低くして床を蹴り出す、そして、


 ――ばんっ!


 と力任せに叩かれたボールが眼前に。そっからはもう、反射の世界。


「っとぁーー……! すんません、ちけっす!」


 読みは正解ドンピシャ――が、どーもボールコントロールがあめぇー。これを完璧に仕上げられる人間がいっことを知ってるだけに、あたしの声は微妙に焦ってるっぽく響いた。だからなのか、マリチカっさんは「へでもねーよ!」と、ことさらに明るく応えてカバーに入る。


「むしろ丁度いいくれーってな!」


 言いながら、ツーアタックのモーションに入るマリチカっさん。相手のライトとセンターはにわかに警戒を強めるが、あたしにはわかる。ありゃ釣りだ。マリチカっさんは空中でニヤリと歯を見せた。


「なんつって――そーら、持ってけどろぼー!」


 ひゅ、


 と、ブロッカーを自分に引きつけておいて、マリチカっさんはライトへ平行トスを送る。急なサイドチェンジに、マリチカっさんのマークをしていた二人は当然ついていけない。残るブロッカーはレフトのもっさんだけ。もちろんもっさんは油断できねー相手だが……たぶん、今のあの人はそういうのお構いなしに決めちまうんじゃねーかな。


「――少し短いのだけれど?」


 サマっさんはそうぼやきながら、


 ぱぁんッ!


 と、あっさり点を奪ってみせた。トスが短かった(センター寄りだった)ことを逆手に取って、もっさんの左側ストレートをぶち抜いたのだ。素直にクロスに打つんじゃブロックとレシーブをかわせねーって判断だろうけど……ありゃ真似できる気がしねーわ。


「ともあれ、二点目ね」


 ふぁさっ、とセミロングの巻き髪を掻き上げて首筋に風を通すサマっさん。対面のもっさんは「ちッ!」と、それ舌切れちまわね? ってくらいの舌打ち。そんだけ音成ウチの『マリア様』がきちーってことだ。このまま波に乗らせちゃまじーってことにも気づいてんだろう。たまらず館商あっちのベンチも動いてきた。


 ぴぃぃ、と笛が鳴って、石館商業、第一セット最後のタイムアウト。


 あたしたちも監督の下に集合し、指示を仰ぐ。その内容を要約すると、このまま押し切れ、とのこと。んで、このまま押し切るには何をどうすりゃいいのかってーと――。


藤本ふじもといちいに決して楽をさせないように。いいわね、浦賀うらが?」

「うっす」


 バックレフト(対もっさんシフト)に入った以上、そこだけは揺らがしちゃいけねー。わーってますよ、監督。


「よろしい。では、私からは以上」

「「ありがとうございました!」」


 ってなわけで監督の話は終了。と、心配顔のあーりが飲み物を持ってあたしんとこにやってくる。


「大丈夫、さーや?」

「逆に大丈夫じゃねーように見えっけ?」


 あたしは手のひらを広げてからからと笑ってみせる。あーりは困ったように、はう、と返答に詰まり、それからもごもごと言い訳のように言う。


「いや、だって、相手が藤本さんだしさ……」

「そりゃあ、もっさんの相手なんてフツーに考えたら大丈夫じゃねーわな」

「えっ!? それって、マズいんじゃないの?」

「かもしんねー。けど、あたしはもっさんがそんくらいヤベー相手だってことを知ってる」

「じゃあ、どうして――」

「相手の強さを知ってること……あたし(リベロ)にとっちゃ、それがそのまま優位性アドバンテージになんだよ」


 きょとん、とあーりは化かされたみたいに目を丸くした。その顔が可笑しくて、あたしは更に混乱させるようなことを言う。


「よーするに、大丈夫じゃねーから大丈夫ってこと」

「そ、そうなんだ……?」

「あーりのほうこそ、集中切らさねーように気をつけろな?」

「う、うん。もちろん」


 そのあたりで、タイムアウトが終わる。あーりが手のひらを見せたので、ぽすっ、とあたしはそこにグーを打ち込んだ。


「頑張って、さーや!」

「お、行ってくらー」


 ひらひらと手を振って、コートへ。

 サイドラインをまたぐ瞬間、大きく息を吸い込んで、和んだ気持ちをきりりと締め直す。

 ここが大事な、タイムアウト開け。

 現在のスコアは、21―19。

 あと一点取ればダメ押し――逆に言やー、粘られっとかなり厄介。


「っさぁー一本イチぃー!」


 ヅカっさんに声援を送りつつ、あたしはもっさんに視線を送る。したら穴が開くほど睨まれた。

 おーおー、もっさん、んな見つめるほどあたしとの勝負バトルは楽しーけ?

