C-14(つばめ) 必要性
小学生のときも、中学生のときも、そして高校生の今も。
私は望んで、また望まれて、キャプテンになった。
性格的に向いているのだろうと思う。周りからそう言われたこともある。チームのまとめ役という立場にやりがいを感じるし、他チームや外部の人と関わるのも世界が広がるようで面白い。
四強・音成女子の主将になってからは、特に充実した日々を送っている。
しかし、いつもいつも良いことばかり、といわけにはいかない。
時々だが、「なんだかなぁ」と思ってしまうことだってある。
私がキャプテンである必要性ってなんだろう――と、悩むこともあるのだ。
――――――
「次で、決めなさい」
開口一番、腕組みした監督が私とマリチカに視線を合わせて、そう言った。
「……私からは以上よ」
全員の表情を見回したあと、問題ナシと判断したのだろう、監督はそのままパイプ椅子にどかっと腰を下ろし、長い足を鋏のようにさっと開閉させて足を組んだ。恐らく、監督がタイムアウトを取ったのは、私たちに何かを伝えるためではなく、相手の流れを断つためだったのだろう。そうして試合を仕切り直せば、私たちなら自力で状況を打破できる、と考えている。
ならば、私は主将として、監督の信頼に応えねばならない。あるいは、これが監督の与えた試練だとしても、同じこと。乗り越えるべく力を尽くすまでだ。
「「ありがとうございました!」」
監督に一礼したのち、私は今後の方針を話し合うためにスタメンを集める。
「さて……と。決めろと言われたからには私はそうするつもりだけど、そっちは?」
「言わずもがな、ってねぃ」
「というわけで、美波、あとはあなたの判断に任せるわ」
「良きに計らえ、ね。オーケー」
確認作業は終了。本題はここからだ。
「で、その後のことなんだけど――一つは、藤本いちいね。打てる手があるなら、打っておきたいわ。さやか、あなたから何かある?」
「そっすね……もっさんに限った話をすんなら、今のままだと後手っす」
言って、さやかは和美へ目を向けた。和美はさやかの意図を理解したようで、にへら、と表情を緩ませた。
「じゃあ~、さーちゃん、わたしと場所代わろっか~」
「柴田っさんがいーなら、お願いすっす」
「構わぬよ~。さーちゃんの好きにやっちゃって~」
「あざっす」
どうやら二人の間で既に対応を練ってあったらしい。その事実だけでも安心できる。さやかと和美が動いているなら、私があれこれ口を出すまでもない。実際、そうと決まるや、さやかは細かく指示を出した。
「もっさんのブロックっすけど、とにかく隙間を作らないように。あと、できれば常に三枚ほしいっす。マリチカさん、いけっすか?」
「あたぼーよ」
「しくよろっす」
ふーぅ、とさやかは集中を高めるように長く息を吐いて、あたしからは以上っす、と軽く頭を下げた。細長く垂れるツインテールが波打つ。その狭間に浮かぶ表情が少し硬く見えるのは、相手が同期の藤本だからか。しかしそれも、幼馴染みの愛梨がさりげなく後ろに立って何か囁きかけると、すぐに和らいだ。うん、問題なし――と。
「じゃあ、守備については、今さやかが言った感じで。それと、決めておきたいのはもう一つ。次のローテの攻撃のことだけど――って、ちょっと芽衣、さっきからどこ見てるの」
状況が状況だけに私は厳しめに言った。しかし、芽衣は――春先、ふと梅の花でも見かけたみたいに、うっとりとAコートのほうを見ていた――まるで悪びれることなく、優美な微笑を湛えてこちらに振り返り、言う。
「ごめんあそばせ。もがき苦しむ愚妹が可笑しくって、つい」
「つい、ってあなた……」
私は呆れを隠さず溜息をついて、こめかみに手を添える。まぁまぁまぁ、と場を取り成す美波。それは芽衣を庇うというよりも、私を労るためのものだった。私は有難くその気遣いに癒されることにする。
「まあ、そういう次第なので――」
胸の前で両手の五指をぴたりと合わせ、瞳にぎらぎらとした光を宿して、芽衣は言う。
「姉として、道を示してあげないとね」
ぱきぱき、と合わせた指が不穏な音を立てた。その漲るやる気をもっと早くに出してほしかったわ……などと、無意味と知りつつやや非難めいた視線を芽衣にぶつけながら、私はこっそり嘆息する。
なんだかなぁ……まったく、これだから音成に集う仲間ってヤツは――。
「……ええ、是非そうして頂戴」
私は肩を竦めて、苦笑する。
マリチカも、さやかも、和美も、芽衣も、それに愛梨だって――。
どうしてこう、みんな、私がとやかく言うまでもなく、各自が独自にやるべきことをやってしまうのかしら?
私がキャプテンである必要性、あるかしら?
「いつもお疲れ様です、つばめ」
「肩揉んでくれる、美波?」
「ヘーイ、お安い御用で!」
ぐにぐにぐに、と美波の指が器用に私の凝りをほぐしていく。その手が肩ではないところへ移動しかけたところで、ありがとう、と私は払いのけた。「約束が違うよ! この人でなし!」と美波が涙目になっているが、今は放置。私は腹筋に力を込めて、気炎を吐く。
「――全員、状況はわかってるわね!」
「あいよ!」「ヘーイ!」「はい!」「うっす」「お~」「ええ」
「やること頭に入ってるわね!」
「あたぼー!」「ヘイヘーイ!」「はい!!」「っす」「おお~」「ええ」
チームの危機に、誰もが己で対応策を講じる。
そんな頼もしい仲間に囲まれて、キャプテンである私がすべきことは何か。
「ならば良し――だったら後は、実行あるのみッ!」
「「応ッ!!」」
この一騎当千の曲者たちを、バラバラにならないよう、束ねておくこと。
「成女おおおおおおお!!」
そのために私は、今日も声を張り上げる。
「「ぶぅぅぅっっっっっ――殺おおすッ!!」」
……ところで監督、この掛け声、保護者からクレーム入ったりしませんかね?
『A-14』も更新されています。↓
https://book1.adouzi.eu.org/n5390ct/338/




