32(胡桃) 監督
城上女VS成女。
スコア、10―10。
愛梨がサーブを放つ。どういうわけかやや精彩に欠けたレシーブで、透が少し乱れたカットを上げる。
とは言え、レシーブがきっちり返ったところで、今の前衛(万智、梨衣菜、実花)でできる攻撃は限られるのだが。
トスは誰もが予想した通り、万智へ。美波、アンドロメダ、和美による三枚ブロックが待ち構えている。しかし、万智は臆することなく、その壁のど真ん中にボールを打ち込んだ。
どがっ、という重い音が鳴って、ボールはアンドロメダの指を弾き跳ばし、相手コートの外へ。
「……っ! ワ、ワンタッチ!」
アンドロメダが指を押さえながら呼び掛ける。リベロのさやかなら、あるいは届くかもしれないボール。しかし、愛梨はあと一歩届かなかった。
「よぉし!」
両手でガッツポーズをする万智。可愛い。11―10。
ローテが周り、こちらのサーブは梨衣菜。音々がコートに戻り、入れ替わりにひかりがベンチへ。
「い、行きまス!!」
見よう見まね、といったぎこちない梨衣菜のフローターサーブは、手にミートせず、ボールはネットに掛かり敢えなく失敗する。
「なあーっ!? す、すいませんっス!!」
「気にするな、梨衣菜!」
つばめの言う通り。これは致し方ない。11―11だ。
成女のサーブは、裏エースの和美。前衛に表エースのマリチカが上がってくる。こちらは、つばめとひかりが入れ替わる。
ばしっ、とサーブが飛んでくる。音々がカットを乱す。ひかりが二段トスで、ライトにいる万智へ。
強打はシャットされる、と判断したのか、万智はブロックを避けて、山なりの軌道で目一杯クロスに打つ。ドライブ回転を伴って、コートの角に飛んでいくボール。それを、さやかがフライングレシーブで綺麗にセッターに返す。
相手の攻撃。アタッカーはアンドロメダとマリチカの二枚。美波は速い平行トスをマリチカに上げ、マリチカはそれを決めた。床を突き破りそうな鋭いスパイク。背の低い万智の分までアンドロメダをマークしていた音々が、レフトのブロックに遅れた隙間を、ものの見事に抜かれた。
こういうとき、最初のローテでいかに透が相手にプレッシャーを与えていたかがわかる。
11―12。
再び、和美のサーブ。今度は透がカットに失敗する。万智がレフトの音々へ二段トス。音々はそれをしっかりミートして打つが、コースはバックレフトの和美のほぼ正面。難なく拾われ、またしても相手のチャンスボール。
相手の攻撃は、アンドロメダとマリチカのAクイック―レフト平行。美波はアンドロメダを選んだ。アンドロメダは万智のブロックの上から、だんっ、とクロスにきっちりスパイクを決める。
アンドロメダと万智の身長差では、仕方がないことだ。
11―13。
わたしは副審にタイムアウトを要求した。長めの笛が鳴る。コートにいたメンバーがベンチに返ってきて、ドリンクの入った籠を持っているわたしの周りに集まる。
「みんな、お疲れ様」
わたしは籠を差し出し、ドリンクを取っていく銘々の表情を見ながら、言うべきことを整理する。まずは、
「サーブカット、しっかりね。特に、透、あなたは何か余計なこと考えてない?」
「は、はい……すいません」
縮こまる透。その背中を、ひかりが軽く叩く。
「藤島さん、大丈夫です。藤島さんなら、よく見れば拾えるはずです」
「あ、あぅ、ありがと……三園さん」
心なしか、透の顔色がよくなった。よし、次は、
「音々は、少し前にポジションを移して、オーバーハンドで取ったほうがいいかも。アンダーハンド、苦手そうだから」
「そう……ですね。わかりました」
「音々が取りにくそうなボールは、ひかり、お願い」
「お任せください」
「じ、自分は!?」
「梨衣菜はとにかく上に上げれば大丈夫。取るなら取る、譲るなら譲るで、しっかり声出してね」
「わかりましたっス!」
守りについてはこれくらい。あとは、
「で、苦戦しているブロックだけれど」
「そうなんですよぉ、アンドロメダちゃんがもう高くって」
「わかってる。だから、ブロックは諦めよう」
「ふええぇ、いいんですかぁ?」
「万智とアンドロメダのミスマッチだけでも厳しいのに、さらに三枚ブロックでも余裕で決めてくるマリチカがレフトにいる。まともにコンビを使われたらおしまい。
だから、ブロックでどうにかするのは諦めて、攻撃で相手を崩すことを考えよう。サーブカットから一発で決めれば、ブロックをせずともサイドアウトが取れる」
わたしは前衛の万智、音々、実花に視線を送る。最初に反応したのは実花だ。
「まっちー先輩、今の守備位置からだと、打つならセンターのほうがいいですか?」
「あっ、うん。そうだねぇ。ライトよりセンターのほうが打ちやすいから、そのほうがいいかなぁ。速攻は苦手だから、セミしか打てないけどぉ」
「じゃあ、万智はそれで。決められるなら、決めちゃって。ダメなら美波の前にフェイントを落とすのが無難。それなら速攻はない」
「わかりましたぁ」
「あとは、ねねちんだけど。ねねちんはどうしたい?」
「あたしは……」
音々はそう言い差して、ちらっ、と透を見た。
「……が、いい」
「えっ? なんて?」
「あたしはっ」
ぴぃー、と笛が鳴った。タイムアウトは終わりだ。わたしはドリンクを回収して、みんなを送り出す。
「なにはともあれ、サーブカット、一本集中」
「「「はい!」」」
みんながコートに返っていく。途中、音々が実花に何か言っていた。大丈夫、だろうか……?
わたしはドリンク籠を置いて、ふっ、と溜息をつく。大分駆け足になってしまった。反省反省。
「やってるわね、胡桃監督」
「まあね」
揶揄うように笑いかけてきたつばめに、わたしは苦笑を返す。
今の城上女の顧問は、バレーは素人。実戦では、ベンチにいる他の誰かが実質の監督役をする必要がある。
この練習試合は、わたしにとっても、色々と試すいい機会なのだ。有効に使わせてもらう。
審判の笛が鳴り、プレーが再開する。
わたしは記録用ノートを開いて、コートの中を見つめた。