 なら光栄――なんけど、それな、試合ゲーム的には落とし穴(ドツボ)なんだわ。


 ぱしんっ!


 と、ヅカっさんのサーブが放たれる。糸を引くようにすうっと伸びて、急にふらふら揺れ始める。あたしも練習でさんざん苦労してるそれを、もっさんがオーバーハンドでカットする。


「柳ッ!」


 気迫を声に乗せて、セッターの名前を呼ぶもっさん。

 そのダイナミックな踏み込みを凝視みつめながら、あたしはちろりと唇を舐める。

 獲物ターゲット二年タメで最強のレフト・ウイングスパイカー。

 全国の舞台で同じコートに立ったんだ。もっさんが強いことをあたしはよく知ってる。

 よく知ってっから、前方ブロックをバメっさんとマリチカっさんに頼り、後方ワンタッチボールをシバっさんに任せる。事後フォローはヅカっさんに丸投げして、最後フィニッシュにはサマっさんあたりがいい感じに決めてくれっしょと気楽に考えとく。

 そんだけの準備をして、あたしはこの試合ゲームに臨んでる。

 で……そこんとこ、もっさんはどーよ?

 もし、もっさんがあたしと一対一サシでバトってるつもりなら。

 あくまであたしと白黒つけっぞって意地を張んなら。

 悪いがそんときゃ――なんもかも丸呑みにしちまうぜ?


「どーとでも打ってきな……っ!」


 もっさんに狙いを定め、あたしが腰を落とした、瞬間、


 ひゅ、


 と、軽いタッチの短いトスが上がった。

 送り先はもっさんではない――センターの速攻クイック

 意外な采配だが、前二人マリアの反応は速かった。


「しゃらくせー!」

「抜かせないわよ!」


 マリチカっさんとバメっさんが同時に跳ぶ。あたしも対もっさんシフトを解いて空いているコースに入る。当然抜かす気はさらさらねーが――さて、どう来る?


「はあッ……!!」


 ばしんっ!


 と、渾身の強打。これがブロックに当たって後方へ膨らんだ。直後にあたしは半身に開いて、そちらへと一歩目を踏み出む。こんぐれーならギリ間に合う――はずだった。


「へっ?」

「わ~?」


 ぱちりっ、


 と目が合って、反射的に身体の動きが止まる。あっ、と思ったときには遅かった。ボールは勢いよくバウンドし、壁のほうへと転がっていく。


「ちゃ~、ごめんね~、さーちゃん」


 あたしと見合っちまったシバっさんは、ぱふっと両手を合わせて、済まなそうに眉を下げた。あたしは、こっちこそすんません、と手刀を切る。


「いつもより声掛け意識してきましょ。次があっかもわかんねーっすし」


 言いながら、あたしは石館商業のセンターに目を向ける。どことなくサイボーグじみたやつ――佐々木(ささき)郁恵(いくえ)っつったか――は腕をかっちり直角に曲げてガッツポーズを取っていた。この差し迫った場面で決めてきたっつーのはデカいよな。館商のセンターはどっちも二年タメのはずだが……対角の猫みてーなのは、あーりがやりにくそうにしてたし、もっと注意を向けとくべきか――?


「これこれ~、さーちゃん、よそ見はいかんよ~」

「んあ? なんすかシバっさ――ぐえっ」


 背後から足音もなく近づいてきたシバっさんは、両手であたしの顔を掴んで強制的にぐりっと右へ捻ってきた。

 ちょ、あの、シバっさん? もう九十度くらい回されっとあたし死ぬっぽいんすけど? ってかなんすかこれ?


「他の子はわたしがなんとかするから~、さーちゃんはあっちに集中~」

「………………っす」

「ふふっ、よろし~」


 ぱっ、とあたしの頭を解放し、軽い足取りでレセプションの位置へ戻っていくシバっさん。あたしは首の後ろへ手を回し、少し俯いて苦笑する。


 っとに――盛り上がってくっとつい勝負バトりたくなるあたり、結局、あたしももっさんと同類なわけだ。


「……まだまだだわな」


 顔を上げる。もっさんと視線がぶつかる。互いに唇の動きだけで言い合った。


『叩き潰す』

『やらせっかよ』


 スコア、21―20。


 先のことはわかんねーけど、あたしの獲物は最後まで固定だかんな。

 退屈な試合ゲームにはしねーから、楽しみにしとけよ、もっさん!

『A-17』も更新されています。↓

https://book1.adouzi.eu.org/n5390ct/341/

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