C-15(希和) 雹嵐《Hail May》
ブロック大会県予選、第二日目、Cコート準々決勝。
音成女子と石館商業の試合は、18―19と石館商業が1点リードしたところで、音成女子のタイムアウトとなった。
中盤から続いていた激しい攻防に、小休止が挟まれた形だ。おかげで、こちらもようやく一息つくことができる。ふぅ、と私はぐったりと手すりに寄りかかり、プレー中の緊張感を切らさずぴりぴりしている両陣営をなんとはなしに眺める。
と、ある人物が目に留まった。
「へえ……音成女子の監督って女の人なのね。しかもかなり若そう」
意外といえば意外だが、遣り手の女王蜂って感じで音成のイメージには合ってるかも、なんてしげしげ見つめていると、夕里が含むような笑みを浮かべて近づいてきた。
「見た感じ、山野辺先生のちょっと上くらいやろな。あれか、やっぱ希和は年上がタイプなん?」
「なんの話よ!?」
確かに年上に憧れはあるけれども!
「ほうほう! つまり希和ちゃんは、この中だと私が一番タイプってことに?」
「由紀恵さん……えっと、ごめんなさい、なりません」
「わりと真剣にお断りされた!?」
いや、由紀恵さんも素敵な人だと思いますよ? ただ私が年上に求めている要素を持ち合わせていないってだけで。
「ちぇー、希和ちゃんには袖にされちゃったかー。ってことで、夕里ちゃんはどうなの?」
「えっ、ウチですか?」
「そうそう、夕里ちゃんのタイプ!」
「タタタ、タイプってそんな――! その、クールぶってるけど中身は熱いっちゅーか、不器用だったりおせっかいだったりするけど、なんだかんだウチのこと大切に思ってくれてるみたいな……」
「なにそれ? 森脇世奈のこと?」
「希和……キミわかっててとぼけとるん?」
「えー、つまり、夕里ちゃんのタイプって私とは――」
「あっ、全然ちゃいますね」
「また玉砕した!? くっ、ならば透くん! きみはどうだね!」
「わ、私ですか……? わ、私の好きなひ――タイプは、その、私より背の低い人、です」
「国民の八、九割が該当するやろそれ!」
「でもでも! だったら私も透くんのタイプってこ」
「ごめんなさいっ!」
「食い気味でフラれたー!?」
「というか由紀恵さん、人の好みよりご自身の好みはどうなんですか? 誰でもいいわけではないんですよね?」
「あー、うん、そうだね。私は、私が『楽しい!』ってときに、一緒に『楽しいね!』って笑ってくれる人がいいかなー」
「想定外にいい感じの答え言うのやめてくれません!?」
「私のことは置いといてさ! ってわけで、ひかりちゃんはどう?」
「私ですか? そうですね――やはり、落ち着きのある人でしょうか」
「おっ、おっ、おっ、おちおっ……!!」
「うん、ちょっと落ち着こうな、透」
「ちなみにひかりん、身長なんかはどうなの?」
「こだわりはありませんが、上か下か選ぶなら、順当に私より背が高い人でしょうね」
「夕里! 私って身長高いかな!?」
「国民の八、九割より高いと思うで」
「えー、ダメ元で訊くけど、ひかりちゃんのタイプに私は当て嵌ま――」
「油町先輩の更なるご活躍をお祈りしております」
「なにその不採用通知みたいな言い方!? 心に変なダメージ入るよ!?」
「これで四連敗ですね、由紀恵さん」
「傷口抉ってくるね、希和ちゃん……。でも大丈夫! 私にはこの子がいるからっ! ねえ、実花ちゃん!」
「はいはいっ!」
「ずばり、実花ちゃんのタイプは!」
「はいっ! 物静かで大人な人ですっ!」
「「…………意外ッ!!」」
「声を揃えて!?」
「あれ? というか、それもしかして私とは――」
「きっと素敵な出会いがありますよ、ゆきりん先輩!」
「笑顔で慰められたー!? うわーん! ちょっと静のとこ行ってくる!!」
「えっ、ちょ、由紀恵さん!? 由紀恵さーん!?」
行ってしまわれた……。
「ヴァイタリティに満ち満ちた人やな、由紀恵さん」
「じっとしてられない人ってことね……」
「きっとしばらくしたら戻ってくるでしょうから、偵察を続けましょう」
コートでは、ちょうどタイムアウトが終わり、試合が再開するところだった。サーブは石館商業のキャプテン。勢いよく打ち込むも、五人でレセプションをする音成女子に隙は見られない。ほどよくカットが上がり、セッターは例のエースへトスを持っていた。石館商業も気合の三枚ブロックで対抗する。しかし、
「あらよっといッ!!」
――ばんっ!
試合の流れから相手の思惑まで、全てを断ち切るようなスパイクが決まる。
ってか、なんで三枚ブロックつかれてコートのど真ん中に決められるわけ……?
「……また、追いつかれちゃったね」
石館商業目線でそう呟くのは、カメラ係の透。長い物に巻かれる私は、タイムアウトが功を奏したのね、と音成女子目線でコメントする。
スコアは、19―19。どちらの立場から見ても同点。先に二十点台に乗せたほうが優位に立つであろうことは想像に難くない。
一撃で決められるエースが二人とも前衛にいる現状、有利なのはレセプションをする石館商業だろうか。
しかし、音成女子のほうも、今が最も強い布陣だ。前衛三人の名前から取って曰く――マリア様ローテ。
「得意のS1ローテ、本日三回目やな。音成がタイム中もあまり焦っとらんかったんは、これが理由か」
「攻撃の機会が巡ってくれば、一発で決めてくると思うよ」
「エースの鞠川先輩に、キャプテンの相原先輩。そこにナンバーツーの佐間田先輩を加えた三枚攻撃ですからね」
「えっ……ナンバーツー? あの巻き髪のお姉さん、そんな危険人物だったの?」
てっきり音成の二番手はキャプテンさんかと思ってたわ。覇気すごいし。
「覇気は数値化できないのでなんとも言えませんが、シンプルに決定本数で順位付けをすると、鞠川先輩に次ぐ点取り屋は佐間田先輩になるそうです」
「なんやひかりん、やけに詳しいな?」
「なんたって、くるみー先輩情報だもんね」
「ええ、宇奈月さんの言う通り、情報源は立沢先輩ですよ」
胡桃さん……ナチュラルに他チームの統計とか取ってるんだ。初対面で志帆さんの正体を見破ってきたことといい、本当に調査が徹底しているな。
「立沢先輩は佐間田先輩と同じ地区の出身なので、そのプレースタイルもよくご存じだそうです。なんでも、走り出したら止まらないタイプなのだとか。『ヒョウのような女』と先輩は仰っていましたね」
「ヒョウ――女豹ってこと? それやとマリチカさんのほうがイメージ近い気もするな」
「見るからに肉食系だしね、あのエースの人」
「あ、いえ、誤解させてしまってすみません。ヒョウ、と言うのは動物のほうではなく、空模様のほうです。三年前の中央地区で猛威を振るったという大田一中の佐間田姉妹、そのお姉様は曰く――〝雹嵐〟」
『雹のような女』……猛獣ならぬ自然災害レベルかぁ。見た目は麗しのお嬢様系でわりとタイプだったんだけど、それ聞いちゃうと、もう好感より悪寒が先立っちゃうわよね……。
「珠衣さんの、お姉さん……か」
固唾を飲んでコートを見守る透。試合はいよいよ山場を迎えようとしていた。
『A-15』も更新されています。↓
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